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シフォンケーキの向こう側  作者: 甘井美環
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第12話 夢のツーリング

疲れているところにお酒が入って酔っているようで、

みんな寝てしまっている。


今にも消えそうな焚き火の周りで

横たわっている人、テントに寝てる人、


(みんなワイルドだなぁ)


「飲み過ぎなのよ」


辺りにはビールの空き缶が散乱している。


懐中電灯でそれを照らしながら

ひとつひとつゴミ袋にまとめていった。


一通り片づけが終わったので

クーラーボックスからペットボトルを一本出した。


「よっこいしょ。はーっ」


空いていたイスに腰掛けた。




「はーっ?は、ないんじゃない?」

その声は!?


「みゆきさーん起きてたんですか?」


「あったりまえだよー」


「誰がこれしきのアルコールで、つぶれたりしますかって」


「あんたも、よく飲んでたけど大丈夫なの?」


「あ、まぁ調子の良い時とかあるんです」

「船の時は緊張と疲れでねちゃいましたけどね」


「そうだよ、あんまりよく寝ていたもんだから放置したのよ〜」

「そしたら朝も起きないから先に出ちゃったの」


「まさか、こんな良いとこで会うなんてびっくりしたよ」



「私もです」



「みんなこんな風に見えても、明日の朝は早いのよ。」

「寝坊しないようにね!」


「えっ?一緒に行くんですか?わたし?」


「な〜んだ、一緒に走らないのか?」

彼が起きてきた。


「すみません。起こしてしまいました?」


「はっ、たまたまトイレに行きたくなっただけだよ」

「ホントに一緒に走らないか?」


「でも、みんな大型の方が多いし、私のGNじゃぁ迷惑掛けちゃいますょ」


「あれはどのくらいスピード出るの?」


「はい。最高出したのが90km/hくらいです」


「おー立派立派〜」


「旧型だからリミッター付いてないんです」



「なら話は簡単だ、」

「みんなでいずみちゃんを囲って7,80m/hで走ろう!」



「それいーわね。」

「いずみ、一緒にはしれるわよー」



私は交通違反より、迷惑じゃないかが心配だった。


そんな気持ちとは反対に、

夢にまで見たツーリングらしい走りができる事に興奮していた。



朝は珍しくみんなより早く起きられた。


「おはよー」信さんだ。


「おはようございます」

顔をあらいタオルで顔を拭きながら挨拶をした。


「いずみちゃーん、それ?もしかしてすっぴん?」


「いゃーだー信さん〜」

「からかわないでくださいよ」


「かっわいいよなぁ〜」

「若者の特権だぜ」


「でも、日焼け留めとリップだけは忘れるなよ」


「今は良いけど、年とってからシミになるからな」


「あーそれって、お医者さんのアドバイスだー」


「ちがうよ、紳士としてね。」


「はいっ!」

「ありがとうございます!」

「わかってますっって!」



「いずみちゃんにはかなわないなぁ」




いつの間にか、

みんな思い思いのスタイルで自分のバイクのエンジンをかけはじめた。


重厚な音が多い中、

私のGNの音が非力で頼りなく聞こえた。


(あんなに気に入っていた音なのに…)


フォーメーションを土の上に書いて、

私とGNの位置に小石が置かれた。


「これって、真ん中じゃなぃ」

「はずかしいなぁ」

「ホントにみんなに囲われている…」


まさにお姫様気分だった。


先頭は信さんで、みゆきさんは私の隣に並んでくれた。


殿しんがりは、かなり年輩の一番の酒飲みのおじさんだった。



私を入れて総勢8人の暴走族になった。



対向車はほとんど来ないため時折、

車線をはみ出る人もいたが、至って安全運転だ。



「いずみ〜だいじょーぶー?」

みゆきさんが左手で合図してきた。


私はokを返した。



(このバイクにして良かった。)

(さっきはゴメンね)

そう、愛車に感謝した。




網走へ向かう道は真っ直ぐでオホーツクの風が心地よい。


20kmくらい走ったところで休憩にしようということになった。



“原生花園”



トイレと吸水、愛車の休憩。

みんなシッカリ基本が出来ていて無理をしないのが良い。

大人のライダーだった。



私は名残惜しかったが、思い切って言い出した。


「私、ここで離脱します」



「なんでだよー」

みんなが騒ぎだした。



「ごめんなさい。

みなさんの愛車が走りたがってます!

もっと風を切って下さい」


「私はここまでで満足です」

「まぁこの子もおーばー気味ですし」

ポンとシートを叩いて見せた。



「いずみ、気を使ってくれてありがとね」


「でも、みんなは本気で一緒に走ってたのを忘れないでよ」

「二度とこのメンツで走ることはないからね」


「じゃぁ、ここで」

「先にいくよ!」



「はい。」



「また会えますよね?」


「いずみとは、なんか縁がありそうだからね」

「きっと会えると思う」


「じゃあ」



みんなが一斉に手を挙げ思いっきり二度ふかして合図をくれた。





一斉に走り出したかと思うと

あっと言う間に地平線に消えていった。






さてと、私も行こっと!


すっかりお熱の冷めた愛車のエンジンを再び始動した。



軽めの音が鳴り響いた。



やっぱり単体で聞く音は良い感じだった。

まわりと比べれば落ちるかもしれないけど、

この子はこれで可愛い。



隣の芝はみなくて良いんだ。

私は私。




自分だけの、最高のツーリングを楽しもう!




白い煙と少し高めのエンジン音を残して、

私は“原生花園”を後にした。


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