第634話 新生アルティメット・ヘズラトボンバーズのキャンプ
――結局膝の上に座らされてしまった。
いやー、さすがに遠慮したんだけどね? 僕は遠慮したんだけど、リュミエスさんがどうしてもと言うので仕方なく。
そんなわけで、リュミエスさんに抱っこされたままでの人力車移動である。リュミエスさんはぴったり密着したまま後ろから手を回してきて、僕はぎゅーっと抱きしめられてしまった。
いやー、参るわー、困るわー。ただただ戸惑い困惑するばかりだわー。それ以外の感情はいっさいないわー。
とかなんとかやりつつも、さすがにずっとリュミエスさんに座りっぱなしというのも申し訳なくて、しばらくしてからリュミエスさんには退いてもらった。まぁ退いてもらうということは、人力車の横を自分の足で歩いてもらうということになるわけで、それはそれで申し訳ない気持ちにもなるのだけれど……。
でもそう考えると、今の状況もなかなかに異常である。勇者様や魔王様や聖女様には歩いてもらって、それで自分は人力車に乗って神獣様に引かせているのだから、よくよく考えるとすごい状況だ。どんだけえらいんだって話だ。
とはいえ、じゃあ僕も自分で歩くかというと、そういうわけにもいかなくて……。そうしたらたぶん普通にみんなから置いてかれてしまうわけで……。
なのでどうしようもなく、やっぱりぼーっと人力車で揺られていると――
「――今日はここまでにしよう」
「お、そうですか」
ジスレアさんの号令が掛かり、今日の移動は終了となった。
さてさて、それじゃあ僕も動くとしよう。
移動中は楽をさせてもらっているからな、ここくらいはしっかり働かんと。
「では今からテントを建てますが――どうします? 大きいテントだけでいいですか? この人数ですし、小さいテントも建てますか?」
現在のメンバーが僕とジスレアさんとスカーレットさんとリュミエスさんとヘズラト君の五名。いくら大きいテントとはいえ、さすがに少し狭く感じそう。
どうしようか? 大きいテントだけでも大丈夫かな? それとも大きいテントと小さいテントの両方を建てる?
いや、あるいは逆に――小さいテントだけという選択肢もあったりするか?
確かに大きいテントは良いよ? ゆったり広々で、とても快適だ。今さら小さいテントには戻れないと僕も思っていた。
だがしかし、ここであえて小さいテントのみを採用するというのも一興ではなかろうか。みんなで組んず解れつ、すし詰め状態というのも、それはそれで悪くないのではなかろうか? なんかほら、団結力とか高まりそうじゃない? パーティメンバーの絆とかも深まりそうじゃない?
というわけで、どうだろうか? いや、もちろん他意はない。何か邪な感情なんて一切抱いていない。あくまでメンバー同士の絆や団結力や結束力のためである。そのための組んず解れつ――どうだろうか?
「とりあえず大きい方だけで大丈夫だと思う」
「ふむ。そうですか」
ジスレアさんにそう言われてしまったので、大きいテントだけを建てることとなった。
うん、別にいいんだけどね。他意はないからいいのだけれど。
「じゃあ私は夕食の準備に掛かる」
「はい、お願いします」
というわけで、それぞれがキャンプの準備に入った。
渋々大きいテントを建て始める僕と、簡易テーブルを設置して料理を始めるジスレアさん。それから手持ち無沙汰で、なんとなくヘズラト君を撫で回しているスカーレットさんとリュミエスさんの三班に別れての作業である。
そして、しばしの時が経ち――
「完成した」
「おー、お疲れ様です」
料理が完成したらしい。お肉とお野菜のシチューに、カーク村で購入しておいたパン。旅のキャンプでは定番のメニューだね。
「それじゃあジスレアさん、お皿に盛り付けを…………ふむ」
「ん? どうかした?」
「せっかくですし、これを使いましょうか」
僕はマジックバッグから――白いお皿を取り出した。
ニスで作った例の白いお皿。せっかくだし、このお皿にシチューを盛り付けていこう。
「では、こちらがジスレアさんの分です」
「うん」
ジスレアさんが僕から白いお皿を受け取り、シチューを盛り付けて、テーブルに置いた。
「こちらがリュミエスさんの分です」
「うん」
そしてまた受け取り、盛り付けて、テーブルに置く。
「こちらがスカーレットさんの分です」
「…………」
ここで動きが止まった。今までは流れ作業だったけど、スカーレットさん用のお皿を見た瞬間、ジスレアさんの動きがピタリと止まった。
「うん、別にいいけど……」
「ふふふ……」
そしてまた作業再開。シチューを盛り付けて、テーブルに置く。
この作業を繰り返し、夕食の準備が整ったところで――何故か三人で相撲を取っていたスカーレットさんとリュミエスさんとヘズラト君を食卓へ呼び寄せた。
「やぁやぁ、美味しそうじゃないか。――お、それにこれはアレク君のお皿か。良いね、料理がより美味しそうに見える」
「ええはい、ありがとうございます。あ、スカーレットさんはそちらです。その席にどうぞ」
「うん? 席が決まっているのかな?」
まぁ席というか、お皿がね……。
「ではでは、いただきましょう」
「うん、そうしよう」
そうして夕食が始まり、しばし和やかな時間が流れる。
しかし僕としては、どうしてもスカーレットさんの様子が気になってしまい――
「……何かなアレク君、そうじっと見られていると食べづらいんだが」
「いえいえ、お気になさらず」
「気になると言うのに……」
そんな会話をしつつも食事は続き、スカーレットさんがお皿のスープを飲み干した。
その瞬間――
「ぶふぁ!」
「おぉう」
スカーレットさんが、口からスープを盛大に吹き出してしまった。
……どうやらスカーレットさんは見たようだ。お皿の底に隠されたデザイン――お皿の底で笑顔を絶やさぬ父の顔を、スカーレットさんはしっかり見てしまったようだ。
「ごほっ! ごほ! なっ……!」
スカーレットさんは激しく咳き込みながら、もう一度お皿の父を覗き込み、それからとりあえずお皿を遠くへ押しのけた。
「なんだこれは……」
「セルジャン皿です」
「セルジャン皿……。いったい何を作っているんだアレク君……。そして、何故私にそんなものを寄こしたのだアレク君……」
「すみません。ちょっとしたサプライズのつもりだったのですが、まさかここまでとは……」
まさか……ここまで良いリアクションをしてくれるとは。
申し訳ないことをした。スカーレットさんはセルジャンシリーズへのリアクションがとても良いので、ついついやってみたくなってしまったのだ。
「まったくもう……」
「すみません。お水をどうぞ」
「ああ、ありがとうアレク君」
丁寧に謝罪をしてから、水の入った木のコップをスカーレットさんに差し出した。
そしてスカーレットさんがコップに口を付け、水を飲み干した瞬間――
「ぶふぁ!」
セルジャンコップである。
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