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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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最終章 第五話 歩んでいく

お久しぶりです、日常回の続きになります。

 棕の弾む足に、快は軽やかについていく。


それに連なって、グリードとちはが二、三歩遅れて歩道を歩む。


 棕が雑貨店を右に曲がると、従って三人は、都内の中心らしき場所に入っていった。


数件のビルを通り過ぎ、喧騒の中心だった繫華街を抜けていくと、ビルと一体になっている飲食店が見えてくる。


 それは、ウインドウが小綺麗な光沢を放つ、ファミレスだった。


 ファミレスの自動ドアが棕の目の前で迎えたところで、棕はそのドアへと入って行く。


 棕の後をついていた、三人の様子は、若干の違和感を覚えているに違いなかった。


(あれ? 中華料理屋の筈じゃ……いや、チェーン店かも)


 快の考察は、入って行くファミリーレストランの看板によって打ち砕かれることになる。


 看板に書かれていたのは、“イタリアン風レストラン”の文字。


ますますの、疑問と違和感を覚えつつ、ただ三人は店内を突き進んでいく棕の背中を追っていった。


「いらっしゃいませ!」


 受付からの視線を、無理矢理に突っ切るように棕は、奥へと進んでいく。


 言いようのない申し訳なさと、罪悪感に快は何度も受付の店員に会釈して、ついていった。


 棕が行った先は、天上から下がった看板、その下の上がり階段。


仄暗く狭い階段を、黙々と昇って行った先は、赤い蛍光灯のある扉。


扉の前で、棕は三回ノックする。


 すると、扉の奥から声が聞こえてきた。


「合言葉ぁ」


 声も変わらぬ、高い少年の声。


 棕は、それを聞くと声に答えた。


「フライアウェイ!」


「ししっ、どうぞ」


 声と共に、扉から開錠される音が階段中に響く。


 棕が扉のノブを回していくと、色々な食欲をそそるであろう匂いが解放されると同時に――驚くべき光景が広がる。


 客人は、全員人の形をしていた。


が、羊や山羊などの獣の角を生やしていたり、肩甲骨に当たる部位から羽を伸ばしていたり。


全員、椅子の背もたれに当たる部分の穴から、尻尾や触手を垂れさせ、山の様な食事をテーブル一杯に並ばせていた。


皆、人でないことは誰の目にも明らかで、縦横無尽に飛び交う言葉はあらゆる言語に近いように感じさせるが、あらゆる言葉から遠いようにも聞こえる。


「えっと……ここって」


 快が棕の背中をつついて訊ねると、棕は振り返って返す。


「あぁ、言ってなかったっけ。ここは天護町の人外中華料理店だよ、つっても、色々なもんだしてるけど」


「……え?」


 ちはがそれを聞いて、白目を向き後ろに倒れかけるが、グリードは背中を持ち、無理矢理立たせる。


快も、ちは程では無いにせよ、驚きを隠せない様子で店内を舐め回すように見ていた。


「いらっしゃいませ、何名様で?」


「うあっ!?」


 突然声をかけられ、快は店内の入り口近くの床に尻もちを着く。


話しかけられた方角を見てみれば、緑髪緑目、灰色の肌の少年がギザギザとした牙のような歯を向け笑っていた。


 手に持っているのは、注文票。


この店の、店員に違いなかった。


「お、今日は四名ね。そいつは連れだよ」


 棕が快の肩から首を伸ばし、言うと店員は注文票を軽く指でなぞり、手を伸ばす。


伸ばして向いた先は、空席の窓際のテーブル。


「お席ご案内します」


 そう言うと、店員は体を――羽音と共に拡散させた。


「ひっ! いきなりバラバラに!」


 ちはが驚くと、棕が笑って背中を撫でる。


「大丈夫、あの店員さんは体がハエで出来ててね、あいつにとっちゃ歩いてるだけだよ」


 ハエの集合体となった店員についていき、各々が席に座ると同時に氷が目いっぱいに入った水が配られた。


各々の目の前で、突然出現したかのように。


「ごゆっくりどうぞ」


 店員は人型になってそれだけ言うと、再び体をハエへと変え、どこかへと飛び去って行った。


(なんというか……変わった店だな……)


 快が水に手を出そうとすると、ハエがふと目の前で飛び回る。


 ハエの大きさは、大体十ミリ程度で、その見た目は体が深緑に輝き、光沢を放っていた。


ハエによくあるような尻の丸みは無く、細身で、どちらかというと羽アリを彷彿とさせる。


ただ、丸い複眼とその頭が、己をハエだと主張して、透明な羽はうっすらと“何か”を描いているよう。


 目の前にするぐらいでは、不思議と快にとって不快感はしなかった。


(あの店員さんのかな? 潰さないでやろ)


 大人しく、コップを握り水を飲んでいると、手の甲でハエが止まる。


手の甲にハエが止まると、ハエはどこかへと飛んでいく。


快の隣の棕と、グリードも同様にハエが止まっていたようだった。


「うちはもう決まった、兄貴は?」


 棕が向いた先はグリード。


「兄貴?」


 グリードが小首を傾げると、棕が笑って言う。


子供のような笑顔だった。


「いや、なんかしっくりこなくない?」


「……懐かしいな。あぁ、いいよ。……さて、俺も決まった」


 ふと、グリードが零した一言に、快が二人の間に挟まる。


「兄貴って、呼ばれる事が昔にも?」


 ため息と共に、グリードが背もたれに寄りかかって答えた。


「あぁ、そんときは別の名前を名乗ってたっけ。呼んでくれた奴は、死んじまったけど」


「悪魔属じゃないけど、兄貴長生きそうだもんな」


「……まぁ、な」


 グリードが一瞬目を逸らし、窓を見つめる。


その手には、水の入ったコップ。


コップを一口、飲むとグリードは快の方へ視線を送る。


「快、お前は決まった?」


「うーん、じゃあこの半チャーハンを頼もうかな……」


 快が指さした先には、半チャーハンの写真が載せられたメニュー。


値段は三百円と表記されていた。


「じゃああたしは天津飯」


 ちはが言うと、棕がベルを鳴らす。


 数秒と経たず、店員が受付の柵を飛び越え、客の挟んでいるテーブルをかいくぐって来るのを一行は見届けた。


店員が快らの前で人型になると、店員は一礼した。


「合計千八百円になります」


「え」


 店員が笑みを浮かべると、快が困惑を示す。


 対して、グリードは笑って顎を擦った。


「……なるほど、な」


「ここは注文が決まると、言う必要なく大抵料金だけ求められるんだ」


「一体、どうやってそんなことを?」


 快が問うと、棕は小首を傾げる。


「さぁ? 監視カメラ越しにでも聞いてるんじゃね?」


 棕が言うと、グリードは店員の去り際、人型であるうちに指を鳴らし、笑みをたたえて言った。


「……追加だ、“ターバートゥ”も頼む」


「……? 何言ってるんだよ?」


 棕が言ったのも束の間、店員が後ろを振り向き、返す。


「かしこまり……ました……」


 その店員の声は、どこかその場の四人にとって、恐怖の感情を帯びているように聞こえた。

次回、アクションシーンが多くなります。

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