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シフォンケーキの向こう側  作者: 甘井美環
23/42

第23部 恋愛ごっこ

「みゆきさん!」


私は姿を確認するなり手を振った。


「こっち、こっちー」


手を挙げようとしたその右腕が、胸の辺りで小さく揺れた。

すぐに、視線の先が私の奥にあるのが判った。


嫌な予感が当たった。


(この二人、知り合いだ…)


こちらに近づいて来た。


「いずみー元気だった?」

どことなく不自然だ。


「あら?男性と一緒なんて、一週間の間に成長したんじゃない?」

「で、そちらの男性は?」

覗き込むように彼を見た。


「よせよ、みゆき」

「この娘はもう気付いてるよ」


「みゆきさん!全然元気なんかじゃない!」

「誠さん!私解らない!」

また怒鳴ってしまった。


「とりあえずここに座って良いかしら?」

そう言って彼女は私の隣に腰掛け私の頭をなでた。


「やっぱり来てくれたんだ…」

と彼。


「一応、約束は果たさないとね。」

彼女が返した。



「いずみちゃん、ホントにごめん」

彼が私の方を向いた。

「今回の旅で、みゆきに会って自分の気持ちを確かめようと思った」

「一年後にここ富良野で会う約束をして、お互いの気持ちを確認するつもりだった」


「二人ともここに来たって事は、りをもどすため?」

私は悲しくなって、涙を堪えながら問いかけた。

もはや疑う余地はない。

二人は恋人同士だ。


「けじめを付けないと、恋愛ごっこは終わらないでしょ?」

彼女がいった。


「参ったなぁ、ごっこか…」

「オレは本気だったのに…」


私はその言葉に口を挟んだ。

「本気って?」

「結婚とかそう言うこと?」


「あぁ、そういう約束をした時期もあった」

少し口ごもった。


「オレの方から逃げたんだ…」



「そう、彼は逃げたの」

「私がモデルの仕事を続けるのが嫌だったの」



「いや、そうじゃない」


「オレはみゆきを人の目にさらししたくなかった」

「見せ物になって欲しくなかったんだ」



「勝手よね、男の考える事なんて」

彼女はあきれ顔だ。


「私はあの後、すぐにモデルを辞めたのよ」

「もちろん、あなたのためじゃないけどね」

「自分の限界を感じたからね」


(みゆきさんは強がっているが、彼のために辞めたんだ)


「私はこの富良野に賭けてたの」

「あわよくば…なんてね…」

「それも虫のイイ話よね」

「でも、こんなに可愛くて若い子が相手じゃ敵わないわ」


(もしかして、私が邪魔したんだ…)


「でも、オレはここへ来る前にもう決めていたよ」

「道内に入ってから、ずっと一人で走り続けて結論を出しかけていた」


「そんな折り、いずみちゃんと出会った」

「彼女の中にキミといる時と違う感じがあったんだよ」


「違う?なにそれ?」



「癒される感じだ」

「彼女といると、なにも欲しなくなる…不思議な感覚をもらった」


「キミといるのは楽しくてとても心地よかったが、

どうしても気を使ってしまう」


「それは、キミが綺麗なせいもあるが、

オレ自身をキミに合わせようと背伸びをしている自分自身が問題だったんだ」


「つり合わないって事?」

「勝手に決めないでよ!」

彼女が言葉を荒げた。


それははじめて見る、彼女の取り乱した姿だった。


「私はあなたのために綺麗になろうと努力したわ」

「その結果、モデルにもなれた!」


「でも、その結果があなたを苦しめていたなんて…」

みゆきさんが泣き出してしまった。

私の前ではあんなに大人だった彼女が、少女のように泣いている。




「誠さん、私ちょっと外に出てるね」

「ゆっくり話をして…」


「私は大丈夫、外で待ってる」

そう言って二人を置いて店の外に出た。


しばらく外のベンチで考えていた。


(私がいなければあの二人は…まだ間に合う?)

(そう、私はまた旅を続ければいい…)


(行こう!)


そう思ったとき

私はヘルメットも被らずにエンジンを掛けていた。

一気にアクセルを開くと前輪が少し浮くのが分かった。


少しでもこの場を早く立ち去ろうと気持ちが焦った。


次の瞬間!!


− ウィィーーーン −


GNはウィリーして私の上に覆い被さってきた。




− ガッシャーーン!! −


もの凄い音と共にお腹に激痛が走った!


その音を聞き付けて店の中から沢山の人が出てきた。



「いずみちゃーーん!」



意識が遠のいて行く中で、

彼の声だけがかすかに聞こえた。

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