第31話 前の女の子
これだけの数で走るのはさすがに迫力がある。
同じ80kmで走っていても
余裕があるというか、貫禄さえある。
「帰ったら絶対大排気量の二輪を買うぞ!」
北海道に来てからというもの、
どんどんバイクの魅力にハマっている。
こんなんじゃお嫁どころか
彼氏と付き合う時間さえ惜しくなってしまう。
(いないけどね)
さっきから、前を走る彼女が気になる。
挨拶したときにもあの店で見かけなかったが、
お手洗いでもいっていたのだろうか?
次の休憩で話しかけてみよう。
私とキャラが被ったらとか
すごく可愛いい子だったらとか、想像は尽きない。
最後尾の龍二さんが少し速度を上げて近づいてきた。
シールドを開け何か話しかけてきている。
「いずみちゃん!今回はどこまで行くの?」
サングラスをしている彼は渋くてカッコいい。
「わ・た・し、道間違えてここまで来ちゃったの」
「えーっ?間違えた?」
「どこへ行くつもりだったの?」
風の音で聞き取りにくい。
「旭川です」
「まったく逆方向だよ」
ハッハハ
「でも、龍二さんにまた会えたから」
「これは、これでokですよね!」
左の指でサインを出した。
「おい、おい、いずみちゃん!危ないよ!」
「そう言ってくれて嬉しいけどね。」
速度を落として、彼がまた後方へ付いた。
殺風景だが、どこか安心していられるこの風景が好きだった。
日高峠を越えると、沙流川に添って走る国道で太平洋にでるはずだ。
そこから苫小牧へ抜ければ何かがあるような気がしていた。
これなんて読むんだろう?
川に掛かっていた看板を見ながらローマ字表記を目で追った。
"sarugawa river"
さるがわ?変な名前。
北海道には面白い地名が多いが、
アイヌの意味が漢字で当てられていると聞いたことがあった。
そんな小さなことですらツーリングでは楽しく感じられる。