第737話 温泉エリア
「いぇーい、8-4到着ー」
「うんうん、到着だねぇ」
というわけで到着だ。ディアナちゃんと一緒に8-4エリアまでやってきた。
やってきたわけだが――
「……なんだか手間を取らせちゃって、ごめんねディアナちゃん」
「ん、いいともさ」
ここへ来るまでに、若干グダグダしてしまったのである……。
最初は8-4エリアまでワープするつもりでいた。ディアナちゃんからそう提案されて、僕も了承した。
そして実際にワープしようとして――僕だけ置いていかれた。
「まさか8-4エリアに未到達だったとは……」
「うっかりしてたねー。まぁこのエリアが出来たのって、アレクが旅に出た後だったしね」
未到達のエリアへはワープできないというダンジョンの機構に阻まれて、僕だけが取り残されてしまった。
その後、どうしたものかと困っていると、ディアナちゃんがすぐに戻ってきてくれて、今度は一緒に7-4エリアへワープ。そして未到達エリアを攻略しながらダンジョンを進み、ようやく8-4までやってきたのだ。
「というわけで、僕としては初めての8-4エリアで――ふむ。8-4か」
「ん? どしたん?」
「ああ、いや、8-4なんだなって……」
「んん?」
ステージ8-4なのだ。
某配管工兄弟のゲームならば、8-4といえば最終ステージであり、この数字のエリアというだけで、僕としては若干そわそわしてしまう。
――だがしかし、このダンジョンの8-4はただのワープエリア。そのことを思うと、なんだかちょっと物足りなくて味気なく感じてしまう。
「あとで大きな亀のオブジェでも置いてみようかな……」
「……なんで?」
「うん、まぁなんとなく……」
一応原作リスペクトという感じで……。
でも誰にも伝わらないよね。たぶんわかるのは僕とナナさんくらいなもので……あとはディースさんとか? ミコトさんはどうだろうなぁ……。
「まぁいいや、とりあえず進もう。次は9-1エリアで――ふむ。9-1か」
「ん?」
「ああ、いや、9-1なんだなって……」
「さっきからなんなんよ……」
某配管工兄弟のゲームならば、9-1といえば幻のバグステージだったり超難易度の隠しステージだったりするのだけれど、当然このダンジョンではそんなこともなくて、それがなんだか寂しくて……。
「相変わらずわけわかんないことばっかり言ってないで、もう行こうよ」
「あ、うん、ごめんねディアナちゃん。いやでも相変わらずっていうのは……? というか、背中を押すのはやめてくれないかな? とりあえず階段ではやめよう? 転んでしまうよ?」
そんなこんなでディアナちゃんに背中をグイグイと押され、ちょっと怖い思いをしながら9-1エリアへと続く階段を進んだ。
でも確かに今はそれどころではなかったな。配管工兄弟に思いを馳せている暇はなかった。
それより今は新エリアだ。新エリアに思いを馳せよう。ついに新エリアに到着なのだ。みなさんお待ちかねの新エリア。
階段を降りると、そこは新エリアの――
「――温泉エリア!」
温泉エリアである! 次回予告で焦らしに焦らした新エリアを、ついに発表!
まさかまさかの温泉エリア! まさかそう来たかと、これにはみんなびっくりだろう!
「……と言っても、ここから見ただけじゃあイマイチわからんのだけれど」
「建物が並んでるだけだしねー」
エリアに入った瞬間、どーんと露天風呂が待ち構えているわけでもないし……。
まぁそんな立地の温泉に入りたいと思う人も少なそうだけど、やはりこれではわかりづらい。一応はところどころで湯気も立ち上っているし、お湯が流れている様子も確認することはできるが、ひと目で温泉エリアだと理解できるかと言うと、それもなかなか難しいのではないだろうか。
「それであの建物だけど……なんでもフルールさんが一人で建てたらしいね」
「うん、アタシも何度か見に来たけど、すごい頑張ってた」
「大変だったろうなぁ……」
基本的に巨大フィールドタイプのエリアでは、完成形をそのまま提供するのではなく、村の人達自身の手で改良して完成させてほしいという方針で設計している。
なので今回のエリア設計は――源泉のみである。
お湯が湧き出る源泉をたくさん設置して、それのみでエリアを開放した。
その状態から設備を整えて、温泉施設をきっちり完成させろというのも、だいぶ無茶な注文な気がしないでもないが……。
「『今は私しかいないのにー』みたいなことを言っていた気がする」
「悪いことしちゃったなぁ……」
僕がいたら手伝ったのに……。フルールさんも僕のことを頼りにしてくれているようで、そのことを嬉しく感じる一方、その期待に応えられなかったことを心苦しく感じる。
「まぁアレクは旅してたわけだし、仕方ないんじゃない?」
「うーん……」
でも9-1エリアを温泉エリアと決めて、だいぶ厳しい設計をしたのは他ならぬ僕とナナさんなわけで、それなのに全部任せて手伝わないというのも、やっぱりフルールさんに申し訳ない……。
「一人でこんなに立派な建物を建てて――あ、しかもちゃんとマークまで入っているじゃないか」
「マーク?」
「建物の看板に温泉のマークが描かれてる」
楕円から三本の湯気が立ち昇っているマーク。
素晴らしい。さっきは『入口から見ただけじゃあ何もわからん』とかなんとか言ってしまったが、あれがあるなら話は変わってくる。
あれを見たら、ここが温泉エリアなのだとすぐに理解できるはずだ。なにせ温泉マークがある。温泉マークが…………あれ?
「あのマークって、どうしたのかな?」
「ああ、あれわかりやすいよね。ナナが考えたらしいよ?」
「ナナさんが……」
そうなのか……。なんでこの世界に温泉マークがあるのかと思いきや、そこだけはしっかりナナさんが指示を出していたのか……。
正直良い仕事をしたと思う。素晴らしいアドバイスだと個人的には思った。
とはいえ、やっぱりナナさんも僕と同じで温泉エリアの発案者なのだし、その指示だけではなく、もっとやるべきことはあったんじゃないかなって思ってしまうのだけど……。
「ナナさんだって『木工』スキルはあるのだし、手伝ってあげたらよかったのに……」
ついついそんなことを思ってしまう。僕と同罪だ。なんなら手伝える状況だったのに手伝わなかった分だけ、僕よりナナさんの方が悪いのではないかな?
「あー、でもナナも大変だったんじゃん?」
「大変? そうなの?」
「ちょうどその頃はアンナちゃんが生まれたくらいで、ナナも子守りに奮闘していたみたいだし」
「それは……。そうなんだ。じゃあ仕方ない。ナナさん悪くない……」
ナナさんは悪くなくて……僕だけだ。すごいな、一転して僕だけが悪者だ。僕だけが子守りもしなくて温泉作りも手伝わなくて……それでいてナナさんに文句をぶつけるとか……。
なんだこれは。どうしたらいいんだ。とりあえず後でナナさんとフルールさんに菓子折り持参で謝ってこようかな……。
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