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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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31.怪盗は溜息をつく

 リーグ、最終戦。

 一時中止となったものの、再開された試合は滞りなく終わりを迎えた。

 勝者は「早天の航海」。

 予定とは違う結末に、溜息が出る。


「これが民度の高さかねぇ」

「前半はどうなるかと思ったっすけど、後半の白熱っぷりはやばかったっすね!」


 隣の席の大男が、興奮を隠さず話しかけてくる。

 人見知りしない性格のようで、探偵の助手をしていると語った。

 主人の探偵は、二階席のグレードの高いほうで観戦しているという。

 自分は、あるときはナーセリーの管理者、またあるときは清掃員に扮し、リーグ戦の開幕前からスタジアムに入り込んでいた。

 今日は中年女性の姿なので、余計に声をかけやすいのかもしれない。


「カードが取り消されて良かったっす。誰か介入してくれたんすかね?」

「監督には、審判の判定に対して一回だけ審議を求める権利があるんだよ。ルールぐらい確認しな」


 販売されているルールブックの他に、大まかに内容をまとめた広報誌が発行されていた。

 スタジアムの案内所に行けば、無料で貰える。


(「早天の航海」側が使うのは予想しとったけど)


 審判に対しては、もっと上手く立ち回れと言いたいところだが、所詮は素人である。働きはあまり期待していなかった。

 けれど二人の退場者を出したことは評価した。

 審議権の発動は「早天の航海」のみで、一人の欠員は確定したと思われたからだ。

 ところが蓋を開けてみれば王家クラブの監督も申請したらしく、異議が認められて二人ともピッチに戻った。


(わざわざ自分の優位を覆すって、どういうこっちゃ)


 公明正大にもほどがある。

 汚職にまみれた自国では考えられないことだった。


(付け焼き刃ではあったけど、それなりに頑張ったんやで?)


 警護が付いている相手を誘拐するのは到底無理だったが、装飾品を手に入れ、手持ちのカツラから似た色の髪を一房用意した。

 全部一人で手配した割には、よくできたほうだと自分を褒める。

 試合再開前、件の主審がすっきりした顔で頭を下げていたのを見るに、呆気なく解決されたとしても。


(国が違えば、人もこんな変わるんか)


 王家クラブの監督だけじゃない、主審にしてもそうだ。

 封書を渡したとき、まだ賭けられる時間があった。便乗して賭ければ、得をしたというのに。


(まぁ、データは取れたな)


 金目当てで起こした事件ではなかった。

 シルヴェスターやクラウディアが住まう、ハーランド王国の倫理観がどの程度のものなのか検証したかったのだ。


「面白くないね」

「あ、おばさんは『黄金の草原』推しっすか?」


 黄色のタオルマフラーを見た、大男が残念そうに眉尻を落とす。

 自分も首元に視線をやって、初戦を思いだした。


(あんときも、上手く抑え込まれた)


 一番にタオルマフラーを選手へ投げつけた。

 観客を煽動し、暴動を起こさせようとした。


(信仰で説き伏せられるもんなんか)


 ファンロン王国も気まぐれな神を信仰している。

 だが、同じ状況が自国で起これば、貴族にもタオルマフラーが投げつけられ、観客の多くが処刑されただろう。

 リーグ戦など、開催できるはずもない。


(何が違うんや。やっぱり環境やろか)


 貧民層の支えを教会に丸投げしているファンロン王国。

 教会に助けられながらも、自国で対策しようと動いているハーランド王国。

 どちらの土台がしっかりしているかは、明白だ。


(自分もまだまだや)


 今回の遠征で、井の中の蛙であると知れた。

 あくまで東洋という狭い地域の中で、活躍できていただけだった。

 完全に驕っていた。


(どうやったら同じ位置にいける?)


 シルヴェスターやクラウディアに追い付くために、必要なものは。

 ドンッ、とスタジアムが揺れた感覚がして、意識がアリーナへ向く。

 トロフィーの授与式が佳境を迎えていた。

 シルヴェスターは、光の申し子だった。


(太陽を目視し続けたら、目が潰れてしまうんやで)


 眩しさに顔を顰めそうになる。

 祝いの儀式は、授与式だけに留まらなかった。

 正確には、結婚式の日取りが発表されただけだが。


「おおおっ、おめでたいっす!」


 大男が歓声を上げ、タオルを真上へ投げる。自分で受け取れるように。

 それが景気づけに良いと、他の者も倣った。

 観客席が、トロフィーの授与以上の盛り上がりを見せる。

 応援するクラブが分かれるフットボールとは違い、王太子と婚約者の婚儀は、国民全員にとっての祝い事だ。

 頭上で、黄色と水色のタオルマフラーが舞う光景を眺める。


(ふーん、何かありそうやな)


 リーグ戦の試行期間が短いのも気になっていた。

 シルヴェスターなら、もっと余裕を持って行動しそうである。

 結婚式については、前々から早く挙げたがっていたようだが。


「はぁ、めでたいめでたい」

「帰られるっすか? 混雑してるんで、気を付けるっす」

「もう見るもんは見たからね」


 席を立つ際、大男の主人である少年が頭に浮かんだ。

 首にかけていた黄色いタオルマフラーを外す。


「これは餞別だよ。主人にでもあげればいいさ」

「いいんすか? きっと喜ぶっす!」


 礼を言う大男に手を振って、その場を離れる。

 ナーセリーの管理者として、王城を訪れていた際に気になることがあった。

 侵入できる場所は限られたものの、空気感の違いには聡い。

 馴染みのある重苦しさを微かに感じていた。


(調べてみる価値はありそうや)


 適当に馬を掻っ攫い、王城へ向かう。

 シルヴェスターのことだ。

 何の意図もなく、この場所、このタイミングで報せはしないだろう。

 口角が上がるのを自覚する。

 好敵手(おもちゃ)に巡り会えたのは、確かだった。

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