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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
双眸に映る、黎明と宵闇
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第十五話 その胸にあるのは

 人で賑わう遊び場たるそこは、少年を捕える牢獄へなさんとしていた。


 快は走り、元居た場所へと向かう。


 しかし、歩けども駆けようとも、光景が変わる事もなく。


「どういう事だ?」


 その様はさながら、“柵”へ囚われたかの様だった。


「どうかな、この俺の“魔術”は。生前の戦法からヒントを得たものだが」


 快の頭には、相変わらず男の声が響く。


「誰なんだ、一体何のために僕を付けてきたんだ! 答えろ!」


 快が叫ぶと、やがて目の前の景色は霧に包まれながら一変していく。


(これは……………アイネスの時と似ている…………?)


 快は、冷静に周囲を見渡しつつ、指輪に付ける宝石を取り換える。


 変えたのは、赤黒い宝石――“ダーカーズデビルノコン”だった。


 快が霧に閉ざされていく全てを睨んでいると、だんだんと眼前に映る景色は変わっていく。


(ここは一体、どこだ? 声も聞こえてこなくなったし…………)


 快がじっとただ立ち尽くしていると、完全に景色は真新しいものとなっていた。


 快の正面には、寺のような建造物が建っており、常に燃え続けていた。


 快が近づき、寺の庭を覆う炎に触れると、その炎には不思議と熱は無く、手のひらを入れても感触は何も伝えずにいた。


(何が起こっているんだ? アイネスの場合は瞬間移動魔法で片づけられるが…………これは何なんだろうか)


 疑問を口にしていたその時。


「かっかっかっか、驚くのも無理は無いか。話をしようと言っているのだ、こちらへ来い」


  男の声が、寺の奥から聞こえてきた。


「何、俺にとって“リラックス”できる場所へ招待してやったんだ、別にそうかしこまったりだとかしなくてもいい」


  快は、声の聞こえる方へとゆっくり歩み寄って行く。


 炎をかいくぐり、誰の姿も見えないその寺は、快の直感に訴える。


 “ここは、足を踏み入れてはならぬ場所”だという事を。


 寺の中へ入り、座敷に足を踏み入れた瞬間――快の体に衝撃を伝えた。


 電撃に等しい、刹那。


「おま…………いや、あなたは…………」


 目の前の、男の姿に。


「――驚いたろう、俺のこの姿に」


 スーツを着崩し、あぐらを掻く青年。


 しかし、その面持ちと身体から放たれる威圧感が彼の者の正体と名前を主張する。


「あぁ…………みなまで言うな、聞かれては困るからなぁ、少年」


 快は、流れる汗を抑え、指輪を向ける。


 すると、男は頬杖をつきながら、側に置いていた抹茶を啜りだした。


「さて、どう診断されるかね」


「…………物理力C 肉体 C2 知恵 A 知識 B2 魔力 C 瞬発力 B ………まさか、まさかあなたが現代に顕現するするなんて」


 快は思わず呟く。


「はっ、冥界とこの現世………地上界との境界があやふやになってる以上、我が望みを果たすには絶好かと思うてね。さて、俺のしたい話はこんな事じゃあない。問題は――わかるだろう」


 男は、快の目の前に置いた茶碗に急須を注ぎながら言った。


「少年、己の病の元凶もそうだが――“敵”は、多いぞ」


 男が、快に“座れ” と言う代わりに首を斜め方向に一瞬向けると、快はそれに従って黙って正座で茶碗と男の前に座る。


「敵…………銀髪の怪物、悪魔を操る組織に、町で暴れる魔族ですか」


「ふむ、それもあろう。だが、世は混沌。誰が敵なのかわからぬ以上、見えるもの全て――敵と思っておいた方が良い」


 男は快の前で茶を一気に飲み干し、茶碗を置いた。


「そうそう…………特に、俺は奴らの正体を知っている」


 男の言葉に、快は眉をひそめた。


「奴ら?」


「奴ら、というのは他でもない。少年がソロム と呼び親しんでいる輩と――対となっている銀髪の怪物の事だ。長い間、俺は観察していたんだ。悪魔を操る教団の行く末と、教団の崇める怪物を。少年にならってソロム、と呼んでやろう。ソロムも、銀髪の怪物も能力は計り知れない」


 快は、前のめりになって男に訊ねる。


「計り知れない………僕の戦った、バエルのように?」


 対して男は、首を横に振った。


「アレと同等であればどれほどよかった事か。あいつの前では魔王も、じょうろに流されるアリの如く蹂躙されていく。街で、八岐大蛇をみかけんだか?……アレは、俺が街中での奴の戦力を分析する為に送り込んだ」


 男のその告白に、快は思わずポケットから印章封印札を取り出す。


 そんなやつを…………どうやって従えた?

 快の疑問に答えるように、男は、話を続ける。


「少年は、ソロムが銀髪の怪物と戦ってさえくれれば万事解決と思っている節があるようだが…………それは違うぞ」


 快に顔を近づけ、男は語る。


「勝利した方が、新たなる敵になるだけだ」


 それを聞いた瞬間、快の茶碗を持つ手が震えた。


「どういう、事ですか?」


「ふむ、ではソロムが求めているのは、怪物が求めているのは何だと思う?」


 快に問う。


「………なんでしょう」


「奴ら双方が求めているのは、秩序だ。だが、根本からしてその意味が違う」


 男が立ちあがると、男の背後で燃えていた炎が一気に鎮火されていった。


「ソロム、あいつが求めているのは“己の意味を示す自由ある秩序”だ」


 快は、それを聞いて首を傾げる。


「何が悪いのか とでも言いたげだな? 言葉は確かに悪くないだろう。だが、奴の場合は大問題だ。力を以て、奴は地上界、魔界、天界、冥界の侵略者…………即ち、平たく言って俺の様な冥界に居るべき輩を容赦なく消滅させることだろう。それもまた問題ではない、だが――ソロムをめぐって、より争いは激化していくだろうな」


「どういう事です?」


「魔界の大物が、天界の神々が、冥界の王が、地上の主が、奴の力で悉く消されれば――それぞれの世界の者達はどうなるとおもう?」


 男は、一間置きつばを飲み語った。


「―――それぞれが奴を潰す為に結託を結び、二度と平穏が訪れる事は無くなる」


 快は、固唾を飲んだ。


 男の語る、訪れるであろう結末を前に。


「しかも、四者は相いれる事はない。それに加え、ソロムはそうして四つの世界を守護してきただけに、戦う事に使命すらもっている。“己の意味を示す秩序”とはそういう事だ」


「つまり?」


 快が、聞き返すと男は眉を数舜動かし答えた。


「とどのつまりは――奴の“自由”が、世界を滅ぼす」


 それを聞いた快の、茶碗は震える。


「だが、だからといって銀髪の怪物と呼んでいる存在が完全復活し、ソロムに勝利しようものならば同様に各世界は奴を狙い、人々は戦禍に巻き込まれることだろうよ。薄々気づいてはいるだろうが………これはもはや少年だけの問題ではないぞ」


 男は、快の瞳を覗きながら言う。


「――そこでだ、俺と共に戦わないか」


 快は、男の提案に対し――返した。


「何が、目的なんですか。だってあなたは確か史実では――」


 男は笑う。


「目的? 決まっているだろう。遅れきったこの日本を俺が整い直すのだ。そして愛する民の為にも、邪魔な害獣を駆除する。それだけだ」


 さも当然のように言い放ち、話を続けた。


「冥界でのかつての顔ぶれは、復活から身を引いていたが俺は違う。利用できる力、必要な知識、使える利器を存分に振るえば――天下を取れる筈だ。少年、俺の目的も少年の目的も同じならば、一つ協力しないか?」


「何を?」


「二つの怪物を、倒すのだ」


 協力を持ち掛ける男の瞳は、妖しく燃えていた。


 その(ほのお)は、快を引き込んでいく。


 焦がれる程の執念を感じる眼に覗かれながら、その男に手を伸ばされることで、快の中に、例え難い歓喜の感情が流れ込んでいく。


 それこそが、この男の業を成し得たものの正体なのだろう、と快は感じざるを得なかった。


 雷の如き、人を貫かせる才覚(カリスマ)


 快は、迷わず手を取った。


「良い、それで良いのだ少年」


「何か、あるんですね? その二つの怪物を倒すための“何か”が」


 快の質問に、男は顎を擦りながら言った。


「あるとも、とっておきの策がな。怪物には、同様の怪物をぶつけてやり……ぶつけた怪物もついでに封印するんだよ」


 そう言って男は、懐から何かを取り出す。


 それは、一枚の印章封印札だった。


 しかし、その印章封印札は、快の持つものとは全体の色が異なっており――漆黒に染まっていた。


「これ………なんだと思う?」


 男は、印章封印札を快に手渡した。


 手渡された印章封印札をまじまじと見つめながら、快は考える。


(どす黒い…………いや、焦げてひび割れている? 何故?)


 黒光りする印章封印札は、ところどころひびが入っており、まるで壊れているかのようだった。


「それは、印章封印札の“プロトタイプ”……………“オリジナル”ともいえるな」


「プロトタイプ?」


「あの怪物たちを――“幽閉”するための機構のカードだよ」


「幽閉?」


「そうとも、印章封印札は全部、捕えて強制的に契約したものは元居た場所へ還され、都合の良い時にだけ所有者が召喚できるようになっているが、その機能はそれを作り出した際に生じた副産物に過ぎない。詳しくは解らないが、元はこの世界と世界の境目に追放し、閉じ込める為に作られたのがこのオリジナルということらしいでな」


 そんなもの、一体誰が? 何の為に?

 脳裏によぎった疑問。

 快が質問をする前に、男は話を切り替える。


「――話が過ぎたな、俺はこうして隠れなければ狙われてしまうであろう身なのでな。もし、奴が弱っている様子ならそれを使うんだ」


 男が腕を組み、再び座ると寺の炎が再び燃え出す。


「情報が欲しければ、それ越しに話しかけるが良い。任意契約という奴だ―――」


 男の体が炎に包まれていくと、辺りは霧に閉ざされていった。


 快がふと下を向くと、快の手もまた炎を纏っていた。


 熱も無く、体が燃え尽きていく不思議な感覚が、視界の認識を蝕んでいく。


 そうして、炎は快の視界を奪っていった―――。


「おい、起きろ! 起きなって!………………んっ!」


 暗闇は、唇と胸の圧迫感、香水の匂いによって晴れていく。


「あっ………むぅ」


 近くでは、アイネスの声も聞こえていた。


「ぷはっ!? けほっ……………けほっ」


 快がむせながら起きると、そこは、ゲームセンター内のベンチだった。

 

 その正面には、棕の顔面。


「よかった、長いトイレだなって思って、迎えに行ってたらトイレ近くのクレーンゲームコーナーで倒れてたもんだから、人工呼吸してたの」


「そっか――ってええ!!?」


 快の顔は、赤く染まる。


 それはさながら、寺を焼いていた炎の揺らめきのように。


「あの、ありがと…………」


「いいって事、マジで救急車沙汰にならなくてよかったよ」


 へらへらと笑う、棕に対して快はただ、赤面する他に無かった。


(ありがとうって言って良かったのかこれって?!)


 心の中で叫びつつも、快はズボンのポケットの中の違和感に気付く。


 ポケットの中には、黒い印章封印札と銀の印章封印札が入っていた。


 その銀の印章封印札には、魔法陣の中に木瓜を模した紋が描かれている。


(――夢じゃなかった、というわけか)


 快はベンチから起き上がる。


「快、大丈夫なの?」


 アイネスが快の肩に手を置きながら訊くと、快は答えた。


「うん、息抜きも出来たし、これで十分だよ――さて、店を出たらユンガさんの報告を聞こう」


 快は、自動ドアへと歩みを進めていく。



 “仲間”を引き連れて―――。


「偵察、ご苦労」


 男は、銃を磨きながら背後に立つ影に語り掛ける。


 影の主は、答えた。


「銀髪、交戦後逃亡。悪魔属魔王弟、重症。ソロム、追跡中」


「ふむ、で、銀髪のはどこへ逃亡した?」


 男が問うと、影の主――アバドンは返す。


「魔界へ逃亡」


 魔界へか……………まずいな

 男が思いを巡らせる。

 男は、スーツのポケットから六枚の印章封印札を取り出しながら脳内で呟く。


「…………アマイモンは、どうした」


「戦闘不能。魔界にて肉体的戦死、労ってやれ」


「そう、か」


 アバドンの報告を聞き、男は一枚の印章封印札をその場で投げ捨てた。


「キマイラ、八岐大蛇、アスモダイ、シトリー、テュポーン…………戦力になりうる輩は全て戦力としてみたが…………せめて、完全復活の妨げにはなれただろう」


「……………残るは、同じような連中と奥の手だけ、か。……我が化身にして、魔力の源」


 男は、六枚の内一枚の印章封印札を手に取り念じると――青年の姿から、甲冑を着た貫禄溢れる面持ちの壮年へと変化した。


「第六天魔王の名は、今は貴様の物だと認めてやろうぞ。ヴァシャ・ヴァルティンよ。だが、人々の享楽と向上を奪う事はこの俺が赦さぬ。貴様を頼っているのではない、利用しているだけだ」


「…………人間風情が、よく、魔王の力を扱えたもの、だ」


 アバドンが呟くと、男の銃から閃光が放たれる。


「…………人間風情? たわけが、そもそも悪魔風情が魔王を名乗るな」


「……天下の大うつけ、と呼ばれる所以、今理解した」


 アバドンは、目の前の霊を前に言った。


 現代に蘇った、かつての“日本(せかい)の魔王”。


 そして、魔王すらも恐れる怪物の正体。


 少年の背負わされた、宿命。


 渾然とした、世紀末を本能のままに進みゆく者達は、戦禍の中心へと。


 それぞれが秘めた、その胸にあるのは――?

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