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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
双眸に映る、黎明と宵闇
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第一話 始まってしまったstory 開くはtaboo

「…………こんなことをした、こんな運命を背負わせた奴の顔を見てやろう」


 病室で、少年は手に持った銀のカードを見つめ一人呟く。

 少年の名は、朝空 快。

 生まれついて病を患い――その命わずかとなっている身である。

 その病には、少年にカードと、宝石を与えた者曰くこの世ならざる者が関わっているという。

 快は、その者との戦いに臨まんとしていたのだ。

 快がふと、病室の時計を見ると時計は午前6時を刺していた。


(もう食事が運ばれてくる時間かな)


 ベッドの隣に置かれた、小型のテレビを点けて食事を待った。

 丁度テレビを点けると、地元のニュース番組が流れている。


『続いてのニュースです。天護県天護町内で推定13歳の少女が午前2時ごろ、天護公園内のトイレで遺体となって発見されました。発見者は偶然近くを通りかかった60代男性で、遺体の損傷が激しく、また一部にはタコの触手のような痣があったこともあり発見当初から通報が遅れ、通報を受けた警察庁は現在も遺体の身元特定に尽力しています』


(触手のような痣、か)


 タコの触手のような痣。

 それは、快の体にも刻まれた、病の証。

 死んだと報道されている少女に自身を重ね、思いを馳せていると快のベッドの扉が開いた。

 扉からは、看護師の姿が現れる。


「快くんおはよう、ご飯だよ」


 看護師は持ってきたワゴンに置かれたお盆を、快に渡した。

 お盆の上に置かれているのは、色のついているペーストとそれを掬うためのスプーンだけ。


「はい、いただきます」


 快は、スプーンを取りペーストを口に運んでいく。


「内臓まで病気じゃなければ、もっと色んなものをたべられたのにね」


 看護師の同情にも近いそれは、快の機械的な匙を止めた。


「ですね、でも………いいじゃないですか。おかげで健康的に過ごせてるので」


 快は、再び匙を進めながら笑って返す。

 それを見て看護師はただ黙って、その場を去っていった。

 しばらく食事を進めていると、ベッドの枕元に置いていた小袋の中身が妖しく光った。

 小袋を開けると、いくつかある宝石の内の赤黒い宝石だけがぼんやりと発行していた。


(えっと、指輪の宝石を取り換えるんだっけ)


 人差し指にはめていた指輪に付いた赤い宝石を軽く引っ張ると、宝石は綺麗に取れた。

 快が宝石のはめ込まれていたくぼみに、発光している宝石をはめ込むと―――快の頭の中から声が響く。


『Guten Morgen! Bonum diem! Good mooning! おはよっ!』


 声の主は、快に指輪とカードを与えた存在。

 ソロムと名乗る男である。


(グッドモーニングとおはよう以外わからないんですけど。それと食事中です)


 快がそう念じると、反応が脳内で受信される。

 宝石の一部には、念話による通信機能が備わっているのだ。


『知ってるさ、しかし色々と大丈夫か?』


(知ってるさって…………今どこにいるんですか)


 問いかけると、脳内にこの世のものとは思えぬ絶叫が響いた。


『俺? えとここどこだっけ…………あ、ドイツのバイエルン州。今早速化け物と交戦してるんだ。悪い、さっきのは俺が倒した奴の悲鳴――んなことより…………お前の病の“元凶”の一つは、お前の近くに丁度いるらしい』


(近くって………具体的な位置は?)


 悲鳴と、何かが破裂する音と共に、ソロムは声を送る。


『わからんから、昨日の夜にあんなこと言ったんだろう。だが、おおよその位置は特定できる』


 次の瞬間から、破裂音は途絶え。ソロムの声ははっきりとしたものに変わった。


『いいか、元凶の居るところは野良の化け物が潜んでいてな。片目の色が左右で違う人物が集まっている傾向にある。そして、左右で目の色が違うやつに今使ってる宝石を見せてみな。面白い事がわかるぜ………そんじゃ』


 それだけ伝えると、脳内に糸が切れたかのような音が残り、耳鳴りが快を襲う。


(うっ…………初めて使ったけど、この通信ってこんなデメリットがあるのか)


 食事を終え、テレビを見ると時計は6時32分を示していた。


(もうこんな時間か…………主治医の医者曰く、毎朝六時からは出ても良いって言ってたし…………)


 快は、枕元の袋をズボンのポケットへしまいこみ、ベッドから下りスリッパを履いた。

 履き終えると、快は病室の扉を開け、その先の廊下を歩いて行った。

 点滅を繰り返す蛍光灯に照らされた廊下は薄暗く、黒く濁った色の廊下により退廃的な空気感を醸し出していた。

 しかし快にとっては、見慣れた光景の一端に過ぎない。

 快が歩みを進めると、エレベーターのドアが視界に入ってくる。

 エレベーターのスイッチを押し、快はその前で立ち尽くした。


(とりあえず、外へ出てみよう。確か元凶の近くには化け物が………)


 ソロムとの会話時の記憶が、快の頭に巡る。

 ピンポンという音で報せるエレベーターの到着に、快の足が震えていた。

 震える足は、到着を待っていた者を招く扉の前ですくみ、歩むことを拒む。

 それでも、快は無理矢理、全身をエレベーターの前へ自身を突き飛ばすかのように乗り込み、ボタンを押した。

 押されたボタンに応え、エレベーターは扉を閉めて下降していった。

 降りた先には、狭い廊下。

 廊下を左に曲がると、ガラス張りの玄関がそこにあった。

 快は、玄関へ向かい下駄箱の中にある自分の外出用の靴へと履き替え、スリッパを代わりにそこへすり替えた。

 外へ出ると、快の視界は一気に光に包まれた。

 光が視力を返すと、眩く広がるのは陽炎に揺らぐ道路に人々の行き交う歩道。

 何の変哲もない、人間社会の日常風景である。


(事件が起こった場所に一度行ってみるか…………確か丁度あそこは北にあったっけ)


 快の目指す先は、報道されていた天護公園。

 炎天下の中、快は一人歩みを進めていった。


(にしても、凄いや……まるで足が自分のものじゃないみたいだ。足がどんどんと進む!)


 そんな思いを胸にしつつ、快が北へ凡そ5㎞進み、公園の入り口へ辿り着くとそこにはただならぬ雰囲気で満たされていた。

 警察が捜査していると報道されているのならば、封鎖されていても何らおかしくないにも関わらず、公園の入り口は―――。

 バリケードテープすら貼られておらず、パトカーが来た形跡すら無かった。

 快は、公園内へ入り恐る恐る周りを見渡した。

 そこにもはや人影すらなく、まるでそこだけ時が止まっているかのようだった。

 天護公園はブランコやジャングルジム、滑り台などの遊具に恵まれた今どき数少ない公園で、休日や祝日は子供たちの声が響いていた。

 それが今では、見る影も無く。

 風に吹かれて軋むブランコは、そこは少女の墓標と言わんばかりに痛々しくさびれた音を奏でる。

 快は、唯一見回りを後回しにしていた箇所へ足を踏み入れる。

 遺体が見つかったという、トイレである。

 快がドアノブを握ると、一気に鈍重な不快感が生温い手の感触と共に襲う。

 早朝に似つかわしくない、重々しい空気が漂っているのが、ノブ越しに快へ伝わっていた。

 そんな快の額に伝うのは雫。

 今朝のニュースと、ソロムの言葉が脳内で反芻される中、トイレから声が聞こえてくる。


「ふん、これでは何の足しにすらならん」


 男の声だった。


(足し? もしかしたら記者の人かな…………)


 声に勇気づけられたように、ノブを回し開くと――――――。

 そこは、幼い少年が目にするには凄惨な空間となっていた。

 床は白い骸が転がり、その奥の便器の中にはあふれんばかりの同様のものが詰め込まれている。

 便器の隣には、酷く赤く染められた異形の鋭い右手を開いては閉じる、王冠を被った怪物が居た。

 その怪人は、何かを咀嚼していた。

 元々染み付いているであろうアンモニア臭と死体の放つ刺激臭とが混ざった鼻を侵す臭気、異形の者のその造形に快は自然と嘔吐する。


「何者だ、私の食事を邪魔する者は……」


 後ろに居た快に気付いた怪人は、うずくまっていたその身を立ちあがらせた。

 怪人の右手は、八本の指の一本一本がかぎ爪の様になっていた。

 怪人の背中からは、蜘蛛の足のようなものが飛び出しており、頭からは猫耳が飛び出し、瞳は鋭く。

 快は、怪物のその姿に腰を抜かし尻もちをついた。

 声すら、出せずに。


「ふん、魔力も無い子供だが………人間であるならば、多少の腹の足しにはなろう」


 怪人は快に狙いを定め、爪による刺突を放つ――――――。


「ひいっ!」


 快は、それに対して両方の腕で顔を覆った。

 すると、指にはめていた指輪が眩く輝く。


 怪物は指輪の輝きに、反射的に目を一瞬手で覆った。

 苦しげなうめき声と共に動きが封じられ、暴れ回る。


 今だと言わんばかりに、快は扉を蹴破りその場を脱した。


 快がもつれかける足を引っ張り、全力でその場からの逃亡を図る。

 持ちうる限りの、全速力。

 快は、走りながら直感で全てを察した。

 アレが、アレこそが―――。

 ソロムが相手にし続けているという、警告していた“怪物”なのだ。と。


「もう良いでしょう?」


 快が去ったのを見計らい、少年は、魔法陣の中から怪人の目の前に出現し、快を見失った怪人に話しかける。

 すると、怪人は右手で少年の顔を薙いだ。

 一撃を受けた少年は、1m先の地面へと吹き飛ばされた。


「私に指図する気か、没落魔術師風情が。………まだ私の腹は満たぬ、満たされぬといっておるのだ」


 怪人は、少年の服を掴み持ち上げる。


「良いか、偶然利害の一致で貴様のような弱小な魔術師に付き合っているだけという事を忘れるな。………魔力だけは、デモニルス歴時代の魔術師達より高いがな」


「わかってる、だから殴るのは…………やめてほしいな、魔王の器(ダーク)・バエル」


 少年が目をそらしながらそう言うと、怪人は手を放した。


「…………ねぇ、魔王の器(ダーク)・バエル。銀髪の怪物は見つかった?」


 バエルはそれを聞き、鮮血に染められた頬を腕で拭い答える。


「見つからないし、手がかりは無い。銀髪の怪物に関しては追跡しようにも追跡が不可能な上神出鬼没だ、特定も出来ぬ」


 少年は服の埃を払い、立ち上がるとバエルの近くへ寄った。


「あの女顔・野蛮魔・小蠅がここへ来ていないのならば、私が天下と思っていたがままならんものだ」


 独り言を零す、バエルに少年は問う。


「待って、間違いなく君が最強なんだろう?」


「あぁ、しかし厄介な品を持った者が居たものでな…………」


 バエルは、轟音を響かせ、アスファルトの地面を蹴り潰して憎々し気に言葉を発した。


「………アレは間違いない、あいつのポケットからはみ出ていた小袋からは、膨大な魔力を感じた。あれは間違いなく銀髪の怪物のそれと見ていいだろう」


「そういうのを見かけたなら、これから静かに行動しよう」


 少年はアスファルトの砕かれ、岩盤が露出した地面に手をかざす。

 すると、アスファルトはみるみる内に元の形へ戻っていった。


「とはいえ、この私がたかが子供の為に策を講じてやる事も無いだろう。みるからにまだ、アレの使い方は解っていないらしいからな」


「わかった、じゃあボクがちょっと接触してみるよ。どんな特徴してたの?」


「茶髪の、見るからに、病弱そうな東洋人の子といったところか」


 バエルは興味なさげに少年からそっぽを向きながら答える。


「それ以外の特徴がなくちゃ、わかんないな………それ以外は?」


 少年が再び質問を投げかけると、少年の首元にはバエルの右手の爪が立てられていた。


「私に人間の違いを教えろなどとは愚かしいな、貴様らとて獣畜生の個々の特徴など品種でしかわからんだろう……東洋人か、西洋人か。言葉はどうか。私から見れば人間の違いはそれだけだ」


「わかった、ごめんなさい」


 謝罪を聞き、バエルは右手を下げた。


「ふん、私は好きにさせてもらうぞ」


 バエルは少年から離れる。


「うん、いいよ。楽にやって」


 少年が無表情で言うと、バエルは地面を蹴り遠方にそびえる摩天楼群の屋上を駆け巡り、消えていった。


「……面倒臭い事になるな」


 少年は呟く。

 ――陽に照らされた蝉の鳴き声と道路の通交に、静かに交わらんとする運命は、照らされぬ影の下開かれる。

 太陽は明るく、影から目を背けながら。

 影は暗く、太陽を前に目を瞑って。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 [一言] ダークファンタジー何出てて良かったです。
[一言] 間髪いれずに動きのある展開に持っていくところもうまいですね。アニメ化されたの作品の小説版でも読んでいるかの様な雰囲気があります。得体がしれない奴が相方なのはとっても好きな展開です。
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