第10話 温泉仲間
駐車場にバイクを停めて水着に着替えた。
また、大好きな温泉に入れる。
気分はもう抑えきれない。
ガイドさんによると
ここから険しい川を登って
30分ほどに楽園があるという。
まだ朝が早いので人影もまばらだ。
なだらかな川を
しばらく行くと川の水が温かくなってきた。
この辺は知床の火山から出た温泉が川に流れ込み
いくつかの滝壺を自然の湯船として形成している。
上方に行くほど温度が高く皆、上流を目指している。
私もどうせ来たのならと
四つん這いになりながら最初の滝壺の横を通った。
川を登るなんて無理に決まってる。
足場はつるつるしていて何度も膝をぶつけてしまった。
「痛ったーい。もーっいイャ。」
言葉とは裏腹に、さらに上を目指した。
4つ目の滝壺が見えたとき、
私はその画に体が震え気分が高揚するのを感じた。
岩陰でTシャツを脱ぎ水着になった。
滝壺の中の人が叫んだ。
「ねーちゃん!気をつけてね〜」
「足がつかないからね」
そう教えてくれた人はわざと潜って見せた。
「はーいご忠告ありがとうございまーす」
泳ぎには少しばかり自信があったので、
それ自体はあまり驚かなかった。
それより驚いたのは奥のほうに女性が一人、
滝壺に浸かっているように見えた。
髪の上げ方から、
うなじのラインがあの(・・)人そっくりだったからだ。
私の声に気づいたのか、
今まで男性と話していたその女性が、こちらを向いた。
「あれ〜っ?」
「その声、そのスタイルは、いずみちゃ〜ん?」
女性が声は辺りに響いた。
「あ〜!やっぱりみゆきさんだ!」
確認するや否や、
私は嬉しくなって滝壺に駆け寄り思いっきりダイブした。
― ザッブーン ―
『なんて事しやがるんだ!』
誰かが叫んだ。
『ねぇちゃんやるね〜』
また、別の誰かが言った。
「いずみちゃんだいじょうぶ?」
「何やってんの?相変わらずのやんちゃっぷりだね」
「みゆき、知り合いなの?」
今まで彼女と話していた男が聞いた。
「まぁね、来るときの船で一緒だった子なの」
ずぶ濡れになった髪をかき上げながら
「山川いずみですよろしくお願いします」
「へ〜っ、じゃぁ、いずみちゃんもライダーなのか?」
男が続けた。
「はい!」
微笑み、光線だ。
「随分、明るい子だなぁ」
「しかも返事が良い」
「はいっ!よく言われます!」
「こりゃまいったなぁ」
男は頭をかいた。
そこにいた5、6人の人たちが一斉に笑った。
「いずみ良くここまで来れたね」
みゆきが言う。
「みゆきさんは、いつここに?」
「昨日着いて、今朝早くココに登って来たけど」
「正解だったね」
「いずみも良くこんな早くに来たね。」
「はい。地元のガイドさんにコツを教わったんです」
「さすが、旅のコツをわきまえてるね〜」
「これでビールでもあればサイコーだったのにね」
「ありますよ!」
「マジかょいずみ!?」
背中のリュックから2本の缶ビールを出した。
「ほら、はい!」
またみんながから歓声が上がった。
『うぉーーーーーぉ』
その二本を、そこにいたみんなで回し飲みをし始めた。
「あれっ?みなさんライダーじゃないんですか?」
「そうだけど、何で?」
「それ、お酒ですけど・・・」
「持ってきた本人が何言ってるの?」
「平気へーき」
「一時間やそこらでここから帰りゃしないよ」
「運転までは覚めてるさ」
「それより五人で二缶」
「一体、誰が酔うってんだ?」
「いずみ様、じゃな〜い?」
みゆきが意地悪そうに言った。
『ははははっ』
そこに居たみんなが、
いつの間にか一つになっていた。
時間を忘れてしまうほど、
とても楽しくて、楽しくて仕方がなかった。