第742話 第四回アイテムボックス検証会議
「ほほう? 私が喜ぶような次回予告とな?」
「…………」
ああもう……。ナナさんのせいでややこしいことになってしまったじゃないか……。
ミコトさんが喜ぶ次回予告リストと言いつつ、実際にナナさんが書いたのは『ミコト様のダイエット』などというメモだった。これではたぶん喜ばない。まず間違いなくミコトさんは喜ばない内容だろう。
どうしたものか。果たして僕はミコトさんになんて伝えたらいいものか……。
「さて、ナナさんはなんて書いたのかな?」
「あ、えぇと、それは……」
さすがに真実をそのまま伝えるわけにはいかない。なんとか誤魔化さなければ……。
くっ、ここで『ニス塗布』が使えたらな。次回予告リストに使用した紙とインクを『ニス塗布』で再現することができたなら……。
まずナナさんが書いた部分を、紙の質感で覆い隠し白紙に戻す。その上でさらにインクの質感で文字を再現! ――そしてナナさんのメモを改竄!!
……なんてことができたらよかったのにねぇ。
しかし残念ながら紙にニスを塗布することはできない。現在の技術ではできないのだ。
「どうしたのだアレク君」
「あー、その、だからつまりそれは、ちょっと見せられないというか――ええまぁ、今は見せられないのですよ。なんというか、時期尚早なのでは?」
「うん? どういうことだ?」
「ナナさんが書いた項目は僕も初めて見たもので、実行に移すまでは今しばらく時間が必要かと存じます。ならば現時点でメモの内容を発表し、その実行まで長くお待たせするよりも、実際に実現可能となったタイミングでお知らせした方が良いと判断しました」
「なるほど、確かにそうかもしれない」
「ですよね? なので――ひとまずはこうしておきましょう」
僕はナナさんの書いた『ミコト様のダイエット』という項目を念入りに塗りつぶし、新たに『ミコトさんに喜んでもらえること』と書き加えて、ミコトさんに提示した。
「準備が整い次第、こちらの『ミコトさんに喜んでもらえること』を発表し、ミコトさんに提供させていただこうと考えています」
「ふむふむ、良いね。ありがとうアレク君。じゃあそのときを楽しみにしていよう」
「ええはい、ご期待ください」
うん、どうにか時間的猶予ができた……。あとでミコトさんに喜んでもらえることを考えておかなければいけないな。まったくナナさんは余計なことを……。
そう心の中で不満を漏らしながら、ナナさんに非難の視線を向けると――
「私が書いたことは、実際ミコト様のためになって、実現できたらミコト様にも喜んでいただけると思うのですが」
「…………」
いやまぁ、それは確かにそうなのかもしれないけどさぁ……。
◇
「へぇ? ディースさんはそんなことを?」
「うん、ディースは別のタイミングでいいと言っていた」
ミコトさん曰く、ディースさんの召喚は後でいいとのことだ。そう伝言を頼まれたらしい。
僕とミコトさんとディースさんが村に戻ってくるタイミングをずらしたいという僕の考えを、しっかり汲み取ってくれたようだ。さすがは僕の理解者であるディースさん。ありがとうディースさん。
「でもアレク君は本当に忘れそうだから、今から一ヶ月以内を目処にちゃんと召喚するようにと言っていた」
「いやいや、まさか忘れるなんて、そんなことは……」
そんなことは……。まさかそんなことは……。
「さて、それじゃあこれから私はどうしようかな。ひとまずアレクハウスに戻りたい気持ちもあるが……でもこのままアレク君の家を出発したら、ちょっと不自然かな?」
「あー、どうでしょうね」
いきなりミコトさんが僕の家に出現した感じになってしまう? まぁたぶん大丈夫だとは思うんだけどね。この後で誰かに会ったとしても、『今ちょうど戻ってきて、またアレクハウスを借りる話をしに来た』とか、そんな言い訳でどうにかなりそうじゃない?
「でもまぁ、念のため僕がアレクハウスまで移動して、そこでミコトさんを再召喚しましょうか」
「おぉ、そうしてくれるかアレク君、申し訳ない」
「いえいえ、お安い御用です」
じゃあ早速アレクハウスに向けて出発を――
「あ、でも今は大シマリスの――トラウィスティアさんがいないんですよね」
「そうか、そういえばそうだったな。一人で出掛けたのは私も見ていた」
「ええはい、今トラウィスティアさんは温泉に行ってて……」
あれ以来、どうもハマっているらしい。暇を見つけては温泉でゆったりしている。
ダンジョンの温泉エリアまで一人で向かい、ゴーレム君に荷物を預けて、脱衣所まで移動して服を脱いで、しっかりシャワーで体を洗ってから、じっくりと温泉に浸かって、温泉から出たらタオルで体を拭いて服を着て、ゴーレム君から荷物を回収して帰路につく。
この一連の動作が、なんだかとても愛らしいんだ。見ていてほのぼのすると周りの温泉ユーザーからも大好評である。
しかし本当にずいぶんと頻繁に訪れているようで……。もしかしたら疲れが溜まっていたりするのかな……。
そうだとしたら、もしやそれは僕のせいなんじゃないかなって、そんな心配も……。
「んー、やっぱり温泉を楽しんでいるトラウィスティアさんを呼び出すのは忍びなくてですね……。でも別にトラウィスティアさんがいなければダンジョンまで行けないってわけでもないですから、ここは僕が一人で歩いてダンジョンまで向かいましょう」
「いや、さすがにそれは……」
「ふむ」
何が『さすがに』なのかは気になるところだが、僕の徒歩についてミコトさんは反対らしい。
「では、やっぱりトラウィスティアさんを待ちましょうか」
「うん、それがいい」
仕方ないので、大人しくトラウィスティアさんを待つことにした。たぶんそのうち帰ってくるはずだ。
「あ、それじゃあトラウィスティアさんを待っている間――アレをしないか?」
「アレですか?」
はて、アレとは?
「アレを――アイテムボックスの検証をしよう!」
「ほほう? アイテムボックスですか?」
「アイテムボックス検証は次回予告リストにも載っていて、アレク君的にも優先度は高かったはずだ。でも私が下界に戻るまではできないと、そういう話だったろう?」
「そうですね。今までの検証会議でもミコトさんには毎回協力してもらっていましたから、次やるときもミコトさん抜きでは始められないと考えていました」
そして、そのミコトさんがようやく下界に顕現したわけで……ふむ。それじゃあやってみようか。久々に検証してみようか。
まぁ次回予告リストの消化ペースが早めなことについて、やっぱりちょっと気になるところではあるけれど、ミコトさんも乗り気だし軽く検証してみよう。
では始めよう! 第四回アイテムボックス検証会議だ――!
「……ほー、いいですねぇ。アイテムボックスですか。便利そうですねぇ。羨ましいですねぇ」
「あっ……」
「その上でアイテムボックスの可能性をさらに追求しようとは……。はー、素晴らしいですねぇ。羨ましいものですねぇ……」
「ナナさん……」
僻みが……。ナナさんの妬みとか嫉みとか僻みがすごい……。
そんなナナさんからの怨念を受けて、ミコトさんは――
「うん、やっぱりアイテムボックスは便利だからな! より詳しく知りたいと思う。なにせとても便利だから!」
「…………」
――しかしミコトさんには効かなかった!
うん、さすがのミコトさんである。
いやでも、この状況でアイテムボックス検証に入るのか……。その都度ナナさんからチクチクされそうだけれども……。
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