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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
終焉の続き
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第二章 第一話 終焉の続き

 

  少年を囲む仲間たちの、歓声。


 戦士達の埃と、血にまみれた体。


 それを横目に、何事もなかったかのように、活動していく街並み。


 その全てが、戦いの終焉を祝福する。


 安堵と、希望に満ちた空間が――そこには広がっていた。


「快、よくやったな! 大団円っしょ!」


 棕が快の体に抱き着き、顔に頬ずりすると、快は顔を紅く染める。


 棕の様子を見て、ユンガが笑んで快を見下ろし言葉をかけた。


「俺も誇らしいよ、人間の子供が――」


 声をかける瞬間、ユンガは詰まる。


 言葉を詰まらせ、数秒ほどしてユンガが続けた。


「快、君がここまでやるとは思わなかった。けど、少し約束してほしい事がある」


 無遠慮なまでの頬ずりを受けながら、快は棕の腕からもがき、やっとの様子で抜け出しユンガの方を向く。


「何? 約束なら、無理のない範囲で……」


 快が怖気着いた顔を見せると、再び棕が飛びついた。


「びびってんのぉ? 今の快なら大丈夫大丈夫!」


 快に抱き着く棕に、背後で浮遊していたアムドゥシアスが棕の服の裾を引っ張る。


 棕は、引っ張られるままに、伸ばした手と共に快から距離を離していった。


「棕、ちょっと静かにしましょう、快君を離してあげてマスコットじゃあないんですから」


 快が笑みをたたえつつ、引きずられていく棕の様子を眺める。


 それを見ていたユンガは、軽く咳ばらいをして語った。


「快、約束だ。僕ら――キマイラと僕はこれから魔界に帰るけど、もし人間以外の種族を見かけても、無暗に攻撃したりしないでほしい」


 ユンガが語ると、キマイラが続く。


「そこな悪魔の様に、大人しく暮らしたいだけの奴も居るらしいしな」


 キマイラが目をアムドゥシアスに配ると、アムドゥシアスは棕を片手で掴みながら人差し指を自分に向ける。


 快は、キマイラとユンガに、頷いて答えた。


「何を今さら。この冒険で、良くも悪くも性格の違いがある事は、人間と同じだって事が分かったんだ。その約束は、きっとずっと守り続けられるよ」


 ユンガが微笑みながら、空に手をかざす。


 すると、ユンガの頭上にユンガの体と、隣のキマイラが入る程の魔法陣が現れた。


「この三週間、本当に――厄介な旅だった。けど、楽しくもあった。快、またどこかで会おう」


 魔法陣に、上からユンガとキマイラがゆっくり包まれていく。


 包まれていった箇所から、二体の魔族の体が消えていく様に、快は、手を振って。


 ――別れを、告げる。


「今まで、ありがとう。魔界で、お幸せに」


 快は、魔法陣がユンガとキマイラを消すまで手を振り続けた。


 手を振り続けた後、快は後ろを振り向く。


 そこには、互いの頬をつねり引っ張り合う棕とアムドゥシアスが居た。


「うちの好きにさーせーろっつーのっ!」


「いいえ空気を流石に読みましょう! 大事な話ですって! それにここで反発すれば――」


 間髪入れぬ、言い合いに快は口を申し訳なさげに挟む。


「あ、あの……」


 快が手を上げながら、声をかけると一人と一体は互いの顔を見合わせ、快の正面を向いた。


「これから、どうするつもり? アムドゥさんも棕も」


 先に応えたのは、棕。


「これからも、うちらはアーティストとして活動を続けるつもりで居るよ。良いネタも見つかった事だし!」


 棕が笑顔で言うと、アムドゥシアスも自分の胸に手を当てそれに続く。


「ワタクシも、この子をプロデュースしないといけないのでそれに付き合いますよ。楽器の扱いはともかく、機械類を任せると、危なっかしくて仕方ないですし」


 そう語るアムドゥシアスの表情は、快の目には保護者のような――穏やかに感じさせてならないものだった。


「なぁ、快は――どうすんの? 入ってた病院、ぶっ壊れちまったし」


 棕が訊ねると、快はしばらく考え込む。


(思えば、どうやってこれから過ごすかも考えていなかった。お金も無いし――)


「うちが泊めてもいいけど、後々面倒な事になりそうだしなぁ……」


 棕が頭を掻きながら言うと、アムドゥシアスが返した。


「隠し子が居た! だとか報道されては洒落になりませんしね……保護施設に送るのが妥当――とも言い難いですよね。この先天鏡といい義手といい」


 アムドゥシアスは快の姿をまじまじと見つめる。


 快の顔には、先天鏡が張り付いており、右腕には義手、左足は義足。


 戦いの痕跡だらけの、異様な姿を見続け、唸っていた。


「大丈夫、僕ならどこへだって行ける。心配しないで」


 快が穏やかな口調で答える。


 すると、背後から拍手が響く。


 手袋越しの、乾いた拍手だった。


「よく言った、全くお前はつくづく勇敢だよな」


 声は、快と棕、アムドゥシアスの聞いた事のある声。


 全員がほぼ同時に振り向くと、手を鳴らしながら歩み寄る――グリードの姿が目に映る。


「お前、どこ行ってたんだよ!?」


 棕が言うと、グリードは笑って答えた。


「ちょっと、上着を拾いに行ってた。……それと、快。ほぼ安全になったところで、思い出したんだが、紹介したい家がある。もし、嫌じゃなけりゃついてきな」


 グリードが手を伸ばすと、快は手を伸ばすのを一瞬躊躇い、振り向いて棕とアムドゥシアスに手を振る。


「……これからも、応援しているよ、なるそー、アムドゥ。またどこかで」


「おう、これからもよろしくな。うちの小さな盟友(ファン)さん」


 棕は、サムズアップとウインクで応えた。


「大変なツアーでしたが、楽しかったですよ」


 アムドゥシアスは一礼で。


 快は再び、グリードの手を取る。


「じゃあ、行くぞ……行く先は、学校も近いしついでに制服も新しく採寸しないとな」


 笑いながら、二人は進んでいった。


 朝焼けの向こう――終焉の、続きへと。

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