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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
双眸に映る、黎明と宵闇
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第二十話 英雄、帰る鬨

 無残な様を、夕闇に晒す教会に――たたずむ一つの姿が在った。


 それは、ガレキの山に見える手を、踏みつぶし憎々し気に歯を軋ませる。


 踏みつぶされた手は、骨ごと砕け男の靴底を赤黒く染めていく。


「これが、俺の子孫の末路だと? ふざけるな。児戯だと思うて泳がせていればこれか。この様か!」


 天を穿つ程の巨体は、拳を教会の屋根だったガレキに打ち付け――下敷きの手の持ち主と共に粉砕した。


 皮の手袋を、塵で汚しながら男は全身から――激昂を体現するかのように魔力を放つ。


 男の名は、英雄を意味していた。


 男が砕いたガレキの中から、教会の主の持っていた短剣を手に取ると、光の稲妻が刀身に迸る。


 稲妻に刻まれたのは、男の名前だった。


「……そうとも、俺は帰ってきた。案ずるな、異国の民よ。誕生した時代、支配した時代とは違えど人類であるならば、皆俺の民だ………守護してやろうぞ」


 微笑みをたたえ、男は短剣を腰についた短剣の鞘へ納めた。


 獣のマントをなびかせ、背中を裏切ると男の周囲を、異形の怪物たちが取り囲んでいた。


「貴様だけは蘇って欲しくなかった、だがもうあれから随分経ってる。…………昔みたいな大暴れを期待してるぜぇ?」


 異形の怪物達の群れに紛れた、斧を携えたキリン型の魔獣属が嘲笑する。


 魔獣属の嘲笑を合図に、怪物達は一斉に男へ飛び掛かった。


 裂けた口から炎を吐き、あるいはのこぎりのような爪を振り下ろし、またあるものは手に持った武器で薙ぐ。


 その総勢、四十体以上。


(俺たちは総合脅威度C三~B二の上級魔族! しかも亜竜属に悪魔属、吸血鬼属も居る! 選り取り見取りのこの軍団なら、絶対に勝てる!)


 よだれを垂らしながら、キリン型の魔獣属が、勝利を確信したように全力で斧を振る。


 誰しもが、凱旋の様子すら瞼に思い描いた時だった。


「準備運動には丁度いい」


 突撃していった魔族から、次々と四肢を切り裂かれていった。


 倒れていく魔族には、とどめと言わんばかりに頭部と胸部に深い刺し傷があった。


「なっ―――馬鹿な?! 冥界で何をしていた貴様――」


 群れの奥で控えていたムカデ型の悪魔属が、顎を大きく開き言う。


 すると、男は容赦なくムカデ型の悪魔属に光の魔術を放ち、稲妻として現れたそれで消し炭に変えた。


「俺は、戦い続けていた。それだけだ」


「た、ただの神話じゃなかったのかよぉ!!」


 逃げようとする魔族にすらも、光の魔術を放っていく。


 稲妻に当てられた魔族は、芥の如く消え去っていった。


「俺の名は、レクス・へロス・ブロード…………人類の“王”である」


 レクスが名乗ると――闇の中から拍手の音が響いてきた。


「おぉ、素晴らしい。流石は大王、英雄王、またの名を――“怪物狩りの勇者”」


 拍手が、徐々にレクスに近づいていくと、レクスは短剣の矛先を拍手の方向へ向ける。


 矛先には、光の魔力を宿して。


「貴様、何者だ。魔物どもをこの俺にけしかけたのはお前か」


「ご明察。しかしそう怒らないでほしい、これは面接なのだから」


 笑みが見えると、レクスは刃を飛ばした。


 刹那、飛ばした刃は闇から覗かせる銃口から放たれる弾丸によって弾かれる。


 弾かれたことを、気に止めることなくレクスが走り、声の主に向かって手を伸ばした。


 しかし、伸ばした手は影に当たる事なく空を切った。


(なんだと?!)


 言葉の代わりに返されたのは、拳銃での一発。


 それをレクスは至近距離から避ける。


「ほぉ、これも避けるか。――俺のこの銃は、俺のかつての部下たちの力が宿っている魔弾を発射するものでな」


「貴様、触れられないとはどういう事だ。どういう魔術を使った?」


 レクスが弾丸を避けながら、問うと男は微笑んで答えた。


 銃を連射しながら。


「俺の名は、”織田信長”――第六天の魔王と呼ばれた男だ」


「ほぉ、人の身でありながら魔王を名乗るとはな。そして聞いたことがあるぞ、確か俺のずっと後の時代を治めていたこの異国の王らしいな」


 レクスは全身に魔力を回し、二メートル以上のその体躯に稲妻を纏わせる。


 稲妻が、周囲の闇を照らしていった。


「俺の目的はただ一つ。お前の力が欲しい」


 信長が銃を懐に納めると、レクスは信長を睨む。 


「俺の力? 馬鹿を言うな、王なのであれば自力で解決せよ。でなきゃ冥界へ還れ」


 レクスが魔力を放ち続けていると、信長は笑って手を伸ばす。


 あたかも、期待通りとでも言わんばかりに。


「そうこなくてはな、レクスよ。――だがこれは俺の問題じゃあない。人類の危機なのだ」


「人々の危機、だと?」


 信長が頷くと、レクスは全身の魔力を抑えこむ。


 すると辺りは、元の薄暗さを取り戻した。


「ジェネルズ。銀髪の怪物というと通り名は知っておろうか。貴君に、倒すべきこの混沌とした”コト”の全ての元凶を教えよう」


「冥界と地上界、魔界と天界の境界が壊れた元凶を、お前は知っていると?」


「そうとも。――話を聞くんだ、古代の南蛮の王よ」


 双方は、武器を下ろす。


 壊れ廃したガレキの山にて――。


 時、ほぼ同じくして。


 夕焼け空に浮かぶ、バッタの羽音が少年を掴んでいた。


「力を開放しろ。時は満ちた。やるなら、今しかない」


 快は迫られる決断を前に、手足をばたつかせるしかなく。


 指輪を見つめ、ただもがくばかりだった。


(今解放したとしても、あの力は制御できなきゃただの暴力でしかない! とにかく降りなければ……………そうだ!)


 快が突発的にズボンのポケットの中をまさぐる。


 ポケットの中から取り出したのは、一枚の――印章封印札だった。


 印章封印札に封じられているのは、かの魔王の器の一体、”八岐大蛇”。


「一か八か、鬼が出るか蛇が出るか…………いや、両方だけど、いでよ――八岐大蛇!! 」



 快が印章封印札を掲げると、札に印された五芒星から小さな蛇が滝の様に流れ出てきた。


 やがて、その蛇の群れは一つの塊を成し――巨大なその真の姿を現す。


「4g”3333333!!!!」


「げっ…………」


 地上から見上げていた、棕がその姿に怯む。


 怯んだ様子を見て、アムドゥシアスが棕の目を塞いだ。


「参りましたね、棕は蛇が苦手なんです。しかし快君………ダーク・八岐大蛇様を一体どのように従えたのですか」


 アムドゥシアスもまた、八岐大蛇の姿を見て慄く。


 ソロム以外の各々は、突然の魔王の器の出現に怯えを見せていた。


「生還するとは。しかし止めるな、蛇。これには我がさくせ――」


 アバドンが快を抱えながら、八岐大蛇の眼へ目を合わせる。


 返ってきたのは、雄大な一噛みだった。


 胴体部分に噛みつかれた瞬間、アバドンは快を手から離す。


「うわぁっ……………だっと!」


 快が地上へ落下する寸前、義手・義足となった手足が勝手に動き、空中で一回転させる。


 地面へ落下すると、快の体は着地に成功していた。


「貴様、裏切る気か。よく考えろ――!」


 アバドンの体を咥え、八岐大蛇はより一層顎の力を強める。


 アバドンに深く刺さった牙は、より血をにじませていった。


「黙れ、貴様と当方は種族も目的も違う。それに、こうして捨て駒も同然に扱われたのでは、もはや当方は貴様らにとっては死んだも同然。ならば――」


 八岐大蛇がアバドンの下半身を噛み砕くと、潰れた臓物が大蛇の口の端から垂れ出す。


「――おのれ、作戦でなければ今頃」


 バッタと蛇のその様は――自然界における弱肉強食の様を、ありありと見せつけるかのようだった。


(仲間割れしてる? 何はともあれ、今は逃げよう……………!)


「皆、とりあえず引き返そう! ソロムもじっくり見てないでほら! …………うっぷ」


 快は軽く、胃の中に無理やり詰め込まれたバッタを吐き出し、背を向けた。


 一行が快の声に従い、走り去っていく。


 轟音と共に荒らされていく団地は、戦いの激しさを影で物語っていた。


 しかし音は、約数秒ほどで止まった。


(……………戦いが終わった? いきなり?)


 快が後ろを振り向く。


「どうした快? 逃げんじゃ――」


 ソロムが突然振り返ったままに、停止する快をみて歩みを止める。


 快の見つめる先を眺めると、ソロムすらも無言になった。


 そこには、衝撃の光景が広がっていた。


 二メートルほどの、赤髪の大男が――八岐大蛇の長い首を両腕で真っ二つに裂いていたのだ。


 男の両腕は、輝く稲妻で包まれており、それは八岐大蛇の肉体を焼き、再生を阻止していた。


「魔王の器とてやはり相も変わらずだな」


 男は呟くとまるで、散らかしたごみの上を歩くかのように倒れた八岐大蛇の体を踏み潰し抜く。


 男が快の姿を視認すると、男はゆっくりと快へ歩み寄る。


「少年、無事か?」


 威圧を与えかねないその風貌から出た一声は、快にとって予想外のものだった。


 男の足が快の目の前まで来ると、ソロムと共に振り返って見ていたアムドゥシアスが胸に手を当て一礼する。


「あの、助けていただきありがとうご――」


 声と共に男の目が光ると、アムドゥシアスの目の前をソロムの腕が塞いだ。


 ソロムの手には、一本の稲妻を帯びた短剣が握られていた。


 男を前に棕は声を荒げる。


「おい! 出合い頭になにうちの相棒に手を出してんすか!!」


「娘、下がっていろ。そして案ずるな、この悪魔は俺が血を見せることなく消し去ってくれよう」


 アムドゥシアスの方へ向いていた男は、体もアムドゥシアスへ向け拳を握りしめる。


 が、それを目にして棕は男の腹を蹴り上げた。


「娘だと!? おっさん!!」


「ふむ、では眼帯の顔色悪き少年と言うべきだったか。もう少しばかり日に当たった方が良いぞ」


「くっ…………面倒だからそれでいい! けどな! アムドゥに何しようとしたんだ! あぁ?! つかどこの誰だ!」


 棕が男の顔に近づけ怒鳴ると、男は腕を組み名乗る。


「俺の名はレクス・へロス・ブロード…………多くの異名を受けし英雄だ」


「ひぃっ!!」


 アムドゥシアスは、レクスの名を聞いた瞬間――その身を棕の印章封印札の中へ投げていった。


 小首を傾げる、棕。


「まぁいい。それはそうと義手の少年、話があるのは君だ」


 レクスが快の方へ再び向くと、快は指輪の宝石を向ける。


 向けた宝石は、甲高く絶叫した後脅威度を示していった。


(総合脅威度 混沌ノ主?! これって……………!)


 快が示された脅威度を見て、尻もちをつきかける。


 レクスは快の手を握りとり、快がこけるのを止めた。


「おっと、危ないぞ」


 突如現れた、英雄を名乗る存在。


 その存在との邂逅。


 出会いがもたらすのは、新たなる混乱か。


 それとも、解決か。

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