第15話 新たな出会い
走り始めた私は日本最北端へ向かっていた。
浜頓別を離れて宗谷岬までの道のりは退屈極まりない。
メーターの針が壊れたかと思うくらい
45km/hでピタリと制止している。
信号はなく、景色も変わらない。
右手にオホーツク海、
左手には建物もなく人一人居ない平野が続いている。
やることと言ったら、
たまに私を抜いていくライダーに手を挙げることと、
シールドを上げ風を感じることくらいだった。
ようやく宗谷岬の案内板が目にはいるようになってきた。
こころなしか顔に当たる風が冷たい
休憩のために路肩にバイクを停め
エンジンを切ると、
静けさと波の音だけが感じられた。
道内では
"サイドスタンドは厳禁"
と誰かから聞いた覚えがある。
気づくとGNの重みがサイドスタンドに直接かかったのか、
簡易舗装のアスファルトにめり込んで
車体が見る見るうちに傾いていった。
「キャーっ」
悲鳴を上げてGNを抑えたが、
時既に遅し、
GNは私に覆い被さってきた。
「痛ったーい、もう!」
誰も居ない路肩で一人バイクと格闘していた。
こんなときに限って誰も通らない
それが北海道だ。
― ブォーーン ドドドド―
遠くの方から、
単気筒の太いエンジン音が聞こえてきた。
「この音は、サベージ(SUZUKI)!!?」
私は挟まれた上半身を起こしながら
来た道のほうへ顔を向けた。
「いやーーん。ホントにサベージだ」
その真っ赤なボディが視界に入ってきた。
サベージ(Savage)とは
私がGNを買うときに本当に欲しかったスズキの中型バイクで
その音と形を見た瞬間に魅了されて以来のファンだった。
今は生産されていないので、見るのは久しぶりだった。
どんどん近づいてくるそれが
徐々にスピードを落としていた。
路肩の私に気づいたのか、
(まあ、他に誰もいないので気づかないはずもないのだが)
私の前に廻ってその車体を停めた。
あの太くて、荒々しい音がピタリと止んだ。
「どうした? 大丈夫か?」
サベージの青年が声をかけた。
「はい、大丈夫です」
「でも、挟まってて起こせないんです」
弱々しく言った。
「なんだ? 女の子なのか?」
「こりゃ、いいや」
ハハハハ。
その彼は私を確認するなり笑っていた。
「笑ってないで、お願いしますっ!」
「ハイ、ハイ」
「よっこいしょ」
「あれ?このバイク源チャのくせに結構重いなあ」
起こしたGNにセンタースタンドをかけると
「すみませんでした」
シールドを上げて、頭をペコッとさげた。
「おっ!なかなか可愛いじゃん」
また彼がニコッと笑った。
「これ、GN50なんだ」
「はい、そうです」
「あなたのはサベージですよね?」
「おーよく知ってるな〜」
「キミ、マニア?」
「いえ、それしか知りません。」
「さっきき、音だけで解っちゃいました。」
頭をかきながら言った。
「そうか、そんな人がいたなんて嬉しいね」
「もう一度エンジン音聞かせて下さい!」
「いいよ」
彼がそういうと同時にあの音が上がった。
ド、ド、ドドドド・・・・
(これだ〜この音だ〜)
「この音に合って以来、私バイクが好きになったんです!」
親友に久しぶりに会ったときのように喜んだ。
「乗ってみる?」
「えっ?私? 乗ったこと…」
「免許あるんだろ?」
彼の問いに、一応親には内緒で取ったペーパ中免はあったが、
「乗ったことないんです。」
「大丈夫だよ、GNが少し大きくなっただけだから」
そういって私をサベージに跨らせてくれ、
彼はその後ろに乗った。
彼の胸が汗ばんだ私の背中に密着した。
体がビクッと震えた。
「ごめんごめん」
「びっくりしたよな」
「いえ、大丈夫です」
ゆっくりとスロットルをひねるとあの音とともに
巨体がゆっくりと動き出した。