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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
終焉の続き
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第二章 第二十五話 宿命宣告

 

 月光を背にし、荒涼とした大地を踏みしめる巨大な魔王。


 吹きすさぶ、異様な風は魔王の外套をなびかせ、より巨大に見せるのを手伝って。


 魔王が口にしたのは、快の目を震わせ、体をこわばらせるのに十分な一言だった。


「快よ、お前の備えた力……それは、神性のある者の力を操る力だ」


 その発言の、あまりの衝撃に、時間が止まったような気さえさせる。


 納得――せざるを得ないとは理性で理解していただろう。


 しかし、快は、それを意識で受け止められずにいた。


 もし、仮にそうだったとしたら、と思考し、行きついた先が、絶望に近い感情を芽生えさせる。


「ということは……ジェネルズと……同じ……?」


 膝から、崩れ落ちる。


 その顔は蒼白だった。


「嘘だ……僕は、ただ――」


 咄嗟に出た言葉(おもい)の切れ端を、切り裂くように――友の声が耳に届く。


「おいおい、今更清廉潔白を気取るつもりか? バエルを倒して――いや、言い方を変えよう。“殺して”、家族だった奴も“殺して”、あのジャーマンマジシャンの犠牲も、結局都合の良い風に解釈しただけだろう? ジェネルズさえも手にかけて。お前、ただ生きていたいだけにしてはちと罪深すぎやしないか?」


 グリードの言葉が、快の、逃げ込みたがる心を捕える。


 猛獣の爪が、(いたずら)に――追い詰められた草食獣の子の腹を握り潰すように。


 はらわたに鋭く食い込んだ、言葉の切っ先は快の心を、一時的にでも瓦解に追い込むのに容易かったに違いなく。


 次に、血液と共に臓物が漏れ出るのと同様。


 快の目には、涙が溢れていた。


 ――が、それも一瞬のこと。 


 快は、流した涙を、目で嚙み潰すように。


 歯を食いしばり、答えた。


「……あぁ、そうだな。もう綺麗じゃないよ、この旅が始まった時点で、もう綺麗じゃなくなってるんだろう。それでも、僕は殺してきた者達の為にも……生きなければいけない、理由はそれだけだ……!!」


 快は、拳を握りしめ、立ち上がる。


 その顔は、周囲の全員の目にはまるで何かが吹っ切れたかのように思われた。


「ほぉ?」


 グリードとの問答を聞き、魔王は思わず関心を示す。


「ジェネルズとは、違うんだ。あいつも確かに、周りの人達を巻き込んだエゴイストだったかもしれない。けれど、僕はあえて周りの人達を犠牲にしようとは思っていなかった。結果そうなってしまっただけで」


 快のグリードへの言葉を、魔王は静かな声で問う。


「ならば問おう、貴様はその力、何の為に使う?」


 快の返答は、魔王とグリードの――期待していただろう言葉だった。


「僕の意思で……守りたいものを、守るために使う。必要ないなら、それに越したことはない」


「そうか、素晴らしい」


 魔王が微笑み頷く。


 魔王は目を瞑り、深呼吸すると快に再び語りだした。


「“神性”……魔王の器、天界の神々や冥府の神々、地上界の神々の持つ、共鳴の力。……古代の魔術師にとっては、喉から手が出るほど欲していた禁呪級の召喚魔術を成立させるのに必須なものだった」


「禁呪……?」


「脅威度で言えばA三以上とでも言うべきか。扱うには反動的にも、必要とする魔力量からしても危険すぎると判断され、発現させることが罪とされていた魔術の総称だ。それくらいの召喚魔術を簡易的に、即席で可能とさせるのには、神性が必要だった」


 魔王の語りに、グリードが混ざる。


「そこで、人々はかつて様々なものを代償に魔神の召喚を試みた。召喚魔術は、禁呪に近ければ近いものほど、己の欲するものに限りなく近いものを呼び寄せる事が出来た。だから人々は神性を求めて争い、あるいは生贄を捧げて宗教まで立ち上げた」


 魔王は、グリードの発言に頷き、続きを言った。


「ある時、とある人間はその神性を手にした。人間は、何を願い何を召喚したと思う……?」


 魔王が快に問う。


 快は、思考を巡らせ必死に答えた。


「……えっと、神性を思いのままに使う、とか?」


 魔王が目を瞑り、首を横に振ると、返す。


「“あらゆる時空の、神を超越した存在から世界を守ってほしい”というものだ……そして、その人間はその世界、その歴史から跡形もなく消え失せた」


「……消えた?」


「……何故消えたのか、はこの際重要ではない。実際、今でも謎に包まれておるからな」


 魔王は、快の目をじっと見据えた。


 真剣な、小さな眼差しを。


「快よ、お前がそんな力を手にした可能性があったとしたら、抗うか? 自らの消滅に。 先程言った通り、お前の生によって、この先不幸に陥る存在がいたとしたら? ……地上界では、居られないのではないか?」


 魔王は、声を低くして語る。


 まるで、誘導するような声色に――快は頑として返した。


「抗います。不幸に陥る存在が居るのなら、全力で助けます……神の力を手にしたのなら、神のように僕は躊躇う事無く使います。それが、例え誰の目にも止まらなくても……誰かが欠伸をして、誰かが食卓を囲んで、食事をして……そんな僕も憧れた日常を、守りたいんです」


 魔王は、目を丸くする。


 快の隻眼に、かつての自分を重ねずにはいられない様子だった。


(こやつ……まるで幼少の頃の余ではないか……魔王になり、あの王(レクス)を倒し……ユンガとの衝突で、魔界を統治し直すと誓ったあの日の余に……!)


 快が、魔王に言う。


「魔界に、連れていきたい? 僕は守りたいものを守ると言った。けど、僕のこの意思は……あなたの支配下に置かれる事で、義務になってしまうと感じたんです。そうなると、僕は……僕の求めていた、人間らしい生活ができなくなっちゃうんじゃないかと思って」


「……大した奴だ。この余を前にしてそこまで……」


 気が付けば、喋っている間に二者の位置は逆転していた。


 快の小さな背には、太陽が昇りだした黎明の山々が。


 魔王の背には、その山々の間から薄く照らされゆく暁が映る。


 その境界(あいだ)に、グリードは二者を見つめる事無く無言で立っていた。


「あいわかった。ならば……余は潔く帰るとしよう。快、お前の行く末に、幸多からんことを……」


 魔王は、腕を上げた。


 手の先には、灰色の魔法陣が突如として浮かび上がる。


 それは、ユンガが去るときに使用した魔術と、同じものであろう事は明らかだった。


 魔王が、快に振り返る。


「そうだ、一つ……言い忘れて居た――我が名はプエルラ・テネブリス。テネブリス家代六十五代目当主にして、現悪魔属魔王である――」


 魔王プエルラが名乗り終えたその刹那。


 魔法陣ごと、空が――()()()

第二章は残り僅か。


残された謎は、増えるばかり。


それは最終章への布石。


まずは第二章の終わりまで、どうか引き続き、お付き合いください。

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