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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
双眸に映る、黎明と宵闇
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第十七話 炉心溶融ノ果テ≪メルトダウン・オーバー≫

 光の中を突き進み、快は炎に身を焦がし、臆することなく剣を振るう。


 放ちゆく斬撃は、紅蓮の炎よりも激しく――蒼炎をも焼き尽くす白炎を纏っていた。


 全力の攻撃は、快の視界に捉えた、ジェネルズの姿を切り刻んでいく。


 その連撃を前に、ジェネルズは片腕でしのぎ、やがて地面を蹴り距離を取った。


 直後―――。


「逃がすか、お前ごときが生きようと思うな――!!」


 快が足を前へ突き出すと、踏みしめていたコンクリートブロックが爆発する。


 爆発の勢いに乗せ、快はジェネルズの懐へ突進し、感情のままに斬りかかった。


 燃ゆる炎と、煌めく太刀筋は―――快の激情に呼応するかのように。


 周囲を巻き込み、己だけを照らす”偽りの太陽”の傲りを赦さぬように、炎は肉を切り裂いていく。


「家畜風情が頑張るじゃあないか」


 高速で放たれていく剣を躱し、ジェネルズは右腕で止める。


 ジェネルズが防御すると、快は剣から手を離し、ジェネルズの右腕に深い切り込みを与え、顔面を蹴って3m程の距離を離していった。


 右腕に残された剣は燃え続け、ジェネルズの再生を許さない。


「燃え尽きろ、味わえ。どれだけの人がお前だけの為に苦しめられた事だかをな」


 快は両腕をジェネルズへ向かって突き出し、全霊の魔力を籠めた。


 快が魔力を開放した瞬間、快の眼前に魔法陣が展開され、直径にして60㎝の白い火球が連射撃されていく。


 火球は一発も逸れる事無くジェネルズへ向かう。


「いきがるな」


 ジェネルズは火球を目視し、拳を握りしめた後――開くと掌から光弾が放たれた。


 光弾は、火球の散弾を打ち消していきやがて快の背後に居る仲間たちの元へ飛ぶ。


「まずい!! 棕! アイネス!」


 快は背後を振り向き、手を伸ばし炎の壁を作り出そうとした瞬間。


「どこを見ている、ワシを倒すんではなかったか!」


 ジェネルズの蹴りが、快の脇腹に繰り出された。


「ガッ――!?」


 直撃した一撃の衝撃によって、快は鎧の破片と血液をまき散らし、勢いのままにコンクリートの壁を貫いていく。


 衝突していく3棟のビルに、快は体をめり込ませた。


 ――やがて快の通過した3棟のビルは支えを失い、煙を吹き上げて崩壊していった。


 鎧の外れた、快の脇腹は肋骨を粉々に砕かれており身動きすらできず。


 ただ、撃たれた光弾を仲間が受ける様を見届ける他になかった。


「やべぇ!」


 棕は後ろを向き、回避の姿勢を取る。


「くっ、間に合うか!」


 アイネスは光弾を目視し、両腕を構え、倒壊していくビルの壁より分厚く巨大な氷の防御壁を展開した。


 されど――光弾はそれすらも貫き、砕いて棕とアイネスを穿ち、爆発する。


 爆発を受けた棕の衣装は、元の姿へと戻りアムドゥシアスの印章封印札が地面に刺さった。


 ジェネルズは、15m先に吹き飛ばされていった快を確認し、蹴りを喰らわせた先から視界を正面に戻していく。


「さて、死刑宣告といこうか」


 ジェネルズが爆発によって吹き飛ばされた棕とアイネスの元へ歩み寄ると、アイネスは態勢を立て直し指先から氷の弾丸を発する。


 撃たれた氷の弾丸は、ジェネルズの歩みを阻む一切の障壁にすらならず、砕かれていった。


「魔力の無駄だ、喰いそびれ」


 ジェネルズの口許が、愉悦に歪む。


 アイネスが氷の弾丸を撃ち続けていると、その足元で、悶えていた棕が立ちあがる。


「まだ、いけるか? アムドゥ!」


棕が地面に刺さった印章封印札を握りしめると、声が響く。


「全く、いつもあなたはワタクシに無茶をさせてくれますね」


 呆れるかのような声が聞こえる印章封印札はひびが入っていた。


「すまないな」


 棕が一言謝ると、アムドゥシアスの声が返る。


「とびきりのアンコールと行きましょう」


 すると、印章封印札は再び光りだし、棕の衣装へと姿を変えた。


 棕の手には、アムドゥシアスが変化したギターが携えられていた。


 棕がギターのつまみを最大限まで回すと、棕は深呼吸する――。


「アイネス、あいつを最大までひきつけたらすぐ地面を凍らせて移動して離れるんだ」


 唐突の提案だった。


「………なるほど」


 アイネスは阿吽の呼吸で意図に気付いた様子で頷くと、魔術を使い自分の後方の道路を凍らせていく。


「何をしているかは知らないが、辞世の句なら聞かないぞ」


 ジェネルズと棕との距離がどんどんと縮んでいくと、棕の額に汗が滴り落ちる。


 距離にして、約二メートルも無くなった瞬間。


 棕は、力強く弦を弾き、アイネスはそれと同時に氷の床を滑り出した――。


「喰らいな!! 最終叫葬曲ラストオーダーレクイエム滅魔蒼天歌スカイハイブレッシング!!」


 弦がはち切れんばかりに弾かれた刹那、地面は揺らぐ。


 奏でられた爆音が――ジェネルズの体に凄まじい衝撃を与えた。


 骨は外部からの振動のままに、自ら自壊せんほどに振るえだし――肉が弾けていく。


 それでもなお、ジェネルズは進むが、棕との距離が一メートルほどになると、ジェネルズの頭部の半分が吹き飛んでいった。


「味な真似だな、振動でワシの再生を防ぎつつ……………ここまでの威力を出すとは」


 吹き飛び、穴の開いた頭蓋を手で押さえつけながら、ジェネルズは言う。


(アムドゥシアスの力とうちの魔力でこの威力を保ってるわけだけど……………どこまで持ってくれるか…………)


「そろそろ、厳しくなってきましたが………棕、何を思いついたのですか!?」


 ギターの姿となったアムドゥシアスが、弦を弾き続ける棕へ言った。


「ちょっと思いつきがあってさ、快の所まで誘導するんだよ」


 演奏を続けつつ、動きが鈍くなったジェネルズから距離を少しづつ離していく。


 快の飛ばされた、十メートル先まで少しづつ。


 快はビルの壁へ打ち付けられたままに意識が混濁し、穴という穴から血液が流れ出ていた。


 仲間を見ていた視界は、暗く。


 壁に埋まった体を、懸命に動かし脱すると、快は壁を走り降りていく。


 その瞳に映るのは、快へ近づくジェネルズと仲間たちの姿だった。


 弱まったジェネルズを前に、快は鎧に籠められた全ての魔力を拳に注ぎこむ。


(ここで、倒し切ってやる……必ず)


 拳に、全てを懸け――快は、壁を爆破させジェネルズの崩壊しかけている頭部へ殴りかかった。


「快! 焼き尽くしてやれええええ!!!」


 棕の叫びが響く。


 演奏が止まった瞬間、ジェネルズの動きは俊敏なものへと変わる。


 ジェネルズの歩みが再び動き出すと、それを許さないかの様にジェネルズの背後から――巨大な氷の槍が刺さっていった。


 やがて氷の槍は、ジェネルズの腕に留まった炎の剣の熱によって溶けていき、背中と肉体の内部を貫いたままに伸びていく。


 そして、伸びた氷の槍の先端は、凍てついた地面に密着した。


「やれ!」


 アイネスの声が、轟く。


「これで終わりだ、これで全部……………」


 快の体は宙へ浮かび、拳をまっすぐに――唯、一点に突き出した。


 再生する前の、ジェネルズの頭部へ。


 飛び散る肉片に逆らうように、何度も拳を叩きつける。


 叩きつけられた部位が焦げ、あるいは炭へと変わっていくことすら憎悪するかのように。


 ジェネルズの頭部が胴体から潰れ原形が無くなると、快はジェネルズの腕の剣を引き抜き――氷の槍ごと体を真っ二つに両断した。


 両断された胴体は、右腕を伸ばし快の方へ八歩歩くと表面に氷の張った地面へと、身を落としていった。


 ジェネルズの体が倒れた直後、快の身に纏った鎧は消滅していく。


こ の瞬間を以て――3分が、決したのである。


「やった……………これで、やっと全部が終わったんだ」


「やったな!! 快!!」


 棕は走り寄り、脱力し膝から崩れる快の体を強く抱きしめた。


 アイネスも、ジェネルズの体を前に胸をなでおろし、微笑む。


「はは、まさかここまでうまくいくなんて思ってなかったよ…………」


「無茶な賭けでしたが、大儲けってやつですね」


 完全に緊迫に固めて居た身を、棕に委ねながら快は返した。


「さて、次の問題はこの症状をどう戻すか、だね」


 アイネスが言う。


「そうだね。でもその前に休まな――」


 快がアイネスに笑んだ時。


 快の顔は、蒼白に染められる。


 次に起こったのは目の前で容赦なく――アイネスの雪の様な髪が、真っ赤に塗られていく様だった。


 棕が腕から快を離し、衣装を再び身に纏いギターを鳴らそうとするが――“怪物”が腕を上へ上げると、棕の口から血が噴水の如く噴き出ていき、攻撃を許さなかった。


 反射的に快は身をよじり、動こうとするが――体は一歩も動かず、片目と両手足の感覚が奪われる。


 わずかに残った視力で己の体を確認すると、全身にはタコの様な痣がこれまで以上にない程に濃く発現している事に気付いた。


「アイネス! 棕!!」


 叫ぶと、全身の血管が弾け、快の体に痛みが迸る。


「惜しいな、だが茶番も楽しめたろう」


 冷徹に言う、ジェネルズの左手にはアイネスの足が握られていた。


 宙づりになったアイネスは、必死にもがくがジェネルズの手から逃げ出す事が敵わず。


「うぐっ……」


「喰いそびれ、お前は肉体から魂だけを抜き、生き永らえているようだな」


「やめろ、止めるんだジェネルズ………………!!」 


流れ出る血に満たされた瞳でジェネルズを睨み、快はゆっくりと指輪のはめられた腕を動かそうとする。


 希望絶たれてなお、懸命に己を奮わせんとする、その様をみてジェネルズは歯を剥き出し、嘲笑った。


「では肉体はともかく、魂が消されればどうなるのか………教えてやろう」


 アイネスを上へ持ち上げた瞬間、快の目の前でジェネルズは――。


 アイネスの背中を、指で貫いた。


 貫通した部位は、確実に背骨を断ち、臓器を破壊していた。


「がはっ………………!」


 苦しむ様子のアイネスを、ジェネルズは一層快に近づけ、穴を開けた人差し指を動かし――快に見せつける。


「魂が消滅すれば、冥界、天界、魔界へ転生する事すら叶わず――存在が消える」


 嘲笑う、ジェネルズ。


「ここで、貴様という矮小な存在が何の成果も無く消えるのだ、これほど空しいものはないだろう」


 人差し指を引き抜くと、今度はアイネスの体を投げ――宙に浮かんだボールの様に蹴り飛ばした。


 空中で、力なく回転していくアイネスの体は、やがて地面に落ち、人型が潰れていった。


 体が潰れると、アイネスの意思のあった残骸が――快の眼前で粒子となって消滅した。


「喰いそびれは所詮喰いそびれ。玩具にすらならんな」


「う………………うわあああああ!!」


 狂ったように、快は絶叫する。


「泣きわめいたところで、喰いそびれは死ぬこともなく消えたという事実は覆らない。黙ってワシの糧になるが良い」


 ジェネルズが快の首を持ち上げる。


 それは、“偽りの太陽の裁き”を快に与えられるという事を意味していた――。


 視界も。


 希望も。

 

 生への渇望も。


 全てが潰えていく。


 平和だった、日常と共に。


「もう良い、お前の爆発力が馬鹿にならんということは解った」


 ジェネルズは、ポケットの中の宝石全てを―快の片足ごと、もいで奪った。


 奪った宝石と足を、ジェネルズはその場で丸呑みした。


 一部の宝石、唯一つは、浮かび上がり指輪にはめ込まれていったが、それに気づく間もなくジェネルズは次に、快から腕を奪う。


「まさに、手も足もでないといった様子だな」


 快の瞳は、濁りきりもはや言葉を返せるような状態ではなかった。


 無意識の中、快は力を振り絞り、残った腕の手にはめ込まれた指輪をジェネルズに向ける。


 すると、快の脳内に凄まじい轟音が鳴り響いた。


 それは、あの“病院”内で聞いたものと同じものだった。


「ほぉ、それでワシの強さを測ろうと? 知った所で何になる………では、死ぬが良い」


 ジェネルズの肉体が、だんだんと開かれていく。


 一瞬。


ほんの数刻だけ、快を掴む腕が――白く凍った。


 凍てついたその腕は、徐々にジェネルズの骨まで凍えさせ、指の一本一本が快の自重によって砕け散る。


「ふん、喰いそびれの足掻きか」


 地面に、快の体が転げ落ちると、周囲は白い霧に包まれた。


 全てが霧に閉ざされていくと共に、だんだんと快の意識は取り戻されていった。


「幻影魔術か。まぁいい、その痣がある限りは後々からでも殺せるだろうしな」


 ジェネルズの姿が、霧の中で薄い影となり、声は快から遠ざかって行く。


 白い霧はより深く、穏やかに快の体を包み込んだ。


 別れを惜しみながら告げるように、どこからともなく吹いた霧を払っていった風は、快の頬を撫でていた。


 快の耳には、うっすらと。


 それでも、快は耳に聞こえた声に――涙を浮かべながら力を振り絞り、意識を取り戻していった。


「生きて、生きるんだ。僕の代わりに生きてくれ」


 霧が晴れると、快の目の前の風景は先ほどまでの戦場と化した街並みが広がっていた。



 頭を東に向けると、立ち上がる棕の姿が見える。


(よかった……………)


 快が安堵していると、ふとした違和感に気付いた。


 自身を苦しめていた痣の痛みが、無くなっていたのである。


 快は自分の横たわる道路に張った氷に反射した姿を見てみると――痣は、薄い水色がかっていた。


(アイネス………)


 快は、最期の別れに――道路の氷の上に雫を零した。



 氷は、溶けていく。


 青空からの光を示しながら、ゆっくりと。


 透明に、少しづつ。


 それはかつて水だったことを、誰が知ろうか。


 水だった、水で居たかった氷の少年(アイネス)の望みは――ここで消えた。

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