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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
最終章 The Toboo summoner
72/117

最終章 第零話 彼は、いつもワラっていた。

始まってしまいました、最終章が。


長きにわたる、冒険がいよいよ幕を閉じようとしています。


閉じるまでの間は、いままでよりも長くなりそうですが、何卒お付き合い願います。

 

 鬱蒼と、木々の生い茂っていた山の一角。


 そこには、気絶した一人の少女と、二つの人外の姿があった。


 巨大な角を生やした、魔王――プエルラ。


 その隣には、倒れ掛かった木に寄りかかっている銀髪黒衣の魔人――グリード。


 二者共に、遠方から戦いを覗いていた。


 片や、感情移入したかのようにじっと、時折瞳を動かし。


 片や、ただ無機質に傍観するばかり。


「見えているのか、貴様」


「あぁ、見えている。良くもまぁあんな狭いところで転げ回れるもんだ」


 二者が見つめていた先は、液状の、人間の少女の形に近い塊と少年が殴り合う、住宅街。


 お互いに殴り合い、できた傷や土埃を纏い、汚れる事を厭わず、ただ一撃を与え合う。


 泥試合に持ち込まれたかに見えた、その勝負は――少女(ポグロムア)が近くの屋根の上に乗った所で、決まろうとしていた。


 快の気づかぬ背後に、車が迫って居たのだ。


 快が後ろを向こうとした瞬間――プエルラは咄嗟に指を鳴らす。


 すると、音速を越えた速度で一本の剣が、プエルラの目の前に出現した魔法陣から放たれていった。


 剣は、丁度地面に突き刺さり、車を停止させると快はそれを引き抜く。


 プエルラは、それを見て密かにほくそ笑む。


「おい、魔王」


 プエルラが声に気付き、振り返った時。


 無言で見つめていた、グリードがプエルラに音もなく近づいていた。


「なんだ?」


「……お前は魔界の支配者、地上界には何にも関係ないよな?」


 グリードが、緑色の瞳を妖しく輝かせ、問う。


 プエルラは対して、グリードを見下ろし答えた。


「だな。だが、害のある者を倒そうとしている者が目の前で――しかも、あんな小さな子供がだぞ? 見かけてしもうた以上、少しでも力を貸してやらねば、余の恥だ」


「そうか、いや失礼……失礼極まりないのは、お前だけどな」


 グリードの発言に、プエルラは眉を一瞬ひそめる。


何故に(なにゆえ)


「子供だから? それがどうした。あいつは一人の人間だ、生き物だ。どうあれ自分の力で生きる事はできるし、もうこれ以上助力してやる必要もなかっただろう」


「それでも、勝利の可能性を――!」


 プエルラが言おうとした瞬間。


 グリードの、緑目が睨む。


「そうだな、勝利の可能性を引き出す必要はあったな。だが、もう能力を封じられてるならあれらはもう同じ土俵に立って、自分たちの存在証明、意義と意思を暴力に頼る生物に過ぎない。なら、そこには誰も介入されるべきじゃないんだ」


 歯を食いしばり、グリードを睨みプエルラは反論する。


「だが、快が敗れれば、能力が解除されるやもしれんぞ? それに、万が一殺されてしまった後お前はどうするつもりだ? 仲間なのだろう?」


 グリードが、次に言った一言は、プエルラを戦慄させるものだった。


「どっちが勝とうが、もはやどうでもいい」


「……なんだと?」


「対等な奴らが戦って、生き残った方を俺は称える。死んだら死んだで結構。所詮はその程度だったって訳だ」


 鼻で笑い、グリードが再び正面を向けようとすると、プエルラは低く、声を唸らせる。


「お前、情が無いのか?」


 プエルラの言葉に、一瞬グリードの耳が動くと――グリードは笑う。


 そこには、一切の感情も無い、得体の知れない、プエルラにとって理解の追いつかないものだった。


「情なんてあったもんじゃない。そうしなきゃ、俺の欲しいものが手に入らない。……強いて言えば、そうして非情、冷徹で居る事が、両方に対する最大の温情だよ」


「理解できない、お前程訳の分からない奴を見たことがないな」


 冷たく言い放つと、グリードが語った。


「俺は、全て命は等しく、尊いものだと思っている。そこには、種族の垣根は関係ない。アレ(ポグロムア)でも、あんな奴(かい)でも。だが、どうしても争いってのは発生する。どっちかが侵略者っていう単純な事ならともかく、両方の意思で、両方が拮抗した条件で、あるいは食うか食われるかなら、互いを滅ぼしあおうとしているのなら俺は全く干渉しないことにしてるんだ」


「もし、例えそれがお前の仲間同士でも、か?」


 当然の様に、即答する。


「あぁ、どうでもいい。滅ぶなら滅べ、俺は贔屓したりしない」


「そう、か。お前はとことん冷たいのだな……」


 返すプエルラの言葉は、どこか悲し気だった。


「現に、今戦ってるポグロムア……あいつはさ、俺の妹なんだ。ついでだから言っとくと、ジェネルズは俺の兄弟……双子の兄弟とでも言っておこうか」


「……なら、一つ問わせてもらおう」


「何?」


「何故、暴走する兄弟達を野放しにしていたんだ?」


 グリードは、プエルラの問いに瞳を強く輝かせる。


「まず、ジェネルズとは、昔から戦ってた。俺の禁忌権の空間中で、結界魔術を何十にも張って永遠にな。……が、俺が本気を出しすぎて空間ごと結界が壊れてな……その時の衝撃波で、境界は壊れ、地上界に偶然繋がった空間の裂け目に、ジェネルズの欠片は隕石に乗った。あれでもう五パーセント程度の力しか残ってなかったってのに、快と戦った時には四十パーセント程の力が回復してて驚いたよ」


「待て、つまり……お前のせい、なのか」


 グリードが頷くと、再び語った。


「ポグロムアはこの世界に絶望しきってた。けど俺らが好きで好きでしょうがなかった。だから、ポグロムアに関してはお灸を据える程度に昔宇宙で本来の肉体を消滅させるだけにしておいたんだが……まさか、地球であんな姿で生きているとは思わなかった」


 段々と、プエルラの額に汗がしたたり落ちる。


 緊張感と、寒気に身を委ねていたに違いなかった。


 飄々として、得体の知れない、世界の守護者を名乗る者が、真の意味での――“銀髪の怪物”であったのだ。


「何故、ポグロムアだけ肉体を消滅させるだけにしたんだ。何故お前は、そうまでして――この世界に執着する!?」


「……それは、追々言うさ、いつか。な……尤も、そのいつかまでお前が生きていればの話だが」


 グリードが微笑むと、プエルラは頭上に魔法陣を展開する。


 すると、魔法陣の中に、プエルラの頭から徐々に姿が消えていった。


 完全にプエルラが姿を消すと、グリードは後ろを振りむき、口笛を吹く。


 歩いていった先には、転がるちはの姿があった。


「おい、いつまで寝てるんだ寝坊助少女。寝る子が育ちすぎて四十メートルになっちまうぞ」


 ちはの服の裾を持ち上げ、揺さぶるとちはが慌てた様子で目を覚ます。


「わわわわわわ!! おはようございます!!」


 慌てたちはの様子を見て、グリードは――笑った。

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