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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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33.悪役王太子妃は夫と風に当たる

 参列者との挨拶が終わり、シルヴェスターとクラウディアは大聖堂にある小高い丘に来ていた。

 表門からは死角になる場所で、休憩したかったからだ。

 このあとには、王城でのパーティーが控えている。

 晴れ渡った空を見上げるシルヴェスターの背中は、普段と変わらなかった。

 クラウディアは、ただ寄りそって手を握る。


「……」

「……」


 無言の時間。

 風が、ゆるりと二人の周りを舞う。

 木の葉が囁き、鳥が鳴いていた。

 突如、ぐっと肩を抱かれ、クラウディアは息を詰まらせる。


「……っ」

「よく辛抱した」


 早朝、まだ日が昇る前に、訃報があった。

 王城に泊まっていたクラウディアがシルヴェスターと駆け付けたときには、国王は息を引き取っていた。

 王妃は、二人の礼服を見て満足されたのだと、涙を流した。

 まだ、このことは伏せられている。

 結婚式と同日に発表すれば、心をどこへ落ち着かせればいいのか混乱するからだ。


(今の、わたくしのように)


 国民のために、一つ一つ物事を進めることとなった。

 前々から国王の病状について国民に報せるのは、収穫祭前だと決められていた。

 崩御の報せも準ずる。

 国が悲しみに包まれても、収穫祭を迎えれば、いくらかは癒やしになるからだ。


「わたくし、もっと、一緒に……っ」


 過ごせると思っていた。

 ――緊張を強いられる相手だった。

 同席した食事の味は覚えていない。

 それでも、確かに、シルヴェスターの父親だった。

 厳しい視線の瞳の奥には、息子への思いがあった。

 わからないはずがない。

 だって完全に冷え切った目を、クラウディアは知っている。

 子どもながらにショックだった記憶があるから、未だにリンジー公爵を父親とは認めていない。


「ごめんなさい、わたくしばかり、感情的になって」

「いいや。むしろディアが感情を出してくれて良かった」


 そっと抱き締められる。

 額に、シルヴェスターの頬が触れた。


「私の隣に君がいるのを見て、父上もさぞ安心したはずだ。感情を吐露しない息子より、よほど可愛げがある。私も普通の感性を知れる」

「シルは……いいえ、わたくしが何かを補えているのなら、本望ですわ」


 発しようとした言葉を呑み込み、言い換える。

 まだ、感じたことを伝えるときではないと考え直した。


(シルは、王太子であろうとしているのだから)


 涙を拭き、鼻先を擦り合わせていると、突如シルヴェスターが顔を上げる。

 一瞬にして緊張感が高まり、クラウディアは何事かと振り返った。

 いつの間に近付いていたのか。

 数メートル先のところに、教会のシスターが佇んでいた。


「お二人にお祝い申し上げます」


 中年女性に見覚えはない。

 シルヴェスターは、すかさずクラウディアを背中へ庇った。

 声を上げようとしたところで、手の平を見せられ、待ったがかかる。


「国王の崩御を国民にバラされたくなければ、お静かに」

「何者か」

「わかりませんか? なら、自分もまだ捨てたもんとちゃうなぁ」


 声音はそのままで、聞き覚えのある口調にガラリと変わる。


「貴様、ケントロン国にいた怪盗か!」


 次世代の王族を招いておこなわれたケントロン国での国際会議。

 怪盗は、ファンロン王国の王太子に化けていた。


(あのときとは、まるで風貌が違うわ)


 身長や年齢、声だけでなく性別まで。

 変装が得意だとは聞いていたけれど、なりすましの域を超えている。

 クラウディアの視線を感じ、ニッと目が弧を描く。

 この表情には馴染みがあった。


「ご名答。心配せんでも、結婚のお祝いに来ただけや」

「それを信じろと?」

「信じるしかないんちゃう?」


 異変を察した教会の騎士が近付いて来ようとするものの、シルヴェスターが止める。

 国王の崩御を怪盗に掴まれている以上、下手には動けなかった。

 せやろ、せやろ、と中年女性の姿で怪盗は頷く。


「何もわからんままやったら不安やろうから、種明かししたろう――基本は、勘や!」


 わざわざ行動を語ってくれるなら、とシルヴェスターとクラウディアは話半分で聞くことにした。


「リーグ戦ってのが面白そうやから、色々と参加させてもらっててん」


 芝生関連で王城にも来ていたと知り、背中がゾッとする。

 表情に出したつもりはなかったけれど、怪盗はクラウディアの心情を読み取った。


「ああ、大丈夫やで。さすがに王族のプライベートスペースまでは侵入できんかったわ」


 でも雰囲気から読み取れるものがあったという。


「死の気配ってのは独特で、特に病気はわかりやすい。多分、薬とか細かい粉が空気中に残ってんのとちゃうかな」

「それを貴様は察したと?」

「せや。ただこのときは、誰かまではわからんかった」


 その後、スタジアムに移動し、試合を観戦した。

 初日にシルヴェスターが影武者だとわかり、違和感が募っていった。


「人の外見ってのは偽れるもんやけど、生命エネルギーまでは変えられん。まぁ自分にかかれば多少はいじくれるとしても」

「生命エネルギーとは?」

「人が持つ雰囲気とも言えるか? 無意識のうちに体から滲み出てるもんや」


 これといった名称がないため、怪盗が「生命エネルギー」と呼んでいるだけだった。


「シルヴェスター殿下肝いりの事業やのに、スタジアムに来たのは最終節の二日目。よっぽどスケジュールが詰まってたんやろう」


 優勝クラブが決まり、授与式がおこなわれる。

 怪盗にとって、違和感の正体に迫る最後のピースは、結婚式の日取りが報告されたことだった。


「良いことの裏には、悪いことがあるってのが持論やねん。急ぎ王城へ戻ってみたら、前のときより死の気配が濃くなってるやん?」


 ここで気配の主は、シルヴェスターの近親者だと察した。

 加えてスケジュールに影響を与え、結婚を急がせるような人物。


「見当は付いたから、手紙に認めて協力者に渡してある。自分に何かあったら公表してくれってな。式の参列者を見て、答え合わせできたわ」

「よくここまで潜り込めたものだ」

「褒めてくれる? でもそない難しいこともないねんで」


 どうやら怪盗は、自己顕示欲が強いらしい。

 思い返せば、義賊として活動しているときは、平民から賞賛されていた。


(自分という存在を知らしめたいのね)


 手法まで明かすのは、自分以外にはできないという自負があるからだ。

 実際、このレベルの変装をし、よそ者が現地に溶け込むなんて考えられない。


「おばさんって生き物はどこにでもおる。だから警戒もされにくい。加えて、その場にあった制服を着たら、誰も怪しまん」

「主審を脅したのも貴様か!」


 わざわざ怪盗は「制服」と言った。

 清掃員に化け、主審にハンカチと脅迫文を記したメモを渡したことを示唆したのだ。


「よく出来てたやろ? 子どもには手を出さず、父親の思い込みを利用して。もっと良い結果が出ると思ってんけど、あかんかったわ」


 怪盗はおもむろに、腹で手を重ねて頭を下げる。


「新たな国王と王妃の誕生を、心よりお慶び申し上げます」

「ふざけたことを」

「お祝い言いたいのはほんまやって。二人には感謝してんねん。あんたらに出会えたことで、自分の矮小さを知ったからな」


 国の違い、環境の違い。

 土壌が変わるだけで、人間も変わることを知った。

 上を目指さす、現状で満足した気になっている自分を知った。


「おかげさんで今はもっと大きくならんとって思ってる。お二人さんが国を背負うなら、自分も相応のものを背負う。ああ、これからが楽しみでしゃーないわ」


 怪盗は踊り出しそうな勢いだった。

 嬉しそうに口角を上げる。


「もう一回り大きくなれたら、また遊んでや。そんときはバチバチにやり合おうな!」


 シルヴェスターの答えを待たず、怪盗は踵を返す。

 後ろ姿は、どこにでもいるシスターにしか見えなかった。


「また厄介な者に目をつけられたものだ」

「今回はシルが気に入られたようですわね」


 ナイジェルは、クラウディアに固執していた。

 怪盗の視線の先には、常にシルヴェスターがいる気がする。


「ただでさえやることが多いというのに」


 収穫祭前に国葬があり、その次には戴冠式が控えている。

 正真正銘、国を背負うことになれば、もっと慌ただしくなるのは目に見えていた。


「念のため東洋の国々に注意するよう伝えておこう」


 怪盗が何か仕掛けるようだと。

 クラウディアは、シルヴェスターの腕を抱き込むようにして手を握る。

 シルヴェスターも指を絡め、握り返した。


「ディアと一緒なら何だって乗り越えられる」

「ええ、シルと一緒なら何だって。気まぐれな神様の目が届かなくとも、支え、愛することを誓った仲ですもの」


 怪盗に水を差されてしまったけれど。

 二人の絆と決意は、固く結ばれていた。

 互いの薬指にはめられた指輪があたり、小さく音を立てる。

 そのときだった。

 見知った教会の騎士が慌てて近付いてくる。


「火事です! 避難してください!」


 騎士の後方へ視線を向ければ、式を挙げた礼拝堂の近くから煙が上がっていた。


「今のところ木が燃えただけですが、延焼しないとも限りません。急ぎ王家の馬車へ避難願います!」


 話している間に、王家の馬車が到着する。

 近衛騎士たちに囲まれながら、シルヴェスターとクラウディアは馬車へ乗り込んだ。


「これも怪盗の仕業でしょうか?」

「ああ、きっと逃げるための誘導だろう」


 一足先に、参列者は王城へ向かっていたため、難を逃れた。


「最後まで迷惑な方ですわね」


 馬車の窓から、消火活動している様子が窺える。

 幸い延焼はないようで、木が一本燃えただけだった。

 大聖堂内で唯一紅葉を迎え、黄色く色付いていた木。

 葉は全て燃え落ち、焦げた幹だけが、もの悲しく残っていた。

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