九話 幼馴染と委員会決め②
空気に緊張が走る。普通、立候補者が被ったくらいでこんなに雰囲気が悪くなったりはしないだろうが。今回ばかりは事情が異なる。
美少女二人が睨み合い、火花を散らしあっているこの状況。皆が、固唾を飲んで成り行きを見守って¥ていた。
何とも言えない空気の中、先に口を開いたのは琴葉だ。彼女は一条に、明確な敵意を込めた視線を送る。
「……。私は、ここで引く気は一切ありませんので」
しかし一条は、琴葉の視線に怯えることなく堂々と言葉を返す。その態度に、他の生徒だけでなく先生までも困惑していた。
「えーっと……。二人とも、ひとまず落ち着いて。じ、じゃんけんで決めましょう!ね!」
どんどん険悪になっていく雰囲気を改善するべく、ひきつった笑みを浮かべている松江先生は二人の間に介入した。
先生という大きな存在が入り込んだからか、少し空気が和らぐ。しかし、そんな状況は長く続かず。
「高校、それも優秀な生徒が集まる場で、そのような運任せな案を出すのはいかがな物かと」
一条は、笑顔で先生の案を拒絶した。すると、先生は不満そうに問う。
「じゃあ一条さん、人の意見を否定するならば、代替え案を出すのが常識かと思いますよ」
松江先生は、諭すような声で彼女に語りかける。しかし、一条明日香はそんな先生の優しさを容赦のない"口撃"で振り払った。
「まさか、この私が代替え案も用意せずに否定していたとお思いで?先生という立場であるのに、何て浅はかなのでしょう?私は勿論、考えていますよ。」
一条がそういうと、松江先生はしかめっ面で説明を促した。
「私が提案するのは奇抜な案などではありません。むしろこの状況において至極同然な解決方法。そう、投票です。紙は私が用意しておりますので、それに二人どちらかの名前を書いていただければ」
一条は自信満々に言ってのける。彼女の言ったことは確かに正しい。しかし、同時に卑怯でもあった。 一条は新入生代表、かなり目立つ存在だ。容姿端麗、頭脳明晰な女子生徒であることを皆が知っている。
一方で、琴葉はどうだろうか。彼女が美少女であることは人目見て分かるし、そこは一条と対等だ。しかしそれ以外の部分、例えば頭脳明晰であるかどうかなど、この場にいる俺以外の人間が知るはずもない。
一年生の代表とも言える、優秀であることが明白な一条と、視覚的な情報しか分かっていない琴葉。
二人の事を何も知らない状況であれば、皆はどちらに投票するだろうか。恐らく大部分の人間が一条に投票するだろう。
つまりあの新入生代表、一条明日香は全てを分かった上で仕向けていたのだ。
「確かに、投票だけなら穏便に、それも早く決まりそうですね。皆、異論はないですか?」
先生も一条の説得力に押されてか、彼女の案を完全に肯定していた。生徒達の間にも、賛同するような空気が流れている。
そんな中、琴葉は一人俯いていた。彼女が今どんな表情をしているかは分からない。けれど、長年一緒にいたなら大体想像はつく。
諦めている。俺と一緒の委員会に入ることは出来ないだろうと。きっと、悔しいだろう。そして虚しいだろう。
俺は、彼女の悲しむ顔なんて絶対に見たくない。俺は、彼女が傷付くことなんて絶対に許せない。そう思った俺は――――――
―――――― 一直線に手を挙げた。
先生や生徒から困惑の表情を向けられる。先程まで俯いていた琴葉も唖然としていた。
「佐々木さん、何か異論があるのかな?」
先生が戸惑いながらも俺に聞いてくる。一条のオーラと説得力に圧倒されてか。皆は、あまりにも当然すぎることを忘れていた。
俺は、ハッキリとした声で先生に問う。
「先生、一条も。投票する上で一つ、大事なことを忘れていませんか?」
俺はできるだけ堂々と、ハッキリとした声で語りかける。
「ただ投票するだけなら、それこそ不平等だ。立候補者の二人には演説をしてもらうのはどうでしょう?」
黒一色の光景に、微かな、けれど力強い一筋の光が降り注いだ。




