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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
終焉の続き
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第二章 第二十三話 マッドカオス

神よ、神は何処に。


神威はとうに消え失せた。


竜も滅び、もはやあるのは――


――禁忌古文書 予言ノ一 第三篇より


 

 魔界。


 そこは、魔族が跋扈する、地上界とは異なる世界。


 紫色の空に、赤い月が浮かび、その下にあるのは地上界の歴史において、中世時代を彷彿とさせる造形の建物が立ち並ぶ。


 中には、洞窟と一体になった家もまた、存在している。


 魔界、悪魔属領テネブリス城にて、ある悪魔がその城で声を荒げさせていた。


 城の玄関、正面にある大階段前で、自身より身の丈の大きい悪魔属に対して、それは叫んでいる。


 声の主は、白髪を生やした頭に、黒い角を備え、人間の肋骨に似た造形の服を身に纏った、若き力ある悪魔――ユンガであった。


「ですから、姉上……いや、陛下! どうか考え直してください! 俺が思うに、彼は危険では――」


「いいや、危険だ。あやつらはどう考えても――魔界の脅威足り得るものになるだろう。それか境界が破壊された以上、はっきりと関係を示してもらわねばなるまい」


 落ち着いた声で、返される。


 金色混じりの、胸元の空いた黒外套を身に纏い、白い角を生やし、灰色の瞳と魔界の月に似た色の瞳を爛々と輝かせ、語っていた。


 その者の名は、プエルラ・テネブリス。


 現在の、悪魔属魔王である。


「あのソロムとかいう奴に加え、おまけに銀髪の怪物を葬った人間の少年? お前からの話を聞いてみれば、バエルにシトリーまでやられたそうではないか」


「でも、ソロムはただの強力な力を持った何かに過ぎないし、快はその何かの力を使っただけです。元を辿れば、せめてあのソロムだけでも……」


 ユンガが歩みながら、説得しようとするが、プエルラの表情は曇って行くばかり。


 納得のいく、返事は期待できないに違いなかった。


「確かに、強い力を持った何か、だったな。余も一戦交えたが、理解不能……でたらめな強さだった……あれではまるで……!!」


 声が段々と震え、顔の傷を抑えだすプエルラを止めるように、ユンガが答える。


「レクス・へロス・ブロード王の再来、と……でも、彼とははっきり言って、まるで別次元の様にも感じました。俺はレクスと交戦したのですが、ソロムとは雰囲気が違いました」


「違う? どう違うというのだ? 思い出すだけでも悍ましい、一方的な蹂躙を忘れたか?」


「彼には、理性があった。それに、そもそも体の大きさも肌の色も、魔力の雰囲気も違います」


 ユンガの発言に、返ってくるのは否定の言葉だけ。


 が、プエルラの震える瞳が――説得力を持たせていた。


「第一、“何か”だと? なんなのだアレは? 纏う殺気はレクスの様、一撃一撃に容赦が無かった。身のこなしは――魔獣属の様にしなやかで直感的、センスをまるで疑いもしていないかの様だった。魔力の量は、余と互角かそれ以上……外見は美形の人間の形だが、明らかに細部が違う」


「……わかりません、全く」


「快も、なんなのだ? 神の力を宿らせて殺し続け、肉体を暴走させ続けて封印? 現代の人間にできるのか? わからない、不安の種が多すぎる」


「でも、彼らは――」


 ユンガが答えようとした瞬間、プエルラの声によって遮られる。


「魔王の命として伝える。境界の修復方法を、探っておけ。余は久方ぶりに地上界に出る」


 プエルラがそう言うと、プエルラの周囲を、灰色の魔法陣が包み込んでいった。


「待ってください! 話は終わって――」


 最後まで、聞き届けられる事無く、姉の姿は消えた。




 一方、地上界。


 快は、森の中で様々な動きを試していた。


 新たに密着した、黒い手足の機能の確認がしたかったのである。


(まず、軽くものを握ってみるか)


 快は、近くにあった自分の拳ほどの石を握りしめた。


 すると、硬い感触が、掌の上に伝わり、食い込んでいくのを感じる。


(なるほど、感覚はあるし、一応あの義手よりは動きやすいや)


 一応、右奥の木に背中を預けているグリードの方を見るが、グリードの右腕は、既に生え変わっており、その手は黒衣のポケットに入っていた。


「どうした? ジャンプでもしてみたらどうだ」


 正面に向き直し、快は一息つき、膝を曲げだす。


「言われなくても、それっ!」


 体感、若干一メートルの距離が浮く。


 それを見ていたグリードは、口を抑えて笑っていた。


「悪い、それで一所懸命にジャンプしてるんだろ? 強化してた時期とどうしても比べてしまってな」


「何勝手に比べてるんだよ! それじゃまるで僕が弱体化してるみたいじゃんか!」


 グリードの方へ駆けると、グリードは早歩きで逃げる。


 その口許は、笑みをたたえていた。


 呆然と、魔術で起こした火に当たりながら快を見つめていたちはも、同様に笑う。


「殴るぞ!」


「殴れるもんなら殴ってみろっと」


 グリードを怒り気味に、無邪気に追いかける様は、年相応のものだった。


 そうしてじゃれていた時。


 何かが、ひび割れる音が響く。


「? 何の音?」


 快が止まって、周りを見渡すが、何も異常は無いかのように思われた。


 が、対してグリードの顔には、笑顔が消えている。


 そこから、異常を察した快は顔を左右に揺らし、焦点の見定まらないまま構えた。


「残念なニュースだ、ちは。結界が破壊された……この結界に費やした魔力はA三級、世界を滅ぼす程の力じゃないと壊されないようにしたつもりだったんだが……」


 グリードの発言に、快は耳を疑った様子で目を丸くする。


「世界を滅ぼす程の力じゃないと破壊されない……って事は、それくらい造作もない奴が?!」


「あぁ、魔王の器クラス……いや、それ以上の上玉がご来場するらしい」


 グリードがそう言った直後だった。


 森林の空間全てが、轟音と共に灰色に包まれ――暗黒と白銀、純白と漆黒が織りなす、異界と化したのは。


 快は、目を手でふさぎながら――空間一体に蔓延る、質量のある威圧感、オーラを前に膝をつきつつも、吹き飛ばされまいと抗う。


 膝が擦れ、数々の木々が色を失いながら吹き飛ばされていくのも見て、これから顕現する者の力強さを実感した。


(これだけの威圧感、今までと訳が違う! 魔王の器以上……あのバエルや八岐大蛇以上なのも、解る……このスケールの大きさもしかして、あの――)


「跪け」


 可憐な、たった一声と共に、視界と空間は変わった。


 快が目をしっかりと開くと、その風景に驚愕する。


 周り一帯の地形全てが、抉れ、緑という緑が灰へと還されていた。


 茂み、木々、山の形を成していたであろう地面。


 その全部が、目の前の灰色の塊と、グリード、自分、後ろにいるちはを残して消え去っていたのだ。


「これはこれは、ご挨拶なこったな……魔王様?」


「魔王……え?!」

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