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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
双眸に映る、黎明と宵闇
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第二十四話 Fencer

 車の両脇に広がるは、ありふれた日常風景の痕。


 へし折れた信号機群を通り過ぎ、茶色がかった寂し気な道路を走る。


 天護町の、一部に過ぎないはずの無残なる戦いの痕跡が―――ありありと窓から存在を主張していた。


 しばらくしていると、快の隣の座席で腕を組み、頭を俯かせているグリードが正面奥に座る麓を睨み始める。


(いきなり連れてきて、何をさせるつもりだ? こいつら)


 車の振動に揺れる、銀の髪は鋭く向けた眼光を隠す。


 一方で、快と棕の両脇を防弾服に身を包んだ、重武装の人間が挟み、狭い車内を圧迫させていた。


 快は車の走行音だけに耳を傾けることとし、銃を持った集団に囲まれているという事実から、その身を守る。


 無言と、冷たく硬い座席の感覚だけが一行にしばしの安寧と、未知への迫りくる恐怖感を与え続けていた。


「ふむ、降りるぞ」


 麓が一声あげると、車は急停止する。


「少し待っていなさい。“仕事”よ」


 麓がそう一行に言い、車の扉を開けるとそれと共に快らを圧迫していた隊員が次々と出ていった。


 車から降りた先は、寂れた住宅街。


 快はそっと開いたままの扉から、外の風景を見た。


 目に映るのは、快の見慣れ親しんだ、天護町の一部分。


 旅の、始まりに近い場所だった。


 一糸乱れぬ隊列を率い、麓とその隊員が向かっていったのは、バリケードテープの張り巡らされた、なんの変哲もないマンション。


 マンションの先の階段を、隊が駆け上がって行く様を快が傍観していると、隊はマンションの三階扉の前に集結した。


(何をするつもりだろうか)


 快が隙間から覗き続けていると、麓がマンションの扉をノックする。


「警察だ、開けなさい」


 麓の声が、マンション中に響き渡ると、辺りは静まり返っていく。


 麓が率いる部下の隊員は、銃を構えたままに麓の両脇で固まっていた。


 しばしの静寂は―――すぐに裏切られる。


「返事が無い。投擲」


 麓が軽く首を横に振ると、両脇に固まっていた隊員の一人がマンションの扉を力強く蹴破った。


 扉を蹴破ると、マンションの室内が外界に露わになる。


 するとほぼ同時に、扉を蹴破った隊員が腰に提げていた楕円形の物体を投げた。


 楕円形の物体が室内に転がり込むと、その物体は煙を噴出していった。


 煙は、やがて空間を白く染め上げていく。


 空間が全て白色に染まるのを見届けると、隊は部屋へ突入した。


 連続した、発砲音と共に。


 発砲音に共鳴するかのように、甲高い動物の鳴き声のようなものが室内から轟く。


 それは、遠くから傍観していた快の耳にも聞こえていた。


(中で一体、何が起こってるんだ?)


 快が疑問を抱いている内、悲鳴は治まり、露出されたマンションの一室が煙から解放される。


 煙が完全に視界から消え去った時、快の視点から見えたのは―――。


(肉塊を持っている………?!)


 そこには、正体不明の、血の滴り落ちる肉塊を掴んだ麓の姿と、鮮血と思しき液体に染められた部屋が映し出されていた。


 肉を持つ麓の表情は、ただ陰鬱に、冷ややかなものをたたえて。


 麓が後ろを振り返り、乱雑に白い袋の中に肉塊を放り投げると、隊員と共に車へと列をなして戻って行く。


 黒一色の行列が、階段を降りていき、車へいそいそと乗り込んでいくと、麓は何事もなかったかのように一声を上げた。


「出発なさい」


 快の覗いていた扉が自動で勢いよく、麓の声と共に閉まると車は発進した。


 車の振動が、再び一行の腰から背中にかけてに伝わっていく。


「おい、お前達―――」


 強かに、車内の部隊を睨み続けていたグリードが発言する。


 両腕と足を組み、長い銀の前髪に隠されていた緑眼を発光させつつ。


「まずお前らのアジトに着く前に、色々と質問させろ。でなきゃお前らのやってる事はただのテロリストの拉致だぜ?」


 グリードの声は、無言でいた快と棕の全身に汗を流す。


 それぞれの着ている服に、染み渡らせるほどに。


(武器を突き付けられてるのに、よくそんな事言えたな!?)


 棕は大声を出しかけた喉を、必死にこらえていた。


 一分程して、麓が口を開く。


「そうね、まずは何から答えようかしら」


「その一、まずお前らはなんで俺らを拉致した」


 グリードが人差し指を立て、問うと麓は息を吐き、答えた。


「そうね、まずあなたたちの稀有な力が私たちを派遣するに至った、とでもいうべきかしら」


 麓は続けて語る。


「我々が今乗っているこの車は、自動操縦時、膨大な魔力を検知するとすぐにその魔力源へと向かうの。特に、“ある種族”が発する特定の周波数帯を検知した場合、本部から捕獲要請が下る」


「狂暴な魔族か?」


 グリードが返すと、麓は首を横に振った。


「それなら、まだ可愛いほうよ―――問題は、あなた二人、いえ、二体というべきか」


 麓の瞳は、グリードと快の方を向く。


 それを見て、快は自分の顔を指さすと、麓は頷いた。


「問題なのはあなたたち―――“禁忌属”」


「なるほど、全くいつの時代もストーカーに遭うとはな」


 グリードが手を顔にやり、ため息をつく。


 その様を見て、何も喋らずにいた快が手に膝を置きながら丁寧に訊ねた。


「あの、禁忌属っていうのは何なんですか?」


 麓は上着のポケットから飴を出し、それを快に手渡す。


 麓が一瞬お辞儀をし、飴を開封して口の中へ放りこむ快の様子を見ると―――質問に答えた。


「禁忌属というのは、超古代からその姿が確認されている世界のバランスを根本から破壊しかねない強大な力を持った種族。天から見放され、魔族としても異質。死ぬこともなく、人間ですらない。そんな連中のこと。我々『Fencer』が追い続け、研究している存在」


 麓が快とグリードの質問に答えると、棕が言う。


「待って、要するにチート級の強さを持った連中の事だろ? そんな奴どうやって捕獲するんだよ」


 棕の問いに対して、麓は語った。


「交渉による捕獲を試み、もし捕獲できなければ情報をできるだけ映像やファイルに記録し本部に提出するのみ。そして―――現時点で禁忌属への対抗手段足り得るものを放つ。といっても、まだいくつかのものは試験段階なのだけれど」


 淡々と答え続ける麓の言葉の全てを聞き、快は―――男の言葉を想起させる。


(やっぱり、グリードも危険な存在なんだ…………でも、あれ? 僕も入ってるって言ってたよね?)


 快の、飴を嚙み砕き青ざめていく顔を見て、麓はにこやかに快の頭に手を伸ばした。


 白い手袋に包まれた手を、快はただ受け入れる。


「大丈夫よ、貴方たちは記録上初めて協力してくれると言った禁忌属。乱暴にはしないわ」


(記録上、ね)


 始めて見せた、麓の穏やかなる一面と言葉に、裏を垣間見たグリード。


 グリードは、再び深く座席にもたれかかった。


 無言と、呼吸の応酬があたりを包み込む。


 それらは、時に暗闇の中で。


 あるいは、曇り空の下。


「到着しました」


 運転している隊員が、後方へと振り向き声をかけると、その後ろに座っていた麓が頷いた。


「ごくろう、そして諸君―――ようこそ、“政府直属対危険秘密物処理部隊・Fencer(フェンサー)”へ」


 麓が扉を開ける。


 一行の正面に構えていたのは、巨大な軍事基地のような建物だった――。

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