第17話 行っちゃった
辺りが明るくなって目が覚めた。
(彼がいない…)
バンガローの片隅にの荷物が一つにまとめられている。
少し安心した。
散歩かトイレでも行っているのだろうと思い
寝袋をたたみ、着替えをしていると
バンガローの外から彼の声がした。
「いずみちゃん、起きた?」
急いで髪を直して窓の外をのぞくと
「やっと起きたみたいだね」
「朝食できてるよ!」
彼がコンロを使い料理をしている。
ご飯のいい匂いが漂ってくた。
綺麗に並べられた二組の食器が
彼の性格を現しているようだった。
「早く降りて来いよ」
彼が手招きをした。
「は〜い。」
嬉しいというより、楽しかった。
本格的なキャンプなんて家族と一緒にやって以来で、
無謀ともいえる今回の旅なのだ。
彼は手際よくご飯をよそい、
どこから買ってきたのか、鮭の切り身を焼いて分けてくれた。
「ゴメンね、これしかないけど」
鮭の切り身は、半分ずつになって
目玉焼きが添えられていた。
「いえ、私の分なんてなかったでしょ?」
「でも、こんな朝食ステキ…」
私が喜ぶと、
「気に入ってくれて嬉しいよ」
彼もとても喜んでくれた。
昨日、道端で会ったばかりで、
同じところに寝て、朝食を一緒に食べる。
それ自体には、ちょっと違和感があったが、
彼といることに違和感は感じなかった。
「おいしー、この鮭!!」
「お、それ?昨日、途中で買ったんだよ」
「もちろん、キミに会う前だったから一切れだけだけどね」
「ごめんなさい」
「謝ってばっかだね」
「しおらしいいずみちゃんも、結構いけてるね」
「また、そんな事言って」
「なにもでないわよ」
「いいよ、ゆっくり寝顔を拝ませてもらったから」
「え〜見てたんですか?」
「恥ずかしい…」
「ねえ、いずみちゃん」
彼が真顔だ。
「ずっと一人で走っているんだろ?」
「はい」
「一緒に走らないか?」
本気らしいい。
「でも、私のバイク遅いし、迷惑かけちゃいます」
「この前も一日みんなと走ったんですが、結局断っちゃって」
正直に打ち明けた。
「ボクが言っているのは、そうじゃなくって」
「ボクの後ろに乗って欲しいって事…なんだ」
彼の申し出には正直驚いた。
私は単独での旅を望んでいたし、
このバイクをここへ置いていきたくもない。
しかし、あの時から一人でいる時間がとても寂しく感じてきている事は否定で
きなかった。
「今、答えを出さなくてもいいよ」
「稚内までは一緒に行こう」
そう言って、私の困った表情も理解してくれていた。
出発の準備を終えて
二人同時にバイクのエンジンをかけた。
― ドドドド・・・ ―
静寂の中、轟音が響き渡ると、
彼のバイクの太く重い音だけが残った。
「先に行って!」
彼が私を促した。
私は、シールドを閉じて
左足を一回蹴り下げ、ゆっくりと左手を開いた。
と同時に右手のスロットルをひねった。
白煙を上げ、スピードを上げるとすぐに
ミラーの中に真っ赤なサベージが入ってきた。
メーターの針は50km/hを指している。
周りに車の姿はない。
彼が私に並んできた。
彼が左手の親指を立てた、
「キャっ!」
その手で私のお尻のあたりを"ポン"と叩くと
もの凄いスピードで前へ行ってしまった。
ー ブオオオオオォーーン ―
追いかけようにも、そんなには速度は出ない。
(行っちゃった…)
そんな気がした。