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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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25.公爵家令息はエスコートする

 夜、滞在中である王家の屋敷の玄関先で、落ち着きのないトリスタンと合流する。

 タキシードの首元をしきりに触りながら、トリスタンは眉尻を下げた。


「僕、変なところないですか?」

「侍女の仕事を信じろ」

「そうですよね。でも気になって」


 ルイーゼと出かけるのは、これがはじめてではないだろうに。

 婚約前もパーティーでダンスしているのを見たことがある。


「まずは手をとって……あれ、右手を取るんでしたっけ? 左手?」

「相手に合わせろ」


 エスコートの基本だ。

 相手が動きやすいようにリードする。

 「動きやすい」のが肝心で、自分の調子で引っ張ればいいというものじゃない。

 右往左往しだすトリスタンの首根っこを掴んだところで、女性陣が姿を現す。

 各々の挨拶が終わり、トリスタンが迷っていたエスコートのときが訪れた。

 こういうとき、流れは決まっているものだ。

 ルイーゼが軽く右手を上げる。

 その手を、トリスタンはきゅっと両手で掴んだ。


(ん?)


 違和感を覚えて眺めると、頬を赤く染めながらトリスタンが口を開く。


「ドレスが、とても良く似合っていて素敵です!」

「まあ、ありがとうございます」


 ルイーゼは、グリーンのドレスを身に纏っていた。

 デコルテから二の腕がレースになっており、腰からすらりと落ちるスカートの裾が上品だった。


「手を握る必要はあったのか?」


 思わず呟くと、微笑ましいです、とヘレンが笑む。


「俺はスマートに導かせていただこう」

「よろしくお願いいたします」


 掴まりやすいように肘を出す。

 そっと手が添えられ、馬車へ向かった。

 トリスタンたちは、まだ少しかかりそうだ。


「君も、フロントドレープの華やかさが、グレイッシュピンクの生地と調和して魅力的だ」

「ありがとうございます。あつらえにお詳しいんですね」

「ディーのおかげだ」


 流行りの造詣など、知っておかなければ呆れられると思い、たたき込んでいた。

 ドレープとは、自然にできる布のたるみやヒダを指し、優美に布を纏わせるスタイルのことだ。

 スカートのほうはルイーゼ同様、ヘレンも膨らむタイプではないが、その分、歩調に合わせて薄手の生地の重なりがヒラヒラと舞った。

 腰の部分はきゅっと締まり、ヘレンの整ったスタイルが生かされたドレスだ。

 いつまでも見つめてしまいそうで、意識的に視線を逸らす。下品になってはいけない。

 先に馬車へ乗り込んでも、まだ世間話をする時間があった。


「あいつは、いつまで玄関にいる気だ?」

「ふふ、お二人は久しぶりにお会いになられましたから、お話に花が咲いているのかもしれません」

「まさか婚約式以来じゃないだろうな?」


 あのあとトリスタンも陛下の容態を聞いただろうが、それにしても、である。


「ルイーゼ嬢でなかったら見限られるぞ」

「さすがにトリスタン様は、釣った魚に餌をやらないタイプではないでしょう」


 ちらり、とヘレンが上目遣いで窺ってくる。

 少し前屈みになった拍子に、胸がふるんっと揺れた気がして、咄嗟に視線を窓へ向けた。


「今夜はお誘いいただいて、ありがとうございます。だけど、ご無理はされてませんか?」


 リーグ戦も、残すところ最終節のみ。

 けれど、この一か月半、ヴァージルはほとんどの時間をスタジアムで過ごしていた。

 屋敷に帰るのは、風呂に入るときだけ。

 ヘレンは、ずっとクラウディアの傍にいるはずだが、ヴァージルの生活もよく把握していた。


「大丈夫だ。息抜きにもなる」

「目の下のクマが取れるまでは、安心できませんね」

「目立つか?」


 コンシーラーで隠してはいる。

 顔を向けると、予想以上に近い位置にヘレンの顔があった。

 ヘレンも慌てて距離を取る。


「すみません、お顔を確認しようとして近付き過ぎたみたいです」

「あ、ああ、いや、俺も確認してもらおうと思ったところだ。気にせず見てくれ」


 ただ無性に気恥ずかしくて、目を閉じた。

 これなら距離の近さに驚くこともない。


(最初からこうしていれば……いや、明らかに変だな)


 浮き足立っていたトリスタンの心境が伝播したのか、考えがまとまらない。

 その間にも、ヘレンが近付く気配を感じる。


「大丈夫です。暗がりですと、昼ほど目立ちません」


 ならば良かった、とヘレンが離れるのを待つ。

 しかし気配が遠のかない。


「ヘレン?」

「あっ、何でもありません」


 よくわからない返答を得ながら、目を開ける。

 心なしか、ヘレンが肩をすぼめていた。


「もしかしてイタズラでも企てていたか?」


 シルヴェスターやトリスタンならやりそうである。

 言っておいて、さすがにないか、と結論付けた。ヘレンは悪ガキではなく、淑女である。


「いえ、睫毛が長いなぁとか、思わず見入ってしまっただけです。すみません」

「謝らなくていい。俺も先ほど君のドレス姿に見入ったから、お互い様だ」

「そ、そうですかっ」


 パタパタとヘレンが顔をあおぐ。

 夜になり、気温が下がったと思ったけれど、車内は風がなかった。


(扇子でも贈るか)


 プレゼントの候補を上げていると、ようやく赤い髪が視界に映る。


「お待たせしました!」


 遅れて乗車した二人も、顔を赤くして暑そうだった。

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