最終章 第十一話 もはや敵は無く
今回は短くなりました。
次回、長くアクションの多い回となります。
包み込まれるハエ。
ハエ、ハエ、ハエ。
ベルゼブブの助言に、快は耳を貸す事すらできなかった。
余裕さえも殺されるような、夥しく、これまで見向きもしなかったような矮小な存在――その群衆による熱殺。
吐き出されていく二酸化炭素も、薄まっていくような感覚を覚えたところで快は死に物狂いで歯を食いしばる。
必死に、ベルゼブブの助言を思い出し、反芻し――想起したのはある体験。
(あの、指輪の鎧を着ていた時に流れ込んできた情報、風や炎の魔術を使う時のようにすればいけるか……?)
快は、目を瞑り、あがくことを止めて大の字に寝る。
その様子を見たベルゼブブは呟いた。
「どうした? ハエが死ぬのを待っても無限にハエが後からやってくるし、なんならハエの体には蛆が詰まってる。僕が操っている以上は何度も何度も、この疑似的な蜂球を作れる……時間稼ぎは無駄だよ?」
ベルゼブブが手を伸ばし、更なるハエを放つ。
さながら、ハエの小竜巻。
ハエの小竜巻を受け続け、もがいている時でさえ、快はひたすらに念じる。
意識を、物理的な肉体から、脳内、その奥へ、魂の奥へ、自身の心の奥へ――もはや、意識が死んでいるのではないかとさえ思う程に、意識の根幹へと近づかせていく。
念じ、自らが――込み上げてくる“何か”を練り上げ、放出し、操る事をイメージすると、快の手は自然と伸びた。
ハエ蜂球の中、伸びた一本の黒い柱。
ベルゼブブがじっと見据えていると、放ったハエの竜巻の数が多く――否、吸い寄せられている事に気付く。
「まさか……こんな短時間で掴むとは恐れ入ったね」
ベルゼブブは手を止める。
すると同時に、快の体は緑色に発光した。
黒に覆われた体の隙間から、黄緑色の光が漏れ出ると――快はハエから解放される。
解き放たれたその身、毛髪は一部が黄緑と灰色の線が入ると、元の姿に戻った。
「こういう、ことか……ベルゼブブ」
快が呟く。
自身の姿を映した快の先天鏡も黄緑に染まっているのを見ると、ベルゼブブは固唾を飲みつつ――言った。
「ようこそ、古代の魔神の世界へ……ってところかな?」




