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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
終焉の続き
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第二章 第十二話 結界 千回 戦闘 閃光

 重なった声は、快の声。


 もう一つは、先程、戦闘が開始される前に一瞬快にとって聞き覚えのある声だった。


 快が声の方角を見ると、そこにいたのは、白髪の青年。


 教会の壁際に体をもたれかけ、白髪の青年は、口許から血を流し腕を抑え息を荒げさせていた。


「がはっ……信じられないパワーだ……ぜぇ……ぜぇ」


 白髪の青年が、壁際から震える腕を正面に突き立てると、視界は再び歪み始める。


 すると、少女の肩を握っていたグリードの手は、服に食い込むことが無くなり。


 服に触れる、寸前の領域で止まっていた。


「お前、無理しなくていいのに……!」


 少女は青年の方を向く。


 満身創痍に近い、青年の姿を見て、先程まで浮かべていた冷淡さを払拭するかのような――憂いに満ちたものとなった。


 少女の上に乗られていたグリードは、妖しげな笑みをたたえる。


 笑みは側で見ていた快にとっては、何かを確信したかのように見えた。


「今ので、トリックが分かったぞ」


 グリードが少女が胸にまたがっている事を無視し、起き上がると、少女は地面に尻もちをつく。


 その場から立ち上がり、胸と腹を撫でると――服ごと肉体が再生していった。


「……まず、この魔術……相当上位かつ特殊な結界魔術だな。 発生させてるのはお前だろ、悪魔属」


 グリードが白髪の青年を指さすと、青年は目を丸くする。


 グリードに睨まれた青年は、血を吐き出しながら叫んだ。


愛魅(うみ)! 不味いぞ首を切り落とせぐはっ……がほっ!」


 胸を抑えつつ、喉の奥から、噴き出すように血を吐き散らす。


 細い足は、その姿勢を保つのに必死な様子が伺えた。


 声を聞いた愛魅は、グリードが再び動き出す前に地面を蹴ろうとする。


 が、その足は、地べたに座る者によって止められた。


「待てったら! うぐぐ……!」


 二本の脚、一本の腕で動きを封じられると、愛魅は足元に目をやる。


 快に向かって、握りしめた短剣を振り下ろそうとした、その刹那。


「おいおいおいおい、俺の相方に構ってばかりでいいのか生娘」


 グリードの声が、響いた。


 愛魅がグリードの声のする方へ顔を向けると、壁際の青年とグリードの二人が目に映る。


 青年の腹部には、グリードの伸びた指先が突き立てられていた。


 それが、何を意味しているか――想像には難くなく。


 愛魅は、ただグリードを睨む。


「昔、聞いたことがある魔術だ。この結界魔術、どうやら範囲内で起こった物理現象の全てがシャットアウトされるらしいな。だが、致命的な欠点がある……結界魔術内で起こった物理現象を受けた生物の感覚は、本人に全て――感じる魔力量から察するに、1,000万分の1の感覚として伝わるってことだ。要は肩代わり……1,000万分の1、でのだ。だが、それで悪魔(こいつ)がこんな状態ってことは……どういうことかもう言わずもがなってこったな」


 グリードが言い放つと、愛魅は歯を食いしばる。


 足元では、快が同様の顔を浮かべていた。


「とにかく、僕だって争いは望んじゃいない頼むよ……何故こんなことをする?」


 互いに、取った人質。


 幼き少年、愛魅にとって関りがあるに違いない青年。


 舌打ちした後、少女は短剣をガーターの鞘に入れる。


 その様子を見て、グリードは軽く頷き、青年から離れた。


 快は、固唾を飲み、記憶を回想する――。


(たしか、あらゆる魔神の力を利用して、神としてる……“奴”の復活と顕現を目的としているんだったか)


 快が記憶を辿っていると、愛魅は語った。


「……我々、寛大聖教の目的は東西南北あらゆる人外共の力を利用し、主の復活を目的としている……が、それは“司祭”以上の奴らだけ。(オレ)みたいな下層位階の連中は、この四十年で現れて教会の周りをウロチョロする人外共の掃討と治安維持が任務なんだ」


 愛魅の話を聞き、グリードは軽く頷く。


「つまり、司祭どもは上位の人外を何らかの形で拘束して、その余りものを葬るのが――お前らってわけか」


 グリードの発言に、愛魅が頷くと、快が問うた。


「人外……待って、なら何故その悪魔と協力しているの?」


 快が言うと、青年が答える。


 答えようとした瞬間に、愛魅が口を開こうとしたがすぐに唇を噛み締めた。


 青年の瞳は、快とグリードから背けられて。


「私は、悪魔の裏切り者でね。寛大聖教の崇める主に、協力することにしたのさ――同属を、捧げることで。愛魅の狩りを手伝う事でね」


 青年の言葉に、快は静かに返す。


「仕方なかった、のか。だとしたら、もう大丈夫ですよ。その主は“僕らが倒した”んですから」


 笑みをたたえると、青年が快の元へゆっくりと歩み寄る。


「本当? わぁそれはありがたい。おめでとう、素晴らしい」


 少女にしがみついた快の手を引っ張りあげ、抱きかかえると青年は快の頭を撫でた――。


「……だが、だったとしても私にはもう居場所がない」


 青年はそう言うと快の髪の毛を、鷲掴みにし、持ち上げると同時に、愛魅が短剣を引き抜き、グリードに躍りかかる。


 再び、火花を散らす両者を前にして――快はただ持ちあがるままもがいていた。


「倒されたところで、あの肉体から魂が解放される。魂の中にはあの魔界の初代魔王、ルシファーが居る。だとすれば、私は折角のし上がっていた爵位、階級を剥奪されるに違いない、そうなっては私はただの無能ということになる――真実を知ったのであれば、さっさと死んでくれないか。そして、ありがとうよ邪魔者を消してくれて」


 快の頭を、地面に叩きつけようとした瞬間。


 青年の手首を、快が一回転させた。


 一回転した勢いままに、手は腕の骨から離れたように伸びきり――快は地面に着地した。


 鈍い音と共に、青年が驚くと快は顔面に拳を突き上げる。


 青年が、後ろに倒れかけると青年は手を握り念じ――かけるが、それは阻止された。


(私の腕を潰すとは驚いた……だが、だったとしても片腕さえ残っ――)


 青年が魔術を発動させる瞬間、快は未だ近くに居続けるグリードに視線を送る。


 愛魅の攻撃を片手でいなし続けるグリードは、余裕げにその視線を受け取ると、首を縦に振った。


 首を縦に振った瞬間、グリードは――愛魅の右腕を、蹴る。


 それと同時だった。


 青年の両腕が、完全に機能を停止したのは。


 とめどなく血が流れていくと、青年の顔は歪む。


「がはっ……!?」


 快が青年から離れた瞬間、快はそのままに後ろへ一目散に走りだしていった。


(睨んだとおりだ、もしあの仮説通りなら、グリードは本人に対する攻撃も通らないと思っていたようだけど――あいつは相手を選んでるみたいだ、現に、全く相手にしていなかった僕の攻撃は通って、グリードのあの拳は通っていなかったみたいだし……)


 快がその場から離れ、手前の歩道へ走り去ろうとすると、グリードも隙を見て走り出す。


 グリードは、すぐに追い抜き、快の服の裾を持ち上げ、背中に乗せた。


 愛魅の視界から、消え去るのもはや一瞬のこと。


 二者は、すぐに見失っていった――。

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