第二章 第二十一話 底に救いなどない
今回は短めですが、何卒宜しくお願い致します。
ポグロムアが、次に放った一撃は重く、素早かった。
快にとって、それは瞬時に捉えられた、しっかりと、受け止めた筈の一撃。
が、両手は段々と上に押し上げられていく。
快の、一方的な優勢に思われた状況は、放ってしまった、たった一言によって覆されていった。
「人並みの幸せ……? ありもしない幻想に、そこまで翻弄されて楽しいかよ!!」
叫びと同時に入れられた、渾身のポグロムアの力にによって、掌のひびはやがて両腕全体へと広がる。
ポグロムアに負けじと、両腕に宿った魔力を宿し、押し返そうとする――が、圧倒的に快が押されていた。
力の差は、快のかかとが背後にいるちはに迫っている事がなによりも如実に物語っている。
筋力の差は、ポグロムアに分があるに違いなかった。
「ちは! 逃げろ!!」
咄嗟に出た言葉に、ちはは目を覚ましたかのように、呆気に取られていた顔を引き締め、一瞬足を快の近くへ進める。
それを見て、快は叫ぶ。
「何をしてる! 巻き込まれるぞ!」
「あぁ……えと……ええいままよ!」
年下のそれとは思えぬ凄みに、圧倒され、ちはは裏山のある方角の歩道を走りぬけていった。
その様子を、ポグロムアの瞳は逃す事無く見据えていた。
「逃すか!!」
快の横をすり抜け、飛び越えようとした時、快の手はポグロムアの液状の体に浸かる。
が、液体が捕らえられるはずも無く抜けていく。
通り抜けたものは、ちはに襲い掛かろうとするが、突然その体は凍結した。
動きを封じられ、氷塊と化したポグロムアの身。
ちはの目の前で、凍結しきったポグロムアの方を向くと、快は右手を伸ばす。
すると、どこからともなく氷塊の周りを覆うように水が湧きたっていき――右腕を上へ上げると、氷塊はそれに呼応するように、浮かんでいく。
手首を捻ると、氷塊はどこかへと飛ばされていった。
飛ばされていくと、快の両手足は、まるで役割を成し終えたかのように、崩れていく。
と、同時に快の意識も、崩れていった。




