第二章 第二十二話 祝福
本来の、力。
快が倒れるとほぼ同時に、ちはは振り返る。
振り返った時、快が力なく、両手足が無い状態で倒れると、地面に落ちる前に抱えこんだ。
「快!」
抱きしめるが、反応は無く。
ただ、寝息のようなものが聞こえることから、ちはは胸を撫でおろす。
(良かった、生きてる……)
ほっと、一息ついた直後。
「さて、ロマンチックしてるとこ失礼」
ちはの服の裾を持ち上げられると、固い腕に抱きかかえられた。
ちはが横を見ると、そこにはグリードの顔。
グリードが地面を蹴れば、重力が無かったかのように宙に浮かび――住宅地をすり抜けて行く。
「どこでもいいから安全なとこへ行くぞ……話がある」
グリードはそう言って皆を連れ――山の茂みの中へと飛び来む。
木々の間へ雑に、快を抱えたちはを放り投げると、グリードは空中で一回転し、地面へ手を付け着地した。
背中を擦ることも出来ず、代わりに快を抱きしめ悶えるちはを見て、声をかける。
「大丈夫か? これでも結構、優しく投げたつもりだったが」
「いたた……怪我人の扱いじゃないってこれ……」
ちはは歯を食いしばり、快をそっとそばに寝かせると背中を撫でた。
それを見て、グリードは頷くと――その場に座る。
(さて、しばらくこいつは寝かせとくか……にしても、ちはがあのびおれ跡に来た時点で助けに行ったつもりが……まさかあんな力を持ってるなんてな)
快の身に宿っていた、一瞬の力。
電気を纏い、炎を操り、凍てつかせ、水の中へと沈める。
目にした魔術の扱いはまさしく、熟練の魔術師のそれを彷彿とさせる――が、グリードは顎を擦り、思考を巡らせた。
(あいつに魔力は無かったはず、それも一切。身体能力も、あの指輪での強化が無いとまともに他種族とやりあえて無かったはず。なら、あの時見せた威圧感は一体……?)
ため息をつき、グリードは寝ている快の体を見つめ、魔術を発動させる。
(“測定解析眼”)
これまでの言動を思い浮かべながら、快の脅威度を分析しだす。
すると、目の前に現れたのは――驚くべきものだった。
(なんだと?)
目を擦り、何度も見つめ直すが、浮かんだ脅威度の値は揺ぎ無く。
(こいつは、厄介なりそうだ)
ひっそりと、笑みを浮かべていると――ちはがグリードの肩を叩く。
「あの、二人って……一体どういう関係? 親子には……見えんし、兄弟でもなさそうだけど」
ちはの質問は、グリードにとって至極真っ当なものだと思われた。
外見は明らかに、自身は異形と呼ぶにふさわしいのに対して、快の肌色、外見からして人間そのもの。
疑問を持つのも、無理はない。
「あぁ――そうだな、一緒に旅する仲間。こいつは俺が唯一、背中を預けてもいいかもって思った変わった奴だよ」
「不思議だね、貴方独りぼっちの乱暴者っぽいのに仲間だなんて」
「かもな、乱暴者ってのもある意味間違っちゃいない、そう言われると否定できないからな……独りぼっち、ってのもな」
グリードは、座った姿勢から横たわる体制になると、ちはと快の目の前に手をかざす。
「ちょっと危ないぞ」
手をかざすと、その先から小さな火が地面に出現した。
それと同時に、空間が一瞬揺らぐ。
ちはが火から逃れるように、後ずさるとグリードは笑った。
「大丈夫、結界張ったし誰も襲いやしない。それに、火を出したときも結界で包んだから触ってもちょっと温かいぐらいだ」
「えぇ……なんでもありじゃん」
引き気味に、ちはが言いながら火に手を置く。
しばらくすると、快の声が微かに聞こえてきた。
「んっ……僕は一体……?」
「「快!」」
グリードとちはが、同時に呼びかける。
同時の呼びかけに、答えるように身をよじらせた。
が――快の眉間にしわが寄り、苦悶の表情を浮かべる。
「全身痛いし……困った、身動きが取れない……」
微かに笑って、快が言うとグリードは頷く。
「流石に、慣れてきたか。手足をぶっ飛ばされる感覚に」
グリードが快に寄ると、ちはが目を丸くし叫んだ。
「手足をぶっ飛ばされる感覚に慣れるとか正気!?」
ちはの言葉に、快はすかさず返す。
「もう慣れたよ、正気じゃいられないことぐらいは」
快がそう言うと、グリードは――おもむろに右袖を二の腕まで捲りだす。
「んじゃ、とりあえず、復活祝いといこうぜ」
純白と形容するには、あまりにも白く、鍛えられた腕が露出される。
ちはが、思わずそれに見とれているとき――グリードは自身の二の腕に噛みついた。
「!? なにして……!」
ちはが腰を抜かし、振るえるが構うことなく噛みつく。
白を赤く染め上げ、いよいよ右腕が千切られると、左腕で持ち、快の右腕断面に近づけた。
「まさか、移植する気じゃ……?」
快が心配そうに、返すとグリードは笑む。
「その通り。だがお前なら大丈夫だろう」
右腕の断面を、揃えるように快にあてがうと――快の肩から、管が飛び出しそれを受け入れる。
右腕側が、肉をどんどんと形成させていき、断面の先は肩の形となる。
密着していくにつれ、少年が持つには、太すぎた腕が、その内容物を吸収していくかの様に徐々に細く、快の体にあった長さへ。
白い腕は、管を纏い、漆黒へと染まる。
「ぐっ……があああああっ!!」
それと同時に、新たな右腕を拒絶するかのように――右腕の成してきた罪に焼かれるように、快の体に痛みが生じた。
脳髄を、あの――グリードを分析した際に聞こえた、叫びがより強く満たす。
苦痛と、精神に入り込んでくる胃の中を腐られるような罪悪。
それらの侵略感を、抑え込み――快は目を瞑る。
(だからどうした、これくらい、どうにでも……!)
歯を食いしばり、自分の意識を保つように努めた。
時間にして、五分ほど過ぎた直後。
「よし、目を開けろ。成功だ」
快が目を見開くと、自分の両手足があるであろう部分に目をやる。
手足は漆黒に、紫の管を纏い、一部は宝石のように輝いた結晶体が爛々と光っていた。
悍ましいと思う筈の造形は、どこか神聖なものを感じてならなかった。
試しと言わんばかりに、快は体を起こす――。




