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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十一章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十一章

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33.第十一章、完

 夕日が、私室のベランダに佇む二人をオレンジ色に染める。


「明日は朝から国民に向けてのパレードですわね」

「その前に晩餐会か。少しは眠れるといいのだが」


 晩餐会用の衣装に着替えるための時間だった。

 休憩が欲しくなり、無理を言って、クラウディアとシルヴェスターはベランダに出ていた。

 窓越しに侍女たちの圧を感じる。


「戴冠式が恙なく終わって、安心しました」

「ああ。ようやく、だ」


 前国王が病に伏してから、ちょうど一年が経とうとしていた。

 慌ただしく過ぎる日々に、ほとんど息つく暇がなかった。

 ベランダに置かれた白いガーデンチェアに座り、シルヴェスターが目を閉じる。

 銀色の睫毛が、夕日を宿すのをクラウディアは見つめた。


(一瞬、一瞬が、美しい人)


 戴冠式でもそうだった。

 ステンドグラスによって溢れる色彩に彩られたシルヴェスターは幻想的で、絵本の王子様というより、幻想生物そのものだった。

 現実感がまるでなく、見蕩れるうちに、緊張は消えていた。

 再び瞳が開かれ、世界に光が増える。


「怪盗には、してやられた感が拭えぬ」


 万事、乗り越えはしたものの、翻弄されたのは否めない。

 主犯格である商人も、怪盗にアリバイを用意してもらう手筈だったが、見事に裏切られていた。


(財産を全て盗まれるなんて……どんな人も騙されるってことね)


 知恵があろうと、犯罪者だろうと、関係ないのだ。


「わたくしたちが会った怪盗は、大きな存在になると宣言しました。今回の件は、まだ序章に過ぎないのでしょうか」


 これで終わりだとは到底思えなかった。

 目標を達成するまで、怪盗は二人の前に立ちはだかる気がする。


「義賊という話は何だったのだろうな。我々の前では単なる愉快犯でしかない……そういえば、商人と結託していた怪盗は、自己主張が控えめではなかったか」

「言われてみれば、王冠を盗んだ件からはじまり、商人との件でも犯行声明がないままですわね」


 二人の結婚式後に現れた怪盗なら、何かしら自分の頑張りを公表するのではないか。


「それこそ商人が紛争地帯に関わっていたことも、ストッシュガルド王国のことも怪盗からは公表されていませんわ」


 ハーランド王国ではまだ知名度がないものの、暴露するのが今までの行動パターンではないだろうか。

 考えるクラウディアの言葉を、シルヴェスターが引き継ぐ。


「我々が知る怪盗とは、性格が違う者なのかもしれぬ」


 複数犯のうちの一人。

 「怪盗」という枠組みの中にいるからといって、全員が同じ性格だとは限らない。


「あと可能性としては、フロックス駐在大使も注視しているでしょうから、自分では動きにくいのかもしれませんわね」


 ストッシュガルド王国の駐在大使の名が出て、ふっ、とシルヴェスターが口元を緩ませる。


「大捕物のあとの会談では、だいぶ顔を青くされていたからな」


 下手な小細工をさせないため、クラウディアとシルヴェスターで圧をかけた。

 大捕物をした屋敷にシルヴェスターが同席していたのは、主にそのためだ。

 駐在大使の裁量で得られるものは全て書面に起こしてある。

 追加で本国との交渉を望むと、フロックス駐在大使は固まった。

 本国に伝われば、彼の経歴に傷が付くことは間違いないだろう。

 怒りの矛先を怪盗に向けてもおかしくない。

 ふむ、とシルヴェスターが一呼吸置く。


「まずは第四王子のノア殿下と繋がりを持つところからか」


 国王の末っ子で、七人目の子どもであるノアは、現在十一歳。

 跡目争いから一番遠い存在として知られていた。

 あえて有力候補との接触を控えたのは、紛争地帯がストッシュガルド王国への壁となり、跡目争いに出遅れたためである。


「第二王子、第一王女には近隣国からの援助が入っているという話でしたわね」


 ストッシュガルド王国に潜入している情報部からの報告だ。フロックス駐在大使からも同様の情報が得られた。

 続く第三王子、第二王女にも後ろ盾があり、介入がしにくい。


「東洋のことわざには、残り物には福がある、というものがあるという。ノア殿下との繋がりが、我が国にとって有益になることを願うばかりだ」


 ハーランド王国としては依然、難民への支援を搾り取れるだけ搾り取る意向だ。

 揺さぶりはかけるものの、駐在大使相手とは違い、本国とはどうしても交渉が長引くだろう。

 支援をなかったことにさせないためにも、王家とのパイプは必要だった。


「いざというときは教会やバーリ王国はじめとする近隣諸国も巻き込む」

「難民の支援をおこなっている国は多いですからね」


 紛争地帯にストッシュガルド王国が一枚噛んでいたとしれば、皆、黙ってはいない。

 いかに交渉を有利に進められるか、カードを切るタイミングが大事だった。

 ここでベランダへ出るドアが開かれる。

 ヘレンだった。


「クラウディア殿下、シルヴェスター殿下、そろそろお着替えをしていただかなくては困ります」


 時間がギリギリとのこと。

 気付けば、空の明かりも遠くなっていた。


「結局、休憩にはならなかったな」

「考えることが多いですから。でも体は休めました」


 二人でガーデンチェアに腰掛け、夕日を浴びられた。

 それだけでも尊い時間だ。

 シルヴェスターがクラウディアの額にキスを送る。


「私はもっと君に触れていたかった」

「わたくしもです。シル、そろそろヘレンが縄を持ち出しそうですわ」

「あれは君用だろう?」


 休憩を強制するためのものだが、使用用途が広がろうとしていた。


「前例をつくらないためにも急ぎましょう」

「致し方ない」


 ふふ、と二人で笑いながらベランダをあとにする。

 夜の帳が下りようとしていた。

 けれど、ここに確かな光はあった。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

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