第654話 検問の真横に、顔出しセルジャンパネルを無許可で勝手に設置して逮捕されるアレク君
良いアイデアを思い付いた。
とても良いアイデアなので、さっそく実行しようと、あれやこれや準備を進めていたところ――
「え、逮捕……?」
「キー……」
逮捕だそうだ……。ヘズラト君曰く、そのアイデアを実行した場合、最悪逮捕される可能性も考えられるとのことだ……。
「でもヘズラト君、このアイデア自体は素晴らしいものじゃない? 僕は今でもそう信じて疑わないのだけれど……」
「キー……」
何故なのか……。こんなにも良いアイデアだと言うのに、それでも逮捕は逮捕なのか……。
「――いや、でも待ってほしい。これから順を追って説明していくから、僕の話を全部聞いた上で、ヘズラト君がどう感じたかを聞かせてほしい」
「キー」
実はまだヘズラト君にも計画の詳細は説明していなかったりする。これから話す説明というか釈明というか弁明というか、とにかく全部聞いた上で、ヘズラト君も判断だか判決だかを下していただきたい。
おそらくヘズラト君ならば正しくジャッジしてくれることだろう。果たして有罪なのか無罪なのか。もしもヘズラト君が有罪だと判断したのならば……なんか本当に逮捕されちゃいそうな気がする。なので僕としても、ちょいとばかし気合を入れてヘズラト君を説得してみよう。
「まずはそうだな――これだね。僕のギルドカードを見てくれるかな? この写し画を見て、ヘズラト君は何を思った?」
「キー」
「……いや、目に線が入っているのはいいんだ。今そこは重要ではないんだヘズラト君」
話の展開としては、『なんの変哲もないギルドカードだよね?』という導入から始めるつもりが、やっぱり変哲はあるようにヘズラト君も感じたらしい。
「そうじゃなくてさ、なんかちょっと物足りないよね」
「キー?」
「ほら、前までは顔出しセルジャンパネルと一緒に写っていたでしょ? でも今は僕だけで、僕が普通に写っているだけ。これじゃあ物足りない。物足りないと思わない?」
「キー……?」
「ちょっと寂しく感じるでしょう? なんだか味気なくて、どうにも面白みに欠ける写し画だ。そうでしょう? ヘズラト君もそう感じるよね? 僕のこの気持ち、ヘズラト君ならわかってくれると思うんだけどなー。きっと僕と同じ感覚を共有してくれているはず。共有してくれていると信じている」
「キー……」
「うんうん。やっぱりそうだよね。ヘズラト君もそう思うよね」
「…………」
よしよし。ヘズラト君も同意してくれた。僕の問い掛けに対し、ヘズラト君も『ソウデスネ』と理解を示してくれた。
「それで僕としては、今は遠い故郷に残した顔出しセルジャンパネルを懐かしく思っていたんだけれど――でも気付いたんだ」
「キー?」
「それなら――もう一枚パネルを作ってしまえばいいじゃないかって」
何故こんなに簡単なことに気付かなかったのか。ないなら作ってしまえばいい。
あのパネルは輪郭を作るだけでいいからね。人形と違って、パネルならば簡単に作製できる。
というわけでさっそく作業を始めようと、まずはヘズラト君に付き合ってもらい、人力車で材木屋さんに来店。大きめの板を購入し、今度は人力車に板を乗せて宿まで戻ってきた。
そして宿の庭にて、いざ製作に入ろうとしたところで、ヘズラト君から――
『ところでアレク様、今回はどのような作品を作製されるおつもりなのですか?』
――との質問を投げかけられた。
それ以降の僕とヘズラト君のやり取りが――
『検問の真横に、顔出しセルジャンパネルを設置しようと思うんだ』
『……逮捕されるのでは?』
『え……?』
――こんな感じだ。
こんな感じで、冒頭の会話につながるわけだね。
「でもさー、やっぱり設置場所としては検問の真横がベストじゃない? そこに置いたら僕だけじゃなく、町のみんなも活用できる。みんながセルジャンに成り切ることができるんだ。きっとみんなも喜んでくれると思う」
カメラなんて物がない現在では、顔出しパネルの利用はギルドカード以外にないわけで、そこでギルドカードを更新する場所として最も多いのが、おそらく検問のすぐ近くだろう。
そう考えると――むしろ自然。検問の真横に顔出しセルジャンパネルが設置されていることは、むしろとても自然な状態と言えるはずだ。
ギルドもなくて検問もないエルフ界のダンジョンの牧場に置かれていた初代顔出しセルジャンパネルの方が、設置場所としてはむしろ間違っていたのだと思う。
というわけで、是非とも検問の真横に設置させていただきたく――
「キー……」
「あー、まぁねぇ。そうは言っても検問だしねぇ……」
「キー」
「そうだね。犯罪者とかのチェックもしている重要な施設でもあるわけで、そんな検問でふざけたら捕まるし、検問にふざけた物を勝手に設置しても捕まるか……」
まぁ過去を振り返ると、今までにも散々検問でふざけたことをしでかしていたようにも思えるけれど……いや、散々お目溢しいただいてきたとも考えられるか。それがこの一件でラインを超えてしまう可能性だって考えられる。
「やっぱりまずいかな?」
「キー……」
「そっかー……」
というわけで、さらっと判決が出てしまった。どうやらヘズラト君的には有罪判決らしい。普通に逮捕されてしまうらしい。やっぱりヘズラト君が言うならそうなのかな……。
「でももう板買っちゃったしな……。困ったな、どうしよう……」
「キー?」
「え、部屋に? うーん。それもなぁ……」
検問に設置するのは諦めて、宿の部屋に置いてはどうかというヘズラト君の指摘。
でも僕としては、みんなに顔出しセルジャンパネルを使ってもらいたい気持ちもあって……。世界中のギルドカードに父の姿が描かれてほしいという野望もあって……。
というか部屋に置いたら、たぶんちょっと邪魔だし……。なにせ五人部屋だしさ、そんなにスペースもないから……。
「……こっそり検問の近くに置いてこようかな」
「…………」
やっぱり逮捕はイヤなので、捕まらないようにこっそり置いてきたらどうだろう。とりあえず僕の犯行だとバレなければ――
「あ、でもダメだ。もうすでにケイトさんに話してしまったんだ」
すでにケイトさんには、『良いことを思い付きました』とか、『今から楽しみにしていてください』みたいなことを話してしまった後だ。その直後に謎のパネルが検問の隣に設置されていたら、僕の犯行だとすぐに気付かれてしまう。
……なんて余計なことを言ってしまったのか。ちょっとした犯行予告である。無駄に伏線なんか張るんじゃなかった。
「キー」
「え? 正直にお願いするの?」
それでもどうしてもと言うのなら、正直に正面から置かせてもらえるよう町の人にお願いしてはどうかとのアドバイス。
さすがはヘズラト君だ。とてもまともなことを言う……。
「でも置かせてくれるかなぁ。たぶん顔出しセルジャンパネルの良さって、ぱっと見では伝わりづらいんだよねぇ」
あれで父とか、すごい普通の格好だからね。普通の村人の格好だ。せめて顔があればイケメンエルフとして見栄えもいいのだけれど、その顔はくり抜かれてしまっている。
「んー、設置許可を得るためには、根本的な計画の変更が必要かもしれない。例えば、モデルの変更とかも視野に入れなければならないかも……」
そう言って、ちらりとヘズラト君に視線を移す。
「キー……?」
「でもまぁ顔出しパネルってことで言うなら、たぶんそっちの方がいいんだろうね。子供とかにも喜ばれそう」
「…………」
僕の思わせぶりなアクションと呟きを聞き、何やら不安そうな表情を見せ始めたヘズラト君。
さすがはヘズラト君である。察しが良い。僕の伏線をしっかりと理解したようである。
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