第13話 事故?
紋別YHでの夕食の時に、
昨日、知床峠でライダーの死亡事故があったと聞かされた。
その彼は、その朝ペアレントさんに"行ってきます"
と元気良く出掛けたのだという。
丁度、お昼過ぎに羅臼に下るときの
キツめのアールで曲がりきれなかったらしい。
お昼すぎといえば、私達がカムイワッカ温泉から降りてきたときだ。
あんなに平和で幸せだと思っていた私は一転、
暗い気持ちになった。
ご冥福を祈り、手を合わせた。
(なむー)
(今日は走るのをヤメよう。)
知らない彼のためにも、自分のためにも、
サロマ湖畔で一日過ごすことにした。
淡水と海水が混ざり合う壮大な湖は、
海そのものようだった。
YHに私あての電話がかかってきたのは、
その日の夕方のことだった。
くつろいでいた私の部屋の扉を、誰かが叩いた。
「いずみちゃん、いない?」
「やまかわさーん」
その声は、このYHのペアレントさんのものだった。
「はーい。」
「すぐ行きまーす」
私は宿泊料金の事か何かだと思い、
財布を握って部屋を駆け下りた。
受付の前まで来ると
ペアレントさんが人差し指でピンクの電話を指さして、
左手の親指を立ててにこっと笑った。
「男性の方からよ」
私は首を傾げた。
なぜなら、
私がこのYHに泊まっていることは誰も知らないからだ。
まだ母親にも連絡していないので不思議に思った。
電話に出てみると、
「木ノ島です」
「わかりますか?」
「は?」
「ヒノシマさん?」
「きのしま しんです。」
「昨日一緒にバイクで走った…」
「あっ!すみません、分かります分かります!」
「あら、どうして私の居場所が分かったんですか?」
「ま、まさかストーカー!?」
「ち、ちがいますよー」
「そんな、僕はロリじゃないですよ」
「またそんな失礼なことばっかり〜」
「冗談はともかく」
「いずみちゃん、黄色い自転車の筋肉質の身長180cmくらいの知り合いいる?
」
摩周湖の彼だとすぐに解った。
「はい。たぶん知り合いだと思います」
「そうだよね」
「彼が持ってたカメラの画面に、
いずみちゃんと写ってるのがあってね、気になって連絡したんだ」
「その人と摩周湖で撮ったでしょ?」
「はい、でもそれが?」
「なんで信さんがご存知なんですか?」
「いま、ここに持ってる…」
状況が解らなかった。
「いずみちゃん、落ち着いて聞いて」
胸がドキドキなる。
「今ボクは紋別の病院にいる」
「もちろん医師としてだ」
悪い予感がした。
「えっ?病院?医師として?」
「信さん?どういうこと?」
的中したと思った。
「その彼がどうかしたの?」
「まさか、彼がそこにいるの?」
「事故?怪我したの?」
私は冷静でいられなくなっていた。
「いずみ!落ち着け!」
電話口の彼の声が、取り乱した私を引き戻した。