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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
双眸に映る、黎明と宵闇
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第二十二話 who am アイ

 最初から、何もなかったかのように、その男は快の前で微笑む。


 先程までの、血気迫る――鬼神の如き形相の持ち主と同一人物とは思えぬ表情だった。


「面倒事は片付いた。じゃあ、行くか。その前に腹減ってないか?」


 真の名を、グリード・タタルカと彼は名乗る。


 快は困惑しつつ、言葉を甘んじて受け入れた。


「あっ、その前に棕を起こさないと」


 棕の元へ、快が駆け寄ろうとすると、棕は既に目を覚ましていた。


 空き地の土管に身を横たわらせ、駆け寄る快を見ると棕は立ち上がった。


「お、快……………あのおっさんはどうした?」


「あの大男なら、ソロム…………いや、グリードがやってくれた」


 快が状況を説明していると、快の肩にグリードの手が置かれる。


 棕はグリードの手を見ると、その手は漆黒よりも黒いオーラを纏っている事に気付いた。


 さながらそれは、闇を濁らせたかの如く。


「あぁ――けど参ったな、あの感じ逃げたな」


 グリードが頭を掻いて言うと、快は咄嗟に後ろを向きグリードの顔を覗く。


 覗いた顔は、戦闘時以前の飄々とした人懐っこい笑みを浮かべていた。


「え、逃げたって? あれで逃げられるの?」


「あぁ、あの結界は俺が展開したものなんだが――いささかゆっくりしすぎたな」


 棕は、グリードの様子を見てポケットにしまい込んだ印章封印札に声をかけた。


「結界って、なんなんだ? っつか、あのおっさんの事知ってるの? アムドゥ」


 アムドゥシアスが、震えた声で棕の質問に答える。


「結界というのは、基本的に魔術師が自身の魔術による周囲の被害を、極力抑えたいときに張る防御空間です。結界を張るにも、一般的には自分の周りに張るので精一杯なものですが」


 唾をのみ、アムドゥシアスは続けた。


「魔力が高ければ高い程、周囲の空間と自身の展開する空間を分断し、全く別の異空間にすることができると聞きましたが――彼の張ったものは、まさしく異次元空間と呼ぶにふさわしいでしょう」


 棕は対して、小首を傾げて返す。


「じゃあ自分の空間の強度ってどうなってるんだ?」


「展開する際に使った魔力量にもよりますが、魔力脅威度Bの全力の魔力を使って展開すれば小国一つを埋める程の広さができます。武装への防御力もそれ相応には――しかし、見ていましたがあのグリード君の場合ははっきりいって異常。魔力の濃度によって因果律すらも一瞬書き換えて、周囲の空間を“世界”ごと分断させて、己の空間に引きずりこむなんて」 


「化け物。ですが、あの空間から逃げ延びる方もまた化け物でしょう」


「どういう事だよ」


 アムドゥシアスは、忌々し気な声色で再び語りだした。


「レクス・へロス・ブロード。彼は魔界に初めて侵攻した唯一人の人間です。最強と言わしめしていた、魔王の器を悉く倒し、現在の魔王様に深い傷を与えた人物です。ワタクシの家臣も、その家族もレクスに殺され、ワタクシ自身も頭を割られて瀕死にさせられました。奴の前ではあのシトリー様も、バエル様も敵いませんでした」


 棕はアムドゥシアスが語り終えると、何も言わず頷く。


 印章封印札を、しまい込んで。


「にしても、団地の割には一般人が居ないな」


 ソロムが周辺を見渡しながら呟いた。


 団地は、立ち並ぶマンションと空き地が広がるばかり。


 殺伐とした、閉鎖的な風景が広がっていた。


(おかしいな………外は危険だって言うニュースでも流れてるんだろうか)


 快はそう思いつつ、空き地から抜けマンションの側にある自販機に手を伸ばした。


 硬貨を投入し、ボタンを押す。


 出てきたコーンポタージュの缶を開けると、快はそれを喉に流し込んでいきながら周りを見渡していた。


 しばらくマンションとマンションに挟まれた道路の奥を覗いていると、一台の車が走っているのが快の目に着く。


(なんだ、流石に車が走ってるじゃあないか)


 日常風景を前に、胸を撫でおろす快。


 しかし、次の瞬間に――安堵は裏切られる。


 車はよく見ると、黒光りするトラックに、迷彩柄の服に身を包んだ自衛隊員らしき人がドアに掴まっていた。


 トラックに搭乗する自衛隊員は、皆――銃を構えていた。


(? なんだ?)


 快が目を凝らそうとした時。


「危ない! 快!」


 ソロムの背中が、棕と快を覆う。


 次に放たれたは、銃声だった。


 無数の銃弾に撃たれ、迸る血に地面が染められていく。


「グリード!」


 快はグリードの胸に抱かれながら、叫ぶ。


 グリードはただ、快と棕に向かって放たれる弾丸に身を撃たれ続けていた。


「俺は大丈夫だ。けど………なんなんだ?」


 撃たれつつ、グリードが後ろを振り向くと車はやがて道路の真ん中で停車し、武装集団が各々車から離れていく。


 手にした機関銃を、撃ち続けながら。


「止まれ、でないと撃ち続けるぞ」


「待て、その装いからして、お前ら――自衛隊じゃあないな?」


 グリードは弾切れと共に銃を下ろす一行を睨み、問う。


「いいや、我々は日本国の自衛隊だ」


「――へぇ? 通りで凄い銃(アサルトライフル)をお持ちのようだな? 本来なら八十九式五.五六mm小銃バディを採用してるんだがな」


 グリードが笑みを浮かべると、隊員のうち一人が防弾チョッキのポケットに入れていた拳銃を取り出した。


 拳銃を地面に撃ち、隊員は怒鳴り声をあげる。


「いいからついてこい、これは政府の要請だ」


「いいからついてこい? 政府? 俺達が一体どんな事をしたっていうんだ」

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