四十話 幼馴染と林間合宿⑩
すみません、お待たせしました!ついに林間合宿最終回です!
人の気配が全くない、不気味な山道を俺達は駆け上がっていく。
「琴葉……?そろそろ、どこへ行くか教えてほしいんだけど」
流石に不安になってきて、彼女に聞くが。
「もう少しですから、待ってください!」
中々彼女は教えてくれない。この先に何があるのだろうか、俺にはまだ分からないが。
少なくとも。
琴葉の楽しそうな、無邪気な表情から見るに。
悪いことではなさそうだと思った。
しばらく、琴葉に手を引かれるがままに走ると、
「ほら、着きましたよ」
彼女が言った。
「やっと着いたか……」
意外と長い道のりだったので、少し疲れたが。
「おお……」
その先に広がる光景に目を奪われる。
そこは、少し広い公園の様な場所だった。それ自体は何の変哲もない風景だが……。
その奥に見えるのは、夜空の星と月明かりに照らされた大自然。昼とはまた違う絶景に、俺は見惚れていた。
「すごいな……」
思わず呟くと、
「そうでしょう。」
琴葉は得意気にそう言った。だが、そこである疑問が生じる。……うん、何故琴葉はこんなスポットを知っているんだ?
俺の記憶が正しければ、二人とも此処を訪れるのは初めてだし何なら話題に出た事すらなかった。
「でも、何でこんな所を知ってたんだ?」
かなり気になる。俺が彼女に聞いてみると、
「実はですね……。わ、私のパパとママが教えてくれて。」
その答えで全て納得がいった。何故なら……。
「あっ!二人とも、この高校の卒業生か!」
「そうですよ」
そうなのだ。琴葉の両親は卒業生で、その時の二人も此処を訪れていた、ということだろう。
琴葉に出発前、この場所を伝えておいたのか。
琴音さんたちが教えていなければ、合宿中に琴葉と二人でこんな美しい場所に来れる事はなかったろう。心の中で二人に感謝を告げておく。
「親から子へ、数十年越しですか……」
彼女は、何か感慨深そうにしていた。確かに、こんな奇跡はそんなに起こらないだろう。これはもう、運命と言っても良いだろう。
「両親もここに来て、今度は俺達が数十年の時を経て……なんか、運命感じるね?」
そうやって俺が冗談半分に言うと、
「……」
琴葉は何も答えることなく、ただ恥ずかしそうに視線をそらした。けれどその反応は……。きっと、琴葉も心の中で思っていたに違いない。
それから俺達は、しばらく無言で景色を眺めていたが。
「さ、さあ綴君。どうして私がここに連れて来たか、お分かりですか?」
突如、琴葉が話し始めた。
「うーん……」
どうしてと言われても、この絶景が見たかっただけなのではと思う。俺が考え込んでいると、
「せ、正解は社交ダンスです。踊りの続きをしましょう。」
緊張した表情で彼女は言う。俺は少し呆れたように、感心したように笑った。
最後にどうしても抱きしめてほしかった、それがないのは嫌だ、そんな理由だろうか。
何にせよ、わざわざ此処まで来て改めて踊ろうとしているのだ。
そんな彼女は……。
「……やっぱり、琴葉はロマンチストだなぁ」
この言葉が、一番似合うだろうか。すると琴葉は、
「ほっといてください」
やっぱり顔を赤らめて素っ気なく言い放った。その可愛さから、ついまた意地悪したくなるが……。
「で、どこからしたいんだ?」
時間もないし、早く終わらせる為に俺は我慢する。もう最後の抱き締めるところからで良いかな。一応聞いてみると、
「……最初からです」
言いにくそうに琴葉は喋った。
「……マジかぁ」
少し心配に思う。大丈夫かなぁ……。遅れたら間違いなく大変な事になると思う。もし集合時間にいなければ……先生が総出で俺達の事を探しに来るだろう。そんな迷惑を掛けたくないし、何より怒られるのは嫌だ。
「何ですか、もしかして面倒ですか?」
悩んでいると、琴葉が不安そうにこちらを見てきた。
「仕方ないな、やろうか」
彼女を悲しませるのも嫌だな、そう思い俺は歌い始める。
調子外れな鼻歌が、静寂に響いた。最初、琴葉は目を丸くしていて固まっていたが……。
「ふふ、綴君。音痴ですね」
次第に、それは眩しい笑顔に変わっていって。
そのまま俺に手を差し出す。
「まあ、良いじゃないか。踊りましょう、琴葉お嬢様」
素直に喋るのも気恥ずかしいので、俺は茶化して言った。
踊った。二人きりの舞踏会。満月と、数多の星が観客だ。こんなロマンチックな景色に、普通なら俺の鼻歌なんて相応しくないと思う。けれど。
……これもまた、俺達らしくて良いんじゃないだろうか。
それから、少し時間は過ぎて。
「これぐらいで良いかな?」
いい加減に戻らないとヤバい。俺も少々名残惜しいが、琴葉に切り出した。
「……最後に、忘れてませんよね?」
琴葉が、また勇気を振り絞って言う。それに、
「勿論」
俺は微笑みかけてやった。
「琴葉……」
「……優しく、お願いしますね」
琴葉を優しく、ゆっくりと包み込む。彼女の柔らかい、温かな感触が伝わってくる。
お互いに、その体温を確かめ合いながら抱き合う。
しばしの静寂の後、突如琴葉が口を開いた。
「綴君……!」
「な、何だ?」
あまりに突然の事で少し驚いた。何を言われるか、少しドキドキしたが。
「わ……私!今、すっごく幸せです」
そう言った彼女は、心の底から嬉しそうな表情を浮かべていて。
「俺も、幸せだ」
だから、俺も満面の笑みでそう応えた。それを聞いて、琴葉はもっと幸せそうな顔になる。
それから訪れるのは心地良い森閑。
少しして、また琴葉が切り出す。
「けれど……私って欲張りなんです。強欲です。だから、今のままでは満足出来ないですよ」
彼女が何を言わんとしているか、分かった。この気持ちに応える事が出来たならどれだけ良いのだろうか。けれど、
「……分かってるよ。後少しだけ、待っていてほしい。そうしたら……。」
臆病な俺は、ここでも"先延ばし"の道を選んでしまう。そうすると、
「……うん」
琴葉は一条の件と同じように、少し残念そうな顔をした。
だから、このままじゃあ終われない。悲しませたまま終わらせるなんて、ダメだ。
俺はたったの半歩、けれど大きな意味を持つ道を踏み出す。
「けどな、これだけは言わせてくれ。」
「……何ですか」
俺は、息を吸う。これから放つ言葉に、確かな意志を込めるために。
「琴葉、ずっと昔から大好きだった。君といる時間は本当に幸せで、楽しくて……。俺の日常がこんなに輝いているのも琴葉のおかげなんだ。ありきたり、陳腐な言葉かもしてない……。けど、言わせてくれ。」
琴葉が息をのむのが分かった。俺は、まっすぐと彼女を見つめて
「愛してる」
瞬間、風が吹いた。それに木々が揺らされて、ざわざわと音を立てている。
これは祝福か、ただただ囃し立てているだけなのか。
「私も……です」
その音に搔き消される程の声で彼女は呟いた。
「返答がもらえて嬉しいよ」
「もう!何で聞こえているんですか!」
顔を真っ赤にした琴葉が俺の胸元に、頭をグリグリと押し付けてくる。その度に、彼女が持つ良い香りが辺りを漂う。
俺と琴葉は、自分達の幸せをしっかりと噛みしめて。互いの体をもう離さんとばかりに密着させていた。
多分これは、一生の思い出となるだろう。
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