最終章 第四話 笑っていようと
日常回です。
戦争が、起こる。
アムドゥシアスが放ったその一言に、一同は凍り付く。
「どういうこと?」
快が問うと、アムドゥシアスは語りだした。
「その力を狙う者、あるいは邪魔に思う者が…………特にこのご時世、境界が緩くなっている以上、移動しようと思えばいつでも移動できてしまいます。ですから、きっと……ばれてしまえば、直接あなたの方へ向かう者が現れるでしょう」
「という事は……あまり、大々的に使ってはいけない、と」
快が返すと、アムドゥシアスは唸り、続ける。
「しかし、その力がどういう条件で使われるのかが、問題ですな……見に覚えのあることは?」
快は、顎を擦り、考え込む。
(そういえば……大体は僕が危機的状況の時に発動している……けどなんでだろう。何も思い当たる節がない……法則性も無いし)
快が考えていると、棕が頭を掻きながら話に割り込んだ。
「なぁ、思った事言っていい?」
「どうぞ」
棕は、軽く会釈して言う。
「快が行く先々って、アムドゥもそうだし、その前のバエル? シトリー? もそうだったし……なんか悪魔が多くね? まるで快の方が釣られているような……」
「いや、僕が行ってるところは……どこも以上は無かったし、なんなら……既に自分たちの意思で集まってる事が多かった。だから、別に僕の行く先々って訳じゃないと思うけど――」
快、棕、アムドゥシアスとで話し合っていると、ちはがと棕の間に、割り込んで入ってきた。
「あの……お腹、空いたんで……もうどっか行っていいですか?」
「俺も俺も、酔いも冷めたし、難しい事に使った分の糖分もすっからかんだ」
グリードとちはが言うと、棕が何かをひらめいた様子で、口許に弧を描かせる。
「おっしゃ! じゃあ丁度うちもお腹空いてたし、皆で飯いかね? おすすめの中華店、知ってるんだぁ!」
棕は手を叩き、自転車のハンドルを握り脇に添え、歩きだすと後ろの三人の方を向く。
一瞬、三人は首を傾げると――快が一歩、前に出た。
「行こうよ、皆」
快が笑みをたたえて言うと、グリードとちはが顔を合わせる。
グリードが笑むと、ちはは頷き、正面を向き――前進する快に歩幅を合わせて歩み始めた。
「うちが昔、アマチュア時代から世話になってる店でさ、あそこのラーメンと餃子、チャーハンは格別に多いし美味いし……食事といえば、もうあそこしか勝たんっしょ」
棕が三人の方を向きながら、ゆっくりと、楽し気に話す。
その様子に思わず三人の表情は、ほころんでいた。
「あの、鳴深さんて……どんな曲歌ってるんですか?」
ちはの発言に、快は目を丸くする。
信じられない、とでも言わんばかりの顔だった。
「ええええ!? 知らないの? “blue rose chein” は?」
快が大声で叫び問うと、グリードが噴き出すのを我慢するように、口を抑えて笑う。
ちはは、素直に横に首を振って、答えた。
「知らない、だって……ほとんど音楽聞かなかったもん」
ちはは、こっそりと快に耳打ちして付け足す。
「顔はいいと思うけど。あれナチュラルメイクだけど、天然のブルべ肌……すっごい白いし、顔も小さいし」
「……ブル、なちゅ……へ?」
いきなり、快の知らないであろう単語が、連続で聞こえてくる状況に、思わず戸惑う。
横から聞いていたグリードが、歩きつつ笑っていった。
「へっへっへ、快、知らない言葉をあんまり使ってやるもんじゃあないぜ。そういう事で返されるから。ブルべってのは、ブルーベース。要は西洋人なんかに多い、血管が青く見える白い肌で、ナチュラルメイクはざっくり言うと割と薄化粧ってこと」
グリードが言うと、棕が笑顔で返す。
「やめろって、たまたま人に会うことないからこうしてるだけ。あー恥ずかし」
談笑と共に進める歩み。
快にとってそれは、軽やかなものに違いなかった。




