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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
双眸に映る、黎明と宵闇
22/117

交錯乱闘剣ノ舞

幕間になります。

「待て、絶対に逃がさないぞ……………ジェネルズ!!!」


「ユンガ、はやまんじゃねぇ!」


 ビルの屋上を飛び越えながら、怪物を追う二人。

 戦いの跡地となり崩壊していく街並みを遮り、ユンガが魔術の光弾を放つと、ジェネルズは片腕で薙ぎ――距離を取っていく。


「ワシにはやることがある。貴様とは遊び飽きたのでな、ここで消えるとしよう。次なる”世界”に、我が力の糧を探さなくては」


 ジェネルズはそれだけ言い放つと、地面に体を着地させ、拳を振り下ろす。

 拳の先からは、魔法陣が展開され、やがて魔法陣はジェネルズの体を包み込んでいった。


「ジェネルズ!!!」


 ユンガは手のひらに黒い稲妻を迸らせ、空中から急降下し――ジェネルズの元へ飛び込む。


「くどい、遊びは終わりだと言っているだろう――駄犬が」


 ジェネルズの全身が魔法陣によって隠され、頭部だけを覗かせた状態となってなお、ユンガの手は、ジェネルズの方へと伸ばされ続けていた。

 流星の如く、急降下し叩きつけられた稲妻は―――魔法陣によって弾き返されてしまった。

 仇敵へと与えられたであろうその衝撃は、ユンガの肉体に容赦なく反射し、上半身をジェネルズから逆方向へ吹き飛ばした。

 放射線を描いて、分断されたユンガの体は道路を飛び、商店街のシャッターに激突する。

 その様を見届けたジェネルズは、早々に魔法陣の中へと姿を消した。


「くっ、早まるんじゃあねぇって言ったのに……………仕方ない!」


 ソロムはユンガの上半身の飛んだ方向へと一瞬向かおうとするが、ジェネルズの消えた方を追う。

 指を鳴らし、瞬間移動魔術を使って。


(しばらく、その場で気絶していれば再生するだろう。追わないとまずいことになるしな…………)


 ソロムが瞬間移動魔術を使うと、瞬時にその身は異世界へと転移した。

 地上界にとっての異世界、即ち“魔界”へと。

 魔界へ着くと、そこは静寂に包まれていた。

 ソロムの目の前に広がるのは、青みがかった地面と、紫色に染められた空。

 地平線を覗けば、住宅のような建造物が見える。

 空を仰げば、紅の月を背景に――荘厳な造形の城がそびえたっていた。


(ジェネルズの魔術の痕跡を辿ってきたわけだが、ここは魔界のどこだ?)


 ソロムは周囲を見渡しつつ地面を蹴り走った。

 しばらく走っていると巨大な塔を通りすぎる。


(あれは確か、平和の象徴の塔だったか。そういえば、魔王はずっと昔から変わっていないとも聞いているし……………)


 塔を通り過ぎると、建物が密集した地帯へと景色は変わっていった。

 ソロムは建物を飛び越え、屋根の上を駆けジェネルズが魔術を使った痕跡を追跡し続ける。


(どこだ? ここらへんは特に“餌”になるような輩がたくさんいるだろうに)


 飛翔と走行を繰り返していた時。


「見つけたぞ――“怪物”!!」


 高らかな声が、魔界に轟いた。

 ソロムが声の方向を振り向くと、複数の大小さまざまな大きさの剣が飛来する。


「ご歓迎だなッ!」


 ソロムは体を勢いよく反転し、足元の剣を蹴り破壊させ、胸に飛んできたものをつかみ取り次々に降ってくる武器を全て高速で切り払った。


「…………跪け、外界の者よ。招かれざる者よ」


 美しい声は猛々しい物言いでどこからかともなく響いていった。

 ソロムは、どこからともなく響く声に言った。


「すまないが、人違いだ。俺はあいつみたいに人様に迷惑をかけたりしないんでな」


 ソロムがしきりに握った剣の柄を握りつぶし砕く。

 その答えは――全力の敵意を以て返される。

 瞬きする間に、ソロムの頭上は一瞬の隙間ない程の刃に覆われていた。

 刃の全ては銀色の荘厳なオーラを纏っており、それは声の主の魔力がいかに膨大であるかを物語らせている。


「姿を見せろ、おもちゃで遊ぶのは子供でもできるだろ」


「その異常なる強さ。人に似た姿。間違いなかろう。噂には聞いておるし、民は全員かくまった。後は――貴様を滅ぼすだけだ」


 声が告げると、刃は一斉にソロムの身に襲い掛かった。


 刃を砕けば、更に動きの隙をつくように次が放たれていく。

 背中、うなじ、かかと、胸。

 一発でも命中すれば、動きが封じられ、かつ致命傷になる部位を中心的に狙う刃。


(召喚魔術か? 信じられない……………柄を外して刃だけの召喚。この量に加えて1本1本の刃に魔力を込めるなんて上位の魔族でもできない芸当だってのに。しかもこの速度……………視認する限りだと大体0.01秒間に6,600万ってところか?)


 ソロムは刃の雨を砕きつつ、後ろを向いて走り抜けていく。

 しかし、離れども離れども――刃の雨はソロムへ振り続けていた。


「おいおい、全弾追尾する刃の爆弾を、ガトリングみたいに連射してんじゃねぇ。いいからそっと放っておいてくれないか?」


 ソロムが空へ向かって再び言葉を投げかけると、空に浮かび続けていた紅の月に――雄大な影が差す。


 影は、徐々にソロムの元へと――“それ”は魔界の月と共に降りていく。


 ソロムがわき目も振らず、魔界の民家が密集した、目の前に見える住宅地へ向かおうとすると、巨大な刃が足元に展開され、阻んだ。


 逃げ道は、もはや無かった。

 眼前に表される、“その姿”には赦されていなかった。


 身を包んだ黒きマントのなびき、4本の白銀の大剣を周囲に浮かばせる――その姿。


「跪け―――」


 影が告げると、白銀の大剣が浮遊したままに勢いよく振り下ろされ、衝撃波がソロムの身に襲い掛かる。


「危ねぇっ!!」


 ソロムは両腕を交差させ、衝撃波を受けとめんと構えるが――衝撃波をまともに受けた手首からは血が滴り、両足はその勢いに任せ後ずさっていた。


 衝撃波はソロムを屋根の縁まで追いやると、ソロムの目の前で爆発する。

 爆発によってソロムは吹き飛ばされると、空中で一回転し地面に着地した。


 周囲を見渡すと、景色は何もない、町外れの荒野へと移っていた。


「――ひゅ~、魔王様自ら客人をお出迎えとは、偉く行儀良いじゃあねぇか」


 ソロムは依然変わりない態度を見せ続けつつじっと影を見つめて――臨戦態勢を取る。



 すると影は、魔界の月に照らされ――その正体を現した。


「余はプエルラ・テネブリス……………魔界を統べる魔王である」


 名乗りに、ソロムは目を見開き立ちあがる。


(プエルラ・テネブリス……………まさか。確か古代の英雄に討たれた筈じゃ……………?)


 ソロムが立ちあがると、プエルラは長髪に隠された赤い眼と、傷を露呈させ――笑んだ。


「その顔、死んだ者でも見るかのような眼だな。だが、余はこうして生きているぞ。――話に聞かなかったか?」


 影さえ、従わせるかの様に声を轟かせて。


「そうとも、余は“討たれた”。しかしこの傷を糧とし、魔界からの祝福を得て舞い戻ったのだ―――かつての“孤独なる魔王”。地上界で言い伝えられている“光ヨリ闇ヨリ深キ混沌(マッド・カオス)”とは余の事だ」


 牙を剥き出し、微笑をたたえたかに思えると、プエルラは宙に浮かばせていた大剣を全て、生み出した魔法陣の中へしまい込んだ。


「ぼっちが、いよいよ構ってほしくてじゃれに来たってか。だが俺はさっさと追わなくちゃならない相手が居る。これ以上介入すんなら、魔王だろうが黙らせるまでだ」


 ソロムが鼻で笑い飛ばすと、プエルラは人差し指で空を切る。

 切った裂け目からは、銀色のオーラを纏わせた剣の柄が、ゆっくりと伸びていった。


 “本来の所有者”に、引き抜かれることを望んでいたかのように。


 再び、戦いの場で引き抜かれたそれは、常人が扱うにはあまりにも大きく、宙に浮かんでいたものよりも長かった。


 それを、片手で握り――プエルラは紅い月光に照らされる。


「もう二度と同じ過ちは、繰り返させん。貴様の首、心臓――全て貫き魔界への供物としてくれよう」



 プエルラがマントを脱ぎ捨てると、マントはソロムへ目掛けて備わっていた短剣を発射した。

 ソロムは短剣を手に取り、剣の雨と同様に打ち払おうとする。

 その瞬間――銀の閃きがソロムの目をかすめた。

 縦方向に飛んでいった鮮血を合図とし、プエルラの斬撃は激化していく。


「次は喉を掻っ捌いてくれる、必ずだ」


 宣言通り、プエルラは振り上げた剣を下ろし喉へ攻撃が集中的する。

 対してソロムは一つ目の視界に映る攻撃をただいなし、回避していった。

 神速をも超越した、鈍く光る一閃は確実にソロムの身を削り、傷つけていく。


 回避すれば、衝撃波が起こり――爆発する。

 直撃すれば、両断は確実。

 プエルラが一撃必殺を全霊で放ち続けるが、ソロムはそれを悉く躱していった。


「もはや慈悲は与えん、ここで確実に潰すぞ――害虫」


 プエルラは声を低く唸らせ、斬撃を加速させると――ソロムの周囲は剣の壁に覆われた。

 否。

 剣や魔力の籠った杖、槍や斧等あらゆる造形の武具が、魔法陣から飛び出ていた。

 それでもなお、無言でソロムは目の前の攻撃に対応し続ける。

 ソロムの両手首、両足のくるぶしが真っ赤に染め上がった頃、ソロムは――閉ざしていた口を開く。


「おい、止めろ。誤解だと言っているのが何故解らん。これ以上続けるなら、俺もお前を傷つける。傷つけなくちゃいけなくなる。いいか」


 放った一言は、先ほどまでの飄々としたものとはかけ離れたものだった。


「傷つける? ならば傷つけてみよ。貴様とは背負っておるものが違うのでな」


 プエルラの放つ一刀が、ソロムの胸を斬り裂いた時。


 金属音が、魔界の空間に反響した。


「…………何?」


 プエルラがソロムの胸部を見下ろすと、大剣を持っていた腕は、ほぼ自分の握っているそれと同等の大きさの剣によって止められていた。

 ソロムの剣は、妖しげに――禍々しい漆黒のオーラを纏わせ、プエルラの剣を上へとのし上げソロムの肉体から離れさせていった。


 プエルラが離れ、一斉に魔法陣から様々な魔術の光線や武具を放っていくと、ソロムは視認できる領域を超えた速度で、手に持った得物で破壊し、あるいは消す。


 その光景はもはや一方的な蹂躙。

 否。


 “消滅”と呼ぶにふさわしいものだった。


「ほぉ、やるではな――」


 プエルラが剣を構えた刹那、ソロムは一気にプエルラに迫る。


「――俺の邪魔をするな」


 交錯する剣の刃から覗く、ソロムの緑の瞳は赤い月の光さえも届かぬほどに爛々と輝いていた。


 勝負は近距離での超速の斬撃の撃ち合いへ移り変わり、撃ち合う中でプエルラの、ソロムの背後へ放つ魔術は全て無意味なものと化した。


「俺は何度も、何度も言ったろ。構うなって。だけどお前は俺にしつこく迫ってきたな、それに傷つけても良いって言った。なら仕方ないよな?」


「魔界へ来た害虫は、王自らが駆除するまで。余こそが絶対だ」


 互いに斬撃を繰り返し、約1時間が過ぎていき――。

 ほんのわずかな一瞬が、勝負を分けた。

 わずかな一瞬、プエルラの剣はソロムの剣撃によって、空を切る。


 次に、ソロムの剣が、容赦なくプエルラの脇腹を切り裂いた。


「があっ――!!」


 プエルラは脇腹に与えられた衝撃への応酬に、空を切った剣を全力で振り下ろす。

 降ろされた一振りは、ソロムの右腕を斬り飛ばしていった。


「まずった…………か!」


 勢いをそのままに、ソロムへ向けられた剣はやがて首筋へと到達する。

 ソロムもまた、脇腹を裂いた左腕の剣に力を籠めると、漆黒のオーラはより深くなっていく。

 互いに、致命傷は逃れられない状況となって――やっと、ソロムとプエルラは互いに武器を下ろした。

 戦いを止めさせる者――ソロムが追い、プエルラが警戒を示していた者の魔力がどこからともなく、霧と共に流れ出てきたのである。


「これは、ぜぇ、貴様と似た魔力量……………ということは、お前は違う、と?」


 脇腹を抑え、プエルラはソロムを睨みつつ武器を消す。


「だから言ったろ、頑固者。はぁ、しかし久しぶりにやばかったぜ」


 ソロムが剣を握ると、剣は目の前から魔法陣を展開することなく姿を消した。


 ソロムはため息を一息つくと、飛ばされ、地面に転がる自分の腕に向かって歩み、拾い上げた後自分の肩にあてがう。


 腕は、断面に密着し元の機能を取り戻していった。


 その様を見て、プエルラは血の流れ出る腹を抑えながらソロムに歩み寄る。


「すまない、余の勘違いだった。だが奴がこの地に居る以上排除しなくては……………」


 プエルラが血を滴らせながら、浮遊魔術を使い荒野全体を見渡すが、そこには何も無かった。


 ソロムもそれに続いて、プエルラの隣に浮く。


「この感じは餌が無いとみてか、相手が悪いと判断してか逃げたな」


「申し訳ない、お前が噂に聞く銀髪の怪物とあまりにも酷似していたので………………思わず攻撃してしまった」


 プエルラは申し訳なさそうに、表情を曇らせるとソロムは軽く肩を叩いた。


「何、わかってくれたならいいんだ。さて、俺はあいつを追わねぇと………………」


 ソロムが指を鳴らし魔術を使おうとすると、プエルラはソロムの腕を優しくつかんだ。


「待て、お前を傷つけた事を深く謝罪したい。一つ、余にできることはないか」


 ソロムはそれを聞いて、真剣な眼差しで答えた。


「何一つ無ぇよ」


「しかし――!」


「城下町に、その外れの住宅街はみんな硬く封鎖してた。見たところ、家の持ち主と血縁以外の者が近づくと、誰かに連絡のいく結界魔術が張られてた。その“誰か”ってのは、お前なんだろ? “アイツ”から民を守ろうとするその意志が見られただけで、俺は安心したよ。今回の事は、目を瞑るよ。じゃあな、魔王プエルラ・テネブリス」


 ソロムは、再生した瞳でウインクを送り、魔界を後にした。


 プエルラは消えていくソロムを見届け、頬を撫でる。

 荒野に残る戦いの痕に、安堵を覚えるプエルラ。

 頬に宿りしその傷は、もはや忌々しき呪いではなかった。

 恐怖の再来から民を守護した、魔王の姿がそこにはあった―――。

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