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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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最終章 第六話 狂えども

God, that hand! The window! The window!

 時間にして、数分。


間を置いて、三人は料理が来るまでしばらく黙っていると、沈黙を一名が破る。


「あのさ、ターバートゥって何? 僕聞いた事無いんだけど……ちははしってる?」


「あたし知らない、どこの料理?」


 ちはが首を横に振ると、棕も首を傾げた。


「どういうのだろ、気になるから兄貴、来たら一口頂戴!」


 棕が笑って言うと、グリードは頷いて椅子の背もたれに深く腰掛け、答える。


「あぁ、気になるだろうな。だって、今時頼む方が珍しいしな。“メソポタミア料理”なんて」


「めそぽた……? コンポタみたいなもんか?」


 棕が返すと、グリードが噴き出すのを我慢するかのように口を抑えて笑いだす。


その様子の意味が、解らないような棕に目を向けると、尚の事笑いがこみ上げているようだった。


「いや……テレビで聞いたことがあるけどメソポタミアっていうのは、確か今でいうイラクの辺りにあった古代の地域だよ。地域固有の文明発祥地」


 快が説明すると、ちはが口を挟む。


「でも、メニューにはそんな名前の料理なかった……なのにあの店員さん、すぐに理解してた……何者?」


「メソポタミア……ハエ……今ので、店員の正体が掴めた。わかった」


 グリードが言うと、快が首を傾げる。


何かを聞き返そうと口を開けるが、突如光輝くテーブルに気を取られ、視界を一瞬奪われてしまう。


 目の前には、全員の頼んだものが、円を描くように置かれていた。


小盛りのチャーハンに、豚骨ラーメン、天津飯……その隅には中華料理に見られないような、異彩を放つ赤いスープ。


「来た!」


 快が瞳を輝かせ、声を揃えて、合掌すると三人は料理に添えられた箸や蓮華を手に取り、口に運んでいく。


「天津飯の餡が、とろとろ……出汁も効いているし……」


 ちはが目を輝かせて言う。


「これこれ! ちょっとくどいけどそこがいいんだよなぁ!」


 棕はラーメンをすすり満足げに言うと、グリードがゆっくりと蓮華でスープを掬い――食べる。


「この味付け、まさしく“本物”だな」


「どんな味? んぐ……もきゅ」


 快が訊ねると、グリードが笑って返した。


「いいや、これはメソポタミア、ウルク近辺で親しまれていた料理でな。今どき再現しようとする輩も居ないし、再現したとしても少し違った味付けになるはず。要はリメイクされてるはずなのに昔食べた味とそっくりそのままだったんだ」


 棕が物欲しげに、脂ぎったスープまみれの口を吹きながら見つめていると、グリードが横に置いてあったスプーンでターバートゥを掬い、口に入れる。


「んぐっ……すっぱ!」


「そう、“酸っぱい”だろ。それもその筈だ。これはワインビネガーの味だしな」


「へぇ……」


 快がチャーハンを食べながら、そう呟いた時。


――周囲が、ざわめき出す。


 快がざわめきに気を取られ、慌てだす人外達に視線を送って行くと、再び快の身を頭痛が襲う。


一瞬の片頭痛に耐えると、人外達の声が、人間の言葉として認識できるようになっていく。


「おい! 窓を見てみろ!」


「なんだありゃ!」


「誰だよ擬態魔術もしないで来たの!」


「いや馬鹿か! あんなでかいの知らねぇぞ!」


 人外達の言葉は、どれも窓から見えるものを指している様子だった。


 快が窓へ顔を向けた刹那。


巨大な影が、窓硝子を破り――快の視界を暗黒へと塞いでいった。


「あえ……なんだよ……? あのデカブツ……」


 棕は、破られた窓を、蒼白と化した顔で眺める。


その隻眼に捉えられたのは、巨大な怪物だった。


 虹色の光沢を放つ、ぬめりけを感じさせる手。


棕は、その巨躯は――魚のそれに似た鱗に覆われている事に気付く。


それと同時に、圧巻されるべき悍ましい巨体を覆うものに、圧倒的な吐き気と、絶望に似た感情を覚える。


「……あれ、あれ……あれ!」


 ちはも気が付いた様子で、指をさす。


鱗に当たる部分には、イルカや、クジラといった水棲動物の死体が組み込まれており、ところどころで魚人の白骨死体のようなもの、魚の死骸などもそれの皮膚を構成していた。


 形容すべき言葉の見当たらない者。


名状し難き、怪物がそこには出現していた。


 口からは、煙を吐き出す。


同時に、涎の様に落ちていく――正体不明の白骨死体が、地面に落ちていき、動く度に鳴る地響き、体がぶつかる度に倒壊していく建造物たちから、それを見た者は認めざるを得ずにいた。


 怪物の存在、そのものを。


「ひ、怯むな! あいつは一匹!  擬態魔術も出来ない下等な悪魔だろ! 俺達が行けばなんとかなる! かかれ!」


 鋭い牙を生やした、ボディビルダーのような体格の男がそういうと、窓から怪物に向かって飛んでいく。


それに釣られるように、数々の人外が飛び去って行った。


 その光景を、見て何かを察したグリードと、店員の声が重なる。


「「よせ」」


 声を上げるのが遅かった。


 人外達は空中で、各々の拳から炎や硫酸、あるいはどこからともなく剣や斧を取り出し、躍りかかっていく。


狙いは、怪物。


「ぬあああああ!!」


 怒号と共に、攻撃魔術を一斉照射する。


が、怪物は何も動じている様子はなかった。


「嘘だろ? 皆……総合脅威度B、一時間で国一つを滅ぼせる程度の力はあるはずだってのに!?」


 斧を持っていた、吸血鬼属の男が呟く。


振り上げた斧は、折れてその断面からは煙が上がっていた。


 怪物が、少し背中を曲げた瞬間。


全身の、穴という穴から、光線が放たれていった。


光線は、人外達を撃ち落としていき――やがて死体が残る事すら赦さぬように、消し炭になっていく。


 常人が見れば、発狂するに違いない地獄絵図が、そこにはあった。

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