第637話 『パリイ』の極意
スカーレットさんと一緒に、『パリイ』でラリーでひとしきり遊んだ後に――あ、いや、一応は訓練か。一応は『パリイ』の訓練という話だったはずだ。
で、その訓練が一段落して二人で休憩していた際、スカーレットさんがおもむろに――
「ちょっと面白いものをアレク君に見せてあげよう」
――てなことを言い出した。
「面白いものですか? はて、どんなものでしょう」
「うん。言うなればそれは――『パリイ』の極意」
「『パリイ』の極意……?」
その『極意』とやらを、『ちょっと面白いもの』と表現しちゃうことに疑問を覚えなくもないが……さておき、そんなものを見せてくれると言うなら是非とも拝見したいところである。
そういえば『パリイ』でラリーも、極意を教えるという触れ込みで始めた訓練だっけかな。
「私くらい『パリイ』を極めると、それはもうすごいんだ。すごい『パリイ』なんだよアレク君」
「なるほど」
語彙がだいぶ貧弱で、いまいちすごさがわかりづらいが……。
「えっと、具体的に言うと、どのようなすごさなのでしょうか?」
「『パリイ』ひとつで、どんな攻撃でも弾き返すことができる。剣だろうが槍だろうが弾けるし、遠くから飛んできた弓の矢だって弾いてしまう。なんなら飛んできた矢を『パリイ』して、相手に打ち返すことすらできてしまうんだ」
「それはまた……」
やっぱり僕のイメージする『パリイ』とは微妙に違うんよね……。『パリイ』といえば受け流しってイメージだったから、飛んできた矢をそのまま相手に打ち返すとか、それはもはや『パリイ』なのかっていう疑問がどうしても湧いてきてしまって……。
「他にもなんと――魔法すら弾くことができる」
「魔法? え、魔法もいけるんですか?」
「いけるとも」
「いけるんだ……」
はー、なるほどなぁ……。本当になんでも弾き返せるんだな。すごいね。確かにそれはすごい。さすがは超一流の『パリイ』使いのスカーレットさんである。『パリイ』を極めたという言葉に嘘偽りはなかった。
「というわけで今からアレク君に、私が魔法を『パリイ』している姿を見せてあげようと思う」
「おー。ありがとうございます」
「ではアレク君、私に攻撃魔法を撃ってくれたまえ」
「え?」
僕? 僕が撃つの? 僕が攻撃魔法をスカーレットさんに?
えぇと、それは……。というか、そもそもの話として……。
「攻撃魔法とか、使えないのですが……」
「うん? 確かアレク君は、『火魔法』と『水魔法』が使えたはずだが」
「ええまぁそうなんですけど、でもアーツは未だに取得しておらず……」
「あー、そうだったっけ……」
僕が魔法スキルでできることと言えば、水を出すか、焚き火をするくらいしか……。
それより何より、たとえ攻撃魔法のアーツを取得していたとしても、それをスカーレットさんにぶっ放すのは躊躇してしまう。
そりゃあスカーレットさんならば軽々対処してしまうのだろうけど、それでもやっぱり人に向かって攻撃魔法なんて撃てるものではないよね。
「他に魔法っぽいことといえば……一応ヒカリゴケを飛ばすことはできますが」
「ヒカリゴケ……」
何もない空間からヒカリゴケを生み出すアーツ。あれも一応魔法と言えなくもないかも? それに、これなら気兼ねなく人にぶつけることができるよ?
「えっと、飛ばしましょうか?」
「ヒカリゴケを『パリイ』してもなぁ……」
「そうですか……」
まぁふんわり飛んできたヒカリゴケを拳でペシーンと弾いて、『これが極意だ』と豪語されても、どう反応したらいいのか僕だって困ってしまう。
「んー、それじゃあ――おーい、ジスレアー」
「ん?」
スカーレットさんは少し考え込んだ後、ジスレアさんに声を掛けた。
少し離れたところで簡易チェアに体を預けて本を読んでいたジスレアさんだが、スカーレットさんの声に反応し、本を閉じてこちらに視線を向けた。
「何?」
「私に攻撃魔法を撃ってみてくれないか?」
「……何故?」
「ちょっとした実験だ。私ならなんの問題もないから、試しに撃ってみてくれたまえ」
「…………」
……ふむ。なんだか微妙に煽っているようにも聞こえてしまう。お前の魔法などまるで効かんと、そう聞こえかねない発言である。
「どうしたんだジスレア。何も心配することはない。ジスレアの攻撃魔法くらい、私ならば軽々対処してみせる」
それはもう煽りでしかない。
「……撃たない」
「む。何故だ」
「軽々対処されるのも面白くないし、だからと言って対処できないくらいの魔法を撃つわけにもいかない。そもそも攻撃魔法は人に撃つものではない」
「む……」
正論である。これ以上ないくらいの正論。
「んー、じゃあ代わりに――『ヒール』をお願いできないか?」
「『ヒール』を?」
「『ヒール』ならいいだろう? ちょっと私に飛ばしてみてくれ」
「ん、別にいいけど……」
そんなやり取りがあってから、ジスレアさんが『ヒール』の呪文を唱えた。
キラキラと光るモヤのような『ヒール』が飛んできて――
「『パリイ』」
「え……」
飛んできた『ヒール』を拳でペシーンと弾き飛ばしたスカーレットさんと、それを見て唖然とするジスレアさん。
「どうだアレク君。このように『ヒール』すらも『パリイ』することができる」
「あ、はい……」
えっと、うん、すごいね。確かにすごいんだけど……それよりも僕としては、ジスレアさんが気になってしまって……。
ジスレアさんが、すっごい不満そう。不快感をあらわにしている……。
きっと今まで『ヒール』を『パリイ』されたことなんてなかっただろうしな……。相手に懇願され、それで差し伸べた手を思いっきり払い除けられたような感覚だろうか。それはイラッともするわな……。
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