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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
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最終章 第三話 謎追って

投稿遅れましたが、次回から定時22時に更新します。

 道を歩いていると、グリード、快にとって聞き馴染みのある声が響く。


 どこまでも轟くような声は、住宅街を抜けた先の、摩天楼群の隅から聞こえていた。


「この声! グリード、ちょっと行ってみようよ!」


 言葉よりも早く、快の足はその方向へ伸ばされると、グリードは両手を後頭部へやる。


「行ってみよう で済むといいけどな」


 ゆっくりと伸ばされる、長い足は快の走る速度よりも遅く。


 たたえた表情は、我関せずの意を表しているに違いなかった。


 一方で、ちはは頭に疑問符の浮かびそうな首の傾げ方をして、グリードと快の後をつく。


(どこへ行くんだろ、さっきから、皆を復活させるって言ってみたり、ホテルに行こうって言ってみたり……わけわかんないけど……行くほかないか)


 ちはの思いは、胸にしまいこみただついていく。


 晴れ空の下、大小さまざまなビルと、その上や液晶についた、グロテスクにすら感じさせる色とりどりの広告、看板。


 ビルの下の歩道は住宅街とは打って変わって、広く、建物の壁に覆われた箱庭のようで、街路樹が道路と歩道を区切る。


 三人が歩いていると、その中で、喧騒の中心を生み出している人物が見えてきた。


 道路側にはパトカーが駐車されており、歩道側には自転車と、二人の警官と、灰色パーカー姿の人物が雑貨店の入り口前で話し合っている。


 警官は淡々と、メモを取っており、一方でパーカー姿の人物は雑貨店の名前が入った袋を手に提げながら、白い顔を真っ赤に染め、大きく口を開けて叫んでいた。


「だーかーら! うちはやってないって! ただでさえ目ん玉一個しかないのに最後の一個も見せかけの節穴だってのかあぁ!?」


「落ち着いてください……鳴深(なるみ)さん……」


 警官が、名前を呼んでなだめていると快は確信した様子で、割って入る。


「棕!」


 快の呼び声に、棕は反射的に快の方向へ首を向けた。


「お! 快! 手足治ったのか!」


「お知合いですか?」


 警官がボールペンをグリード、快、ちはの方へ撫でるように向けると、棕が答える。


「おいボールペン向けんな無能! 話してんのこっちだろうが! そうだよ、ちょっと訳ありで。つか話こじれるからうちの方向けっつの」


「はいはい……では、確認しますね」


(何したんだろう?)


 快は静かに、様子を見守る事にした。


鳴深 棕(なるみ そう) 年齢二十七歳、肉体性別は女性、精神性別(ジェンダー)は中性。職業はロックミュージシャンで、身長百八十一センチ体重五十一キロ。えっと、容疑は……器物損壊の罪、だね」


 警官が言うと、棕は頷き、返す。


「だから、器物損壊じゃねーのに」


「何壊したの?」


 快が質問すると、棕が指さし、答えた。


 指さした方向には、小さな駐輪場。


 駐輪場の自転車は、一見すると誰の目にも何の異常もないように見えたが、所々ひびが入っており、サドルに至ってはほとんど真っ二つに割れている。


「冤罪だよこんなの! しかも見ろよ、うちの自転車も壊れてるんだぜ?」


 棕の隣に立てかけていた、銀メッキと紫の自転車は更に酷く、まるで全身から圧迫されたかのように複雑に折れ曲がっていた。


「はあ、でもあなたが触れて倒されたら、こうなったんでしょう? そのチューハイ缶袋が勢いよく当たれば、そうなるはず」


 警官が言うと、棕は頭を掻く。


「ああぁもう嫌になる! 確かにちょっと触っちゃってこうなったよ? けど、そんな勢いよくはねぇよって!」


(買い物してただけだろうに……可哀そうに)


 快がため息と共に、思いを巡らせて、駐輪場をじっと見つめる。


 すると、駐輪場の四台の自転車は――浮かび上がり、やがて全体のひびが治って行く。


「えっ……?」


 唐突な出来事に、周りを一瞬見るが、誰も居ることもなく。


 認めざるを得なかった。


 自分がやったのだ、と。


 一方、一部始終を、黙って快の後ろで見ていたグリードは歯を輝かせ、笑んでいた。


(なるほど、な)


 快は、警官と、棕の服の裾を両手で僅かな力で、引っ張ると、か細い声で言う。


「あの……あれ、見てください」


 快が指さした先には、何事も無く、立ち並んでいた自転車達があった。


 新品同様に太陽に当てられ、光沢放つ自転車はありありと、自分らの身には何もなかったと言わんばかりに主張する。


 棕の、無実を。


「あえ……? なんで?」


 警官は、思わずボールペンとメモ帳を手に放す。


 付き添っていたもう片方の警官はすぐさま駐輪場へ駆け寄り、自転車を舐めるように様々な角度で見渡す――が、どうやっても異常は見られなかった。


「あ……は?」


 一番驚いているのは、棕だった。


 棕が目を丸くし、唖然としているとグリードが歩み寄り、袋の中の物を開ける。


「ちょ、うちのチューハイ……」


「失礼」


 グリードは一言だけ言って、缶を開けて一気に飲み干すと、ボールペンを手に取る警官の肩に手を置く。


「おい、お巡りさん?」


「な、なにかね」


 グリードが警官の胸を、指で優しくつくと目を妖しく輝かせる。


「お勤めご苦労様。随分と働きもんだな? まず、あの袋の中身の重みからして、遠心力が加わってああなったとしても一台の自転車に精々傷が付く程度だと思うが、違うか? それに、不思議だとは思わねぇか? こんなただの一般人風情が、わざわざ自転車の破壊に勤しむか? じゃなんでそうするんだ? 酒の勢い? こいつ素面だぜ?」


 問い詰めるグリードの表情は、真剣なもの。


 警官は、蛇に睨まれた蛙の如く――怯え、帽子に隠れた額からは脂汗が流れていた。


「あの、グリード……別にそこまで怒ってないって」


 棕が両手を振り、言うとグリードが一瞬棕の方を睨む。


 “黙れ”という、言葉の代用に違いなかった。


 再び向き直して、警官に顔を近づける。


「賢いな、怪異に出くわした奴に適当な容疑をなすりつけて、Fencerに連行するつもりだろう?」


「……ふぇ、Fencerなんて知らない!」


 グリードが、視線をそのままにパトカーの窓を指さして言う。


「あっそう? じゃあ……なんでお前、パトカーの中身、自衛隊以上攻撃的な奴なんだ?」


 警官が逃げるように窓に視線を逸らす。


 その中身は、小銃、散弾銃、大砲が、後部座席の後ろの空間に敷き詰められていた。


 じっと、グリードが見つめ、パトカーの窓へ追い込むと、警官は言う。


「Fencerは、壊滅した……代表が、殉職したんだ。怪異に対しての対処は、まだマニュアルが配られていなくて……だから、こいつを……さっさと逮捕すれば――」


 何かを言う前に、グリードは睨んで返す。


 正面の警官だけでなく、駐輪場に居る警官にも。


「警官という組織を重視する仕事の癖に、独断で行動するな……出しゃばりが過ぎれば、見失うぞ? その仕事の意味を」


 警官は、怯えた表情で、パトカーに乗り込んでいく。


 逃げるかのように。


 それを見届け、グリードは後ろを向くと、棕は口を開けて拍手した。


「……ひゅー、チューハイ代以上の働きっぷりだよ、あんた」


「そりゃどうも。じゃも一本……」


 グリードが再び袋に手を伸ばすと、棕は袋を引く。


「以上つってもおつりで買ーえーません! でもそれ以上に……」


 棕が後ろを向くと、無言で立っていた快に歩み寄る。


「快だよ、快! お前どうやったんだよ今の! やっぱり例の、ジェネルズを倒したときの、魔術か?」


 髪の毛を散らかす様に、棕はしゃがんで快の頭を撫でまわすと、快は笑って答える。


「あはは……でも、それが何で発動したか分からなくて……実は、僕には神の力を操る力を使えるらしくて……でも、その条件がわからないんだ」


 快が言うと、棕はパーカーのポケットから銀のカードを取り出す。


 印章封印札(シジル・カード)……悪魔と契約・使役する為の札であり、会話が可能なものである。


「アムドゥ、お前なんか知ってる?」


 印章封印札越しに、声が返ってきた。


「うーむ、いいえ。ただ魔術と言えば、魔界ではなにやら、名のある魔族が一時魔術・魔力を使えなかったり、また治ったりといった症状が出ているみたいですが」


「あ……じゃあ、謝ってくれないかな……多分、僕のせいだから」


 快がアムドゥシアスに言う。


「え? ……えぇ……なんですって?」


「多分、僕の力だと思う……神の力っていうのは、広いらしくって」


 アムドゥシアスは、思い出したかのように大声で返す。


「体調不良を訴えているのは、どれも魔神と呼ばれている方々……だとしたら!! このことが大々的に知れてはいけませんよ!!」


「んー? なんで?」


 棕が気の抜けた返事をすると、アムドゥシアスは、固唾を飲んで返す。


「こっ、これから……戦争が……起こりますよ」

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