第644話 緊急事態です2
「――緊急事態です」
「……あん?」
緊急事態なのだ。のっぴきならない緊急事態であることを、とりあえずクリスティーナさんに報告してみた。
「あ? なんだ? 緊急事態……? というか、久しぶりだなアレク」
「あ、はい、お久しぶりですクリスティーナさん。十ヶ月ぶりですね」
ふむ。そういえば十ヶ月ぶりだ。十ヶ月ぶりの冒険者ギルドで、十ヶ月ぶりにクリスティーナさんとの再会であった。
「すみません。あまりにも緊急事態すぎて、挨拶もそこそこに緊急で話し始めてしまいました」
「どんだけ緊急なんだよ……。とりあえず座れよ」
「はい、ありがとうございます」
「ほら、ヘズラトも」
「キー」
クリスティーナさんに促され、僕とヘズラト君は椅子に座った。
「それにしても、やっぱり久々のギルドは緊張しますね。ヘズラト君に付いてきてもらって良かったです」
やはりギルドといえば荒くれ者の巣窟といった勝手なイメージが根強いため、どうしても及び腰になってしまう。一回入っちゃえばそんなこともないのだけど、その一歩目がなかなかに踏み出しづらい。
今回もギルドの入り口でまごまごしていたところ、ヘズラト君が颯爽と先陣を切ってくれたので、僕はその影に隠れるようにここまでやってきた。
「なので、すぐにクリスティーナさんを見付けることができて良かったです。ギルドに入ってすぐ、どことなく寂しげに一人で食事をしているクリスティーナさんを発見しまして――」
「別に寂しそうにはしてねぇ」
「むー、むー」
クリスティーナさんにほっぺたをむぎゅっとやられてしまった。
うむ。こうしてむーむー言わされていると、クリスティーナさんと再会したんだなって実感がふんわり湧いてくる。
「で、いったい何があったんだ?」
「ええはい、実はですね、とんでもない緊急事態が――」
ではさっそく緊急事態の詳細を――といったところで、ふとテーブルの状況が気になった。
クリスティーナさんは食事中だったため、テーブルには料理が並んでいる。……僕も何か買ってこようかな。
「とりあえず飲み物でも買ってきますね」
「急いでんじゃねぇのか……?」
◇
お茶を買ってきた。
席に戻り、一口飲み、人心地ついたところで――
「緊急事態です」
「さっきから緊急緊急うるせぇなぁ……。しかも、そのわりにはのんびりしてるし……。で、結局なんなんだ?」
「ええはい、では時系列に沿って説明します。一昨日この町に着いた僕達ですが、やはりまずは教会で鑑定しようという流れになりまして――」
「そういうもんなのか……? いや、まぁいいや。それで、鑑定して?」
「鑑定した結果――なんとレベルが44に上がっていたのです」
「ふーん? そらまぁ、おめでとう」
「ありがとうございます」
うん。めでたいよね。そのこと自体はめでたいと思う。
「……いや、待てよ? 確か前にもあったぞこんな会話」
「気付きましたかクリスティーナさん……」
前回の旅とまったく同じ展開を見せていることに、クリスティーナさんも気が付いたようだ……。
「ちなみに前回は、レベル39でした」
「ああ、そうだったかな。……うん? じゃあ十ヶ月でレベルが5つも上がったのか? それってエルフにしては結構なスピードじゃねぇか?」
「そうですね。驚異的なスピードと言っていいかもしれません」
まぁあんまり比べたことがないので、他の人のレベルアップペースとかは知らんかったりもするのだけれど、僕的には驚異的なスピードである。
良いね。『驚異的なスピード』って文言は良い。自分で言うのもなんだけど、あまりにも僕とかけ離れた言葉である。
「それもあれか? 前回言っていた、世界樹様に協力してもらったってやつか?」
「あー、前回はそうでしたね。世界樹様に協力していただき、世界樹式パワーレベリングでレベルが上がりました。しかし今回は違います。今回起こったのは――魔王式パワーレベリング」
「魔王式パワーレベリング……? あ、そっか、魔王様か。じゃあ合流できたんだな。スカーレットとリュミエスもこの町に?」
「そうですね。みんな一緒に一昨日町へ着きました」
ふむ。どうやらスカーレットさんは、僕と合流することをクリスティーナさんにもしっかり伝えていたようだ。
それはそうと――今ちょっと引っかかった。クリスティーナさんが言う二人の呼び名が気になった。
「ところでクリスティーナさんは、スカーレットさんのことを『勇者様』と呼んでいた記憶がありますが」
「あー、それか。まぁ二人はしばらくこの町に滞在していて、一緒に行動することも多くてな。そのうちに名前で呼ぶように言われてさ」
「ほうほう。そうですかそうですか。そんなふうに名前を呼び合える仲になりましたか。それは何よりです」
その話を聞く限り、どうやら三人ともだいぶ仲良くなれたようである。僕としても思わずにっこりしてしまう。
「なんだよ、その顔は……」
「いやー、実はクリスティーナさんがスカーレットさんと仲良くできるか心配していたんですよ。クリスティーナさんはお友達作りがあんまり上手じゃないので、もうずっと心配で心配で――」
「何をどういう立場から心配してんだ」
「むー、むー」
むぎゅっとされてしまった。いやでも、メイユ村にいるころから、そのことは本当にずっと心配していて……。
「でも良かったですね。仲良くなれて本当に良かったです」
「仲良くなぁ……」
「あれ?」
なんかちょっと考え込んでいるような表情……。え、そうなの? 実はあんまり仲良くないの?
「いや、仲良くはなれたんだろうな。それはそう思う。ただなんというか、アタシは振り回されるばっかりでなぁ……」
「あー、わかります。スカーレットさんは結構マイペースというか、あんまり人の話を聞かないで突き進んじゃうところがありますよね」
その上、無駄なところで無駄に行動力はあったりする。そうなると、周りのみんなは大変なのだ。巻き込まれて振り回されて苦労を掛けられて……しかし巻き込んだ当の本人はそのことに気付いていないのだから、いやはや困った人である。
「アレクと似てるよな」
「……え?」
next chapter:緊急とは……




