こちら、伝説の100年ものヴィンテージ牛乳になります
「いらっしゃいませ。お話は旦那様から伺っております。中へお入りください」
初老の執事に迎えられたあなたは中へと入っていきました。
ここは断崖絶壁の上に建てられた、とある伯爵が所有するお屋敷。
市街地を離れ、広大な麦畑に挟まれた一本道を馬車でひた走り、深い深い森を抜けた先に屋敷はありました。
もちろん普段は訪れる者などいません。
しかし、今夜だけは違いました。国中のコレクター達が自慢の一品を持ち寄り披露し合う、5年に一度の特別な日だから。
用意された控室に通されたあなたは、大きな窓の傍らに立つとカーテンの隙間から外の様子を伺いました。
馬車がやってきては貴族達が屋敷の中へと入っていきます。彼らの後ろを歩く従者の手には一本の瓶。今宵のために各地から集めた秘蔵の牛乳が入っていました。
そう。ここは全国の牛乳愛好家である貴族が集う秘密のサロン。
本来ならば部外者、しかも庶民であるあなたはその存在を知ることすら許されない会合です。
しかし、今回は主催者である伯爵の意向により特別に招かれました。
「次回に向けて至高の牛乳を生み出してほしい」
あなたの牧場で育てられた牛、その牛から搾り出される牛乳の虜となった伯爵は、サロンの様子をあなたに見せ、次の会合で皆に誇れる品を作るヒントになれば、と考えたのです。
「お時間でございます。どうぞこちらへ」
執事に小部屋へと案内されたあなたは、壁に開けられた小さな覗き穴から隣室を見るよう指示されました。
そこでは皆が持ち寄った自慢の一品の試飲会が行われていました。
「こちらは、東へ東へと航海した先の島国から取り寄せた……」
「大陸最果ての山脈に住む少数民族から買い付けた……」
いろいろな牛乳がグラスに注がれては飲まれていきます。
そして最後に今回の目玉となる一本が登場しました。
「こちら、伝説の100年ものヴィンテージ牛乳になります」
「これが噂の……!」
「なんと素晴らしい!」
皆から歓喜の声が上がりました。震えてる手でグラスを持ち、一気に飲み干す貴族達。
次の瞬間、その異様な光景に恐怖したあなたは屋敷を飛び出しました。
背後から聞こえてくるのは断末魔の声。ナマモノ故に起こる阿鼻叫喚。
それでも、彼らにとっては甘美狂乱の夜なのです。
どうぞ、ご理解を。
「タイトルは面白そう!」の「牛乳」へ投稿した作品です。
今回の大賞に応募するため、あらすじを膨らませてホラーテイストのお話にしました。
気に入ってくださるとうれしいです。