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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
終焉の続き
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第二章 第十八話 供物と生贄

「取り戻せるっていうの?」


 ちはがグリードに歩み寄ると、グリードは頷き――黒衣のポケットから何かを取り出す。


「あぁ、俺の力じゃ快を消滅させかねない。だが、同じ人間、大体同じ年の奴なら殺し難いだろう」


 自然と出た言葉に、ちはは顔を渋らせ返した。


「殺し難いって……さも当然みたいに言うなし。って、それは何?」


 ちはがグリードの掌に乗せられた、小さく、虹色に光る石のようなものに人差し指を向けると、グリードはその石をちはの手に握らせる。


「これは、魂石(ソウラハト)。冥界に逝って、間もない種族の魂を引き戻すことができるものでね。念じた相手を人数制限無く呼び戻せるが……一つ大事な欠点がある」


 ちはが小首を傾げると、グリードが続けて語った。


「……肉体が無きゃ、甦らせても意味がない」


「え、じゃあ……どこかで体を持ってこなきゃいけないってこと?!」


 ちはが答えると、グリードは首を縦に一回振る。


 その様を見た後、ちはは石をじっと見つめる。


 油を塗ったかのように、爛々と光沢を放つ石は、ちはの意思――魂そのものをどこか吸い込まれそうな気さえさせた。


 そうしていると、二人の近くの草むらが、音を立てて揺れ動く。


 ちはが、草むらの方を向くと、一筋の黒い影が、ちはの体を押し倒した。


 暗闇に溶け込んだ、その者を目を凝らして見つめると、それはまさしく異形の姿に等しく。


 赤い眼、頭に生えた、山羊のそれを思わせる角、毛に覆われた、巨大で逞しい肉体……ちはは、手足をがむしゃらに動かし暴れるが、その異形には全く通じておらず。


 涎を垂らし、牙を、突き出していた。


「お前が、人間……だな? ちょっと見ない間に、貧相な魔力になったもんだな……じゃあ、くたばりな」


 その者が、大きく口を開いた瞬間。


 ちはが、死を覚悟し目を瞑った時――。


 生暖かい、液体の感触がちはの顔面に伝った。


 ちはが目を開けると、そこにはまっすぐに突き出された黒い手刀によって貫かれた顔が、痙攣している。


 もはや、元の形状などとうに失せており、手の周りを、再生しゆく肉が痛々しく蠢いていた。


「魔獣属か、お前……こんな事すりゃ、Fencerに殺されるぞ? ……それか、俺にな」


 冷淡に、ちはの側にいたグリードの声が響く。


 すると、魔獣は両手を上げ、声を震わせ始める。


「ふぇ、Fencerは……壊滅したって仲間が言っていた……だっ、だから……!」


 魔獣の言葉を、遮るように淡々とグリードは言った。


「お前の侵略の理由はどうでもいい、お前の話も聞いちゃいない。あんたと違って頭の中身が詰まってるんでな……で、お前……消えたくないよな?」


 二者のやりとりを前にして、ちはは余りの超常的な事象の連続に――ただ茫然として、至近距離で眺める。


 刹那に訪れた恐怖は、とうに過ぎ去っていた。


「消えたくないに、決まってるだろ!?」


「そうだろうな、じゃ――取引といこう。お前、何でもするか? 何でもするというのなら、命は助けてやる……命()()は、保証する」


 グリードが懐から、銀の札を取り出すと、魔獣属の後頭部にあてがう。


 後頭部に当てられたそれが、輝きだすと――銀の札に、魔獣が頭から吸い込まれていった。


 完全に吸い込まれると、銀の札から、無機質な声が鳴った。


契約完了(エンケイジ)ゾドガ 爵位 無 総合脅威度 D』


「よし、喜べ。今日からこいつはお前の力になってくれるだろう。そいつを使役して、うまくポグロムアと快を引きはがすんだ」


 グリードは起き上がろうとするちはの前に座りながら、銀の札を仰ぎながら見せつける。


「え、なに……総合脅威度って何? それにそれ何?」


 ちはが渡された銀の札をまじまじと見つめると、そこには独特の、爪後のような紋様が描かれていた。


印章封印札(シジル・カード)。魔族を封印して使役できる優れもんだ。そして、総合脅威度というのは、肉体面、魔術、物理的な攻撃力、瞬発力、知識、知能を総合した脅威度だ。こいつの場合は、Dだから大体一時間で素手で脅威度F以下の奴を相手に、一方的な勝利を収めることができる……一般の魔族なら造作もないぐらいなんだけどな」


「……え、えええ!? とんでもないじゃん!?」


 ちはの叫びが、森の中にこだました――。



 (いいか、作戦はこうだ。まず最初に言っておくが、行ってある程度まで戻ってこれたら俺が助けてやる)


 森林を、ゾドガの背に乗って駆け巡り、ちははグリードの作戦を脳内で反芻する。


 目標は、かつての家。


(まず、奴の性格からしてびおれが完全に形が無くなるまで居続けているだろう。だから今から、そいつに乗せてもらっていけ。場所は、ここから北西……煙が立っていれば、わかるだろう)


「……見えた!」


 木々を抜けると、小さな住宅街に移る。


 住宅街の奥、そこには田んぼが多く並んだ田舎の風景が広がっていた。


 ちはがゾドガの背を叩くと、ゾドガはまっすぐ煙が上っている方向へと飛ぶように移動する。


 道路へ飛び出すと、対向してくる車を飛び越え、あるいは踏み越え、歩道の、道行く人々の目にも止まらぬ速さ駆け抜けていく。


 そして、田んぼが両脇に見える光景になった時、ゾドガを左折させた。


 薄いコンクリート塀を突き抜け、入ったのは――煙の立っていた場所。


 唯一無二の、家の残骸が残る場所だった。


 残骸の側には、消防車とパトカーだったものが壊れたガラクタのように乱雑に散らばっている。


 それが――目の前で立ち尽くす、小さな影(ポグロムア)の仕業だという事は、明らかだった。


 ポグロムアが、ちはとゾドガの気配に気づいたように、その方向へ振り向こうとした直前。


 ゾドガの爪が、赤黒いポグロムアの腕に食らいつく。


 肉に食い込んだ、一嚙みはポグロムアから決して離れなかった。


 ゾドガが噛みついた瞬間、ちははゾドガの体から転がるように離れる。


「ゾドガ! 作戦通り赤黒い部分だけね!」


 ゾドガは、ただ無我夢中でポグロムアに食らいついているばかり。


 ポグロムアは空いた片腕で何度もゾドガを殴るが、ゾドガは全く動じていなかった。


(ゾドガには、俺から赤黒い部分だけを攻撃するように言っておく。だから、お前は快の本体……つまり胴体に抱き着いて、引っぺがせ。あいつの体重ならそう重くないだろう……手足が無いなら、なおさらな。あと、ゾドガには誤っても“飲み込んだり食ったり”するなとも伝えておく)


 グリードの言葉を、再び思い出すとちはは急いで、擦れた体に付いた傷に顔を歪めながら――走る。


 小さな、背中を目掛けて。


(意外と早い! これなら……すぐ!)


 ちはが、その背中の裾を掴むと、両手で引っ張り出す。


 すると、ポグロムアは口許から涎を垂らし、耳障りな声を出し始めた。


「ヒャハハハハハ!! 痛いなぁ!? 裂ける! 裂けちゃいそうだ! でももういいや……もう興味はない……目的は、この体で果たしたしね!」


 ちはが思いきり、快の体を引っ張ると――快の体は、赤黒い手足を無くし、ところどころに火傷と痣を作った状態で引きはがされた。


 それと同時だった。


 ――近くにいた、ゾドガの口の中に、千切れた赤い腕が自ら飲まれに行くように動いたのは。


「……!!」


 その光景を目にしたちはは、目を閉じた、快の体に身を寄せつつ、ゆっくりと引き下がる。


 腕の形を成していたそれは、粘液状になりゾドガの口許から消えていく。


 強制的に飲み干させられたかのように、喉へと入っていくとゾドガは、涙を流し、目を充血させ苦悶の表情を浮かべた。


「t”####!?」


 言葉や、うめき声と言った概念にとどめるには、余りにも乱暴で、悲惨なもの。


 サソリのような尻尾を地面に叩きつけ、あるいは針金のように逆立った体毛を倒れて擦りつけ――全身のあらゆるものを使い、苦痛を訴えている様子だった。


 ちはは、ゾドガを背にし、快の体を抱きしめて――来た道へ逃げ戻る他に無かった。


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