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‐禁忌の召喚者‐ ~The Toboo summoner~  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
双眸に映る、黎明と宵闇
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第十四話 引き戻されていく、深淵へ。

 一行は、教会を出て北へ二㎞離れていった。


 教会から、逃げるかのように。


「あれで、本当に終わったんだろうか」


 快は、言葉を零す。


「さぁ、問題はあの銀髪のおにーさんの方じゃない?」


 棕が返すと、思い出したかのように快は反応した。


「そうだ、元凶の一つに心当たりがあるっていってた…………あれはどうなったんだろう?」


 快は、ポケットにしまっていたカードを取り出す。


 取り出したのは、ユンガとの契約をしたものだった。


「ユンガさん、応答を」


 カードに話しかける。


 しかし――カードはなんの反応も示さずにいた。


(何故? もうあれから2時間は経っている筈……不安だけれど、しばらく返事が返ってくるまで待つかな)


 快がカードを再び戻した直後。


「快、顔が少し青いよ。大丈夫?」


 快の顔を、覗き込むアイネスの姿があった。


「大丈夫、気にしないで」


 快が微笑んで返すと、アイネスはそっと快の側から離れていった。


(これで目的は一部達成したけど……)快は、深く瞼を閉じて思考を巡らせる。


 時間にして、20分の思考の末、声が響く。


「ねぇ、息抜きしようぜ?」


 棕の声だった。


「息抜きって?」


 快がおうむ返しに問うと、棕は無邪気な笑みで答えた。


「いや、こう? なんかごたごたしたことばっかり起きてさ、気を張り詰め過ぎてないかと思ってさ」


 棕の言葉に、快は我に返る。


「思えば、確かに最近休めてないし…………いいかもしれない」

 

 快は頷いて、言った。


「じゃあ、どこへ行く? 街は壊滅してしまったし、遊べるような場所なんて…………」


 快が返すと、棕はにこやかに言い放った。


「あるよ、とっておきの息抜きの場所が!」


 棕が指さした先には――都市の入り口ともいえる、摩天楼群があった。


「町って、一つだけじゃなかったんだ」


 アイネスが呟く。


「そうそう! おいで、ゲーセンまでひとっとびだ!」


 棕が快の手を思いきり引き、数々のビルのそびえる街中へ飛び込んでいくと、アイネスもそれを追っていった。


 一行が田舎道から横断歩道を渡っていくと、ショーウインドーと街路樹に挟まれた、若者でにぎわう歩道へいよいよ進む。


 ショーウインドーに映し出されるのは、戦ってきた己らの姿。


「ほらほら、遅いよ、しまっちゃうじゃんか!」


 快の手を引っ張り、陽に照らされた棕の笑顔は眩しく。


 快はそんな棕の様子を見て、はにかんでいた。


 (みんな楽しそう………“ゲーセン”ってなんだろ、見てみたいな)


 アイネスが密かに、期待を胸を弾ませていると、棕と快の足が止まる。


「ここ! いつも世話になってんだ!」


 辿り着き、目の前のそこにあるのは、若干さび付いた看板を掲げた、ゲームセンターだった。


 古めかしさを醸し出した看板の下の自動ドアは、透明になっており、快が足を延ばすとすぐさま反応し中へ迎え入れた。


店内は、看板から匂わせる雰囲気とは相反して色とりどりなゲームが並んでおり、親子連れの客がちらほらと居る。


「やっぱここだね~! ねぇねぇ、何するよ?! とりあえず初手はメダゲーっしょ、お金はうちが払うよ!」


 店内へ入るや否や、棕は興奮し快とアイネスに目線を合わせる。


「じゃあ、このシューティングゲームやろう!」


快が注目したのは、台座に火縄銃を模したコントローラーの置かれたアーケードゲームだった。


「お、“DEAD OR ALIVE NOBUNAGA”ね! やろやろ!これ最大四人同時プレイ可能なんだよね~!」


快がコントローラーを手に取ると、アイネスは隣に立ち、棕はいつの間にか百円硬貨を四人分台座に入れていた。


「アムドゥ! 遊ぶよ!」


棕が元気よく言うと、ポケットの印章封印札からアムドゥシアスが飛び出し、すぐに火縄銃を構えた。


「今回こそは、カンストしますよ!」


 アムドゥシアスは意気込む。


「よくわかんないけど、見よう見まねで」


 一方で、アイネスは他三人の操作を見ながら操作していた。


「ゲーマーの実力、見せてやる!」


 快がコントローラーのトリガーを引くと、ゲーム開始の文字が台座の正面に置かれた画面に表示される。


「いうて引っきーっしょ? こちとら世界出てるんでね! 体力ならこっちが上手なの!」


 棕も同時に、トリガーを引くとオープニング映像が流れ敵キャラクターが画面いっぱいに出現した。


 火縄銃の照準を合わせ、三人はトリガーを引き、敵を倒していく。


 それを見てアイネスは三人に遅れたペースで、敵を撃っていった。


「ヘッショコンボ!! ふっふー! 56キル!」


「甘いですね! 60キル!」


「ぐぬぬ………48キル…………コンボはともかく、僕はボーナスアイテムも拾ってるんだ、負けてたまるか!!」


「ばん、ばん…………12か13とか出てるけど、これでいいのかな」


 四者四様に、白熱しゲームに興じる。


 そこにはもはや紛れも無く、種族や年齢、病を越えたものがあった――。


 「っしゃおらぁい! フルコンボ!!」


 ゲームをクリアし、台を思いきり叩く棕。


「クリアタイムですかね……………今日もカンストならず」


 アムドゥシアスは対して、そっとコントローラーを台に置き戻し、汗ばんだ手を振っていた。


「だめだぁ~、二人ともヘビーユーザー過ぎないかな?………百コンボで切れた時は焦ったし………」


 快は汗で全身を濡らし、息を切らす。


「ふぃ……………たのしかったぁ」


 エンディングを最後まで見終わり、アイネスは、ゲームでの勝負の反動に燃え尽きた三人を差し置くように目を輝かせ、コントローラーを置いた。


「ええい、次のゲームで勝負だ! あの音ゲーで!」


 快は切らした筈の息を早急に整え、指を伸ばす。


伸ばした先には、ギターを模した形状のコントローラーが置かれたゲームがあった。


「ぷっ、プロに勝負挑むとかすげぇな。その根性、嫌いじゃないよ!」


 鼻で笑いながら、棕はギターを構える。


そして、快は台座の前のディスプレイを撫で、演奏する曲を選択した。


選択した曲は―――。


「blue rose chein ! あなたの曲で、あなたを越える!」


 快は高らかに宣言する。


「いいよ、そうこなくっちゃ! だけど、思い上がりってこともあるんじゃねぇ?!」


 宣戦布告を受け、ギターの音が、ゲームセンターに広がっていった。


 その一連のやりとりをアイネスとアムドゥシアスはアイスクリームを食べながら見ていた。


「気分だけアムドゥに合わせる。あ、快、頑張れ~」


「魔術で出来たアイスとは……棕も手加減するのですぞ~」


 そういった傍から、演奏は始まっていた。


凄まじい弦と弦のデュエットは、熱気さえ生んでいる。


 時間にして、約3分後。


 決着は、ついてしまった。


「はぁ、ふぃ……………うちの曲なのに……………1万点中100スコア差で負けた………………」


 コントローラーを台にかけ、棕はその場で膝から崩れ落ちた。


「伊達にいつも聞いてないもんでね! もう覚えてるから!」


 快は、額から雫を滴らせ、ピースサインを見せる。


 勝負を見ていたアイネスとアムドゥシアスはただ、拍手をするほかになかった。


「おお」


「オリジナルを超える、模倣とはなんたる奇跡。もしや音楽の才能があったり?」


 アムドゥシアスがよると、快は崩れた棕に手を伸ばしながら言った。


「音楽の才能なんてない、ただ大好きなものを真似しただけ。いい曲を作る事は、なるそーにしかできないことだからさ」


「うー今に待ってろ、誰も真似できない曲つくってやるから」


 棕は立ちあがり、快の肩をぽん、と叩く。


「へへっ……………あ、トイレ行ってくる。みんな、待ってて!」


「おう」


 快は、人混みの中をかき分け、トイレの方へ向かった。


 男子トイレへ着き、用を足し終えると――。


「よぉ、お主がか」


何者かの声が、背後から聞こえてくる。


「うん…………どなたですか」


 快が後ろを向くと、そこには誰も居らず、トイレの薄汚い茶色に染まったタイルだけが広がっていた。


「なんだったんだ?」


 焦るように、快がトイレを出た瞬間。


「少年、無視は困るぞ?」


 声が再び、快の脳を支配する。


「誰だ!? 悪魔か!」


 反射的に言うと、笑い声で返されていった。


「俺が悪魔? 笑わせるな、俺は断じてそんなチンケなものじゃあない」


「なら、姿を表せ。話はそれからだ」


 快は指輪を構え、人ごみや目に映る全てを睨んだ。


「互いに敵か味方かわからぬのに、一々手の内を晒すような真似をするかね。そう、その指輪とてそうだ。俺ならもっとうまく扱えように」


 声に、快は寒気を催す。


(こいつ……………この指輪を知っている?! どこからどこまで………………)


「指輪の事なら、少なくとも少年よりもはるかに存じているが?」


「こっ………心が読めるのか?」


「あぁ、もっとも、これは俺らの特権だが、ね」


快は、走り出した。


 店内を駆け巡り、仲間の元へと。


(まずいまずいまずいまずいまずい!!!!)


 日常から一変し、またしても深淵へ足を引きずり戻される。


 翻弄される運命に、抗う術は今は無し――。

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