第11話 BBQの恋
今晩は、みゆきさんとその仲間たち(変なネーミング)のバーベキューに参加させてもらうことになった。
まだ辺りは明るかったが、
みんな手馴れた様子で火を起こしたり、
野菜を切ったりと下ごしらえをしていた。
私はというと、食器洗い係。
実は家事が何も出来ない。
(秘密だけど…)
「いずみーこれ洗っといてー」
みゆきさんの声だ。
「はーい。」
隣で一緒に食器を洗っているのは、
滝壺でみゆきさんと話をしていた男性だ。
「いずみちゃん、いくつなの?」
「19歳です。」
「へ〜大人っぽく見えるね」
「えー、それって失礼ですよ〜」
「老けてるって事ですよね」
「さっき、みゆきさんと話してましたよね」
「お知り合いなんですか?」
「ここ(北海道)に来たらみんなすぐに知り合いだよ」
「彼氏ってことないですよね?」
「はっはは、だと良いけどね。」
「あんな美人、なかなか落とせないよ」
「そうですね、スタイルも抜群だし、性格もいいし…」
私もそう思う。
「君も難しいタイプかもしれないね」
「は?」
「な、何でですか?」
「気になる言い方ー」
ちょっと気になる言い方だ。
「男として意見を言わせてもらうなら、まず美人はダメ」
「八方美人もダメ」
「性格美人もダメ」
「じゃあ、何ならいいんですか?」
「要は、そこそこが一番ってわけ」
(よく分からない。)
「いずみ〜〜その男の言うこと聞いちゃダメだよ〜」
「あんた、狙われてるよー」
包丁を持ったままみゆきさんが現れた。
「ほ、ホントですか!??」
「ははは、参ったなあ」
額の汗を拭いている。
「みゆき〜人聞きの悪い事いうなよ・・・」
彼女の流し目がつきささる
「さっき、私を口説いてたのはどこのだれよ?」
「えー気づいてたんなら返事くれよ」
彼が困った表情に変わった。
「みゆきさんを口説いてたなんて勇気ある〜」
「なんてこというの!いずみ〜!」
みゆきさんが腕を振り上げて走ってきた。
「み、みゆきさん、、包丁おろしてーー!!」
「君たちホント気が合うみたいだね。」
半ば呆れ顔で彼が言う。
「申し送れましたが、私はこう言う者です」
彼は名刺を差し出して自己紹介を始めた。
― 東都大学 整形外科学 講師 木ノ島 信 ―
「ゲッ!ーじゃあ あなた、お医者さんなんですか??」
意外だったので驚いてしまった。
「医者じゃ悪いか?」
「見えないいわ〜〜」
「でも何で、こんなところに? お仕事は?」
「何だよ、質問の多いお嬢さんだなあ…」
「今年、根室に赴任してきたの」
「なんかしたの???」
悪いことして、とばされたのかと思った。
「なんだよそれ〜」
「大学病院の医者は、地方へ一度は行くものなの!」
「へ〜そうなんだ。」
「わかったら、みゆきにこの事は内緒だぞ!」
急にまじめ顔だ。
「なんでー?」
「オレは医者だーって言えばイチコロかもよ。」
冗談交じりに私が放った言葉に、
「そんな汚ねー手は使いたくないんだよ」
(また、まじめ顔だ・・・)
「へ〜意外といいやつなんだ。見直しちゃった」
私は感心した。
「お前に見直されたってしょうがねえよ」
兄みたいなこの男性と話していると
自転車のあの彼に、どことなく似ている気がした。