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ハードボイルドの独り言(仮題)

ハードボイルドの独り言(仮題)そのニ

作者: 観音寺 和

〜カーネーションと木瓜(ボケ)の花〜

 花言葉って誰が最初に言い始めたのか。

 新しく追加される花言葉はその花を作った生産者が付けたり一般に募集したりするそうだ。

 ちなみにそう言う花言葉を管理する機関は現時点で無いそうだ。

 名前付けたもん勝ち、とか言うと何か良くわからんマナーを押し付けるマナー講師の顔が浮かぶ。

 ────あれと同じかと思うと格が下がるな。

 こんな商売(探偵業)をしていると色んな依頼者がやって来るんだ。

 ────あれは確か浮気調査だったか。

 あるマナー講師の妻からの依頼で旦那の素行調査を一週間やってほしいという依頼だった。

 調査初日からあっという間に尻尾を掴んでしまったが、その頃我々は暇だったので当初の依頼通り一週間張り込み続けた。

 ────結果出るわ出るわ、コイツは一体何者だと言うくらい、手当り次第あっちこっち………。

 守秘義務があるからこれくらいにしておくが、まぁ、なんのマナー講師かと当時思った記憶がある。

 まず人にマナーを教える前に、人としてのマナーを身に着けてほしいと思ったね。

 以来マナーと言う言葉には反吐が出るね。

 そんな訳だから、誠に私情からくる思いで恐縮だが、一刻も早く花言葉を管理する国際団体の設立を願う。

 言っておいてなんだが────ここまでガラパゴス化した業界をまとめようとするとどうなるかと思案してみたが、荒れる会議場の絵しか思い浮かばんな。

 まぁ、自分のようなハードボイルドは花言葉と縁遠い生き物だから勝手にやって頂いて結構だがね。

 ………まぁ、あえて何か発言するとしたら、『調査が必要なら是非我が探偵社に御依頼を』これくらいかね。


 ────話は変わるが自分はカーネーションと木瓜(ボケ)の花が好きだ。

 カーネーション=母の日というイメージが強いと思う。

 ハードボイルドのような感謝を伝えるのが苦手な人種には口を開かずとも母への感謝を伝えてくれるこの花は大事な存在だ。

 まぁ、問題があるとすれば100年以上前にアンナ・ジャービスとかいう何したか良くわからん女が自分の母親を讃えて命日におっ始めたのがきっかけだと言う、我々にはちょっと理解しかねるイベントな事くらいだ。

 でもまぁ、母親のアン・ジャービスは讃えられて当然と言えば当然と言うくらいの活動家のようではあるから良しとしよう。

 カーネーションの花言葉は基本的には母親への愛情を伝えるニュアンスのものが多いが、黄色いカーネーションは嫉妬とか軽蔑とかと言う意味合いもあるようだから注意が必要と書いてある。

 ────が、こんなのを気にしてはハードボイルドは名乗れないのだ。

 逆に照れ隠しに黄色もわざとらしく混ぜるくらいがハードボイルドだ。

 ────我々の様な人種は不器用ですから。


 次にボケの花はどうかと言うと、関西弁のボケのイメージからあまり良い印象は持たれていないように思う。

 だが、ボケはバラ科の植物で花も実も非常に良い香りがするんだよ。

 日本には昔から馴染みのある花で、あの織田信長の家紋として使っていたのが有名なところだ。

 元々は我が家の庭に一本のボケが植えてあったんだが、季節になるといい香りがするので幼少の頃から馴染みがある花だった。

 ちなみに脱線すると、関西弁の「ボケ」の由来は戦国時代まで遡る。

 当時織田信長と対立していた大阪を拠点とする本願寺顕如(ほんがんじ・けんにょ)に由来する。

 現在の大阪城の本丸付近には当時浄土真宗(一向宗)総本山である石山本願寺があったんだが、そこに居を構えた坊さんだね。

 顕如は仏門に在りながら栄華をきわめていき、次第に織田信長と対立を深めていく。

 織田信長のことは今更説明するまでも無いだろうが、『尾張のうつけ者』と呼ばれていた事がここでボケの語源に関係してくる。

『うつけ』とは当時の意味で中身がない、空っぽ、常識の無い者などと言う意味があった。

 織田信長=うつけ者=家紋の木瓜の花と結びつけ、石山本願寺の檀家の間でうつけ者の事をボケと言って馬鹿にするようになった。

 これが今も関西方面で人を馬鹿にする時に使う言葉として伝わっているんだ。


 ・・・と、言うのは真っ赤な嘘だ。


 さっきまでの織田信長だの石山本願寺だのと言う話は、ついさっき考えて適当にでっち上げたものだ。

 本当のボケの語源は諸説あると思うが『とぼける』から来るものだろうね。

 君はこの話を途中まで信じていたならば少し人を疑った方がいい。

 ハードボイルドの世界は騙し騙されの世界に両の足をどっぷりと浸けた世界だ。

 さっきの話を信じていたなら悪い事は言わん、この世界には関わらない事だな。

 もし君を映画にキャスティングするとして、一番良い役にしようとしても、せいぜい登場してから3分で撃たれてご退場いただく相棒のマイルズ・アーチャー位のキャスティングしか望めないな。

 ────そうそう、マルタの鷹の。


 ────ちなみにちょっと待ってくれ・・・ボケの花言葉に興味はないかい?ついでだからインターネットで花言葉を検索してみるから────


 ────ふむ、ボケの花言葉は先駆者、平凡で・・・あまり統一性がなくピンとこないな。

 それより、知っているかい?ボケには面白い伝説があってね。

 子宝に恵まれない夫婦が群馬県の冠稲荷神社にお参りをしてね、修験者にボケの実をもらってそれを煎じて飲んだら子宝に恵まれたってやつなんだが、今もある樹齢400年のボケは大願成就のお礼に夫婦が神社に植えたものっていう伝説なんだ。


 ────いや、すまんすまん、これは本当の話だからそんなに疑ってかからなくても大丈夫だよ。

 たまたま思いつきで自分の好きな花にまつわるエピソードを話したかっただけなんだ。

 ────さっきのカーネーションは子が親に感謝を伝える花として後世に残り、ボケは親が子を授かった事への感謝を伝える花として伝説になり・・・。

 人との縁に感謝する事は自分の様な朴念仁(ぼくねんじん)は忘れがちでね。

 先人はそう言った大事な事を我々に伝えたかったのかも知れないね。

 ────おっと、もうこんな時間か。


 まぁ、今日は面接に来てくれてありがとう。

 面接の結果は後日タイプライターで打った封書が君の教えてくれた住所に届くと思うから。


 ────まぁ、さっきはああは言ったがウチは人手不足でね。

 適当な事を言ったもんだから、さっきから君の後ろの秘書のお嬢さんがずっとこっちを睨んでいるよ。


 ────ああ、素敵な出合いに感謝しよう。

 それじゃ、また。



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