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シフォンケーキの向こう側  作者: 甘井美環
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第5話 はじまり

一人旅の始まりは、定刻通りの入港だ。


よしっ!


接岸された船体の扉が開き橋が架けられると、

一斉にエンジン音が鳴り響いた。


あっと言う間の出来事だった。


さっきまで、あんなに沢山あったバイクが

一瞬のうちに蜘蛛の子を散らすように街の中へ消えていった。


私は船を降りると、その流れに乗って釧路の町中にたどり着いた。


霧が強くなんだか寂しげな町だった。


時間が早いせいか、町には人の気配がない。


私が目指すのは道東・浜中YH。


さほど距離がないのでゆっくり走っていた。


一時間は走っただろうか。

厚岸を越え霧多布岬の看板が見えた。

(あっこれ知ってる!寄ってみよう)


(湿原のせいかなぁ)

(何にも見えないや…)


駐車場らしきスペースがあったので、

バイクを停めて案内板の方へ歩いた。


柵があるところに看板がある。


その先は恐らく海だろう、かすかに波の音がした。


恐らくというのは、周りの景色が霧で全くみえないのだ。

(さっすがーきりたっぷー)


三脚を立て、

セルフタイマーを仕掛けシャッターを押し、

看板まで走った。


崖と思われる側に落ちないように

半ば急いで柵に腰をかけた。


ストロボの光は私一人を照らすには十分すぎるくらい眩しかった。


順調に走り続けたのか、

午前中のうちに今夜泊まる予定の浜中ユースホステルに着いてしまった。


そこにはたくさんの人がいた。


朝から誰にも会っていなかったのでなんか変な感覚だった。


ペアレントさんと呼ばれるオーナーに

チェックインの手続きをするために声をかけると、


「バイク?何人ですか?」


「あの〜 一人です」


「女の子一人ね。えっと〜山川さん?」


「はい。そうです。」


「じゃぁお部屋に入れるのは15:00だから、

バイクなら根室まで行ってきたら?」


「おねえちゃんそれ50ccかい?」

「じゃぁ、ちょっとキツいかもしれんなぁ」


「まぁでも夕飯までに帰りゃいいから納沙布岬に行ってきな」

「今日は天気が良いから水晶島がはっきり見えるだろうよ」


「やさしい感じのペアレントさんの勧めで、

とりあえず行けるところまで行くことにした」


北海道はなんて寂しくて湿っぽいんだ?

なんて思っていたら突然、明るい町が見えてきた


「わーっ!天気がいい」


青空が見えた。

右手には海が青い!


思わずバイクを停め、ヘルメットを外した。


ショートの髪が僅かに湿っていた。



「きもちいーーっ」



頭を思いっきり振って額の汗を落とした。


海からの風が髪の中まで入り込んで頭皮ををくすぐった。


最東端まで着くと北方領土が見えてきた。


観光客のおじさん、おばさん達でいっぱいだ。

私はお昼を食べるための店を探した。


数少ないお店は満員で、

傍らに座って缶コーヒーを飲んでいると

知らないおばさんが声をかけてきた。


「お嬢ちゃん、一人旅かい?」


「はい」


「近頃は、女の子の一人旅が増えたけど、いろいろ気をつけてね。」


そう言って、おにぎりを2つ手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」

「でも、どうして?」


聞くと、そのおばさんは

一人旅の若者を見つけてはお昼時におにぎりを手渡しているそうで、

安全祈願とここまで来てくれた御礼だそうだ。


思わぬところで、人の温かさに触れて少し家が恋しくなった。




ゆっくりとした空気に時間を忘れ、ふと気がつくと時計の針は3時を回っていた。


「あっ!いけない。戻らなくっちゃ」


急いで、44号線を南下しYHに向かった。

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