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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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24.公爵家令息は妹に弱い

 リーグ戦も、遂に最終節を迎えようとしていた。

 ギリギリ最後の試合に間に合うよう、シルヴェスターがトリスタンと共に現地入りする。

 グラスターにある王家の屋敷で、ヴァージルは報告にあたった。

 ちなみにクラウディアは、王都から届けられた結婚式の最終確認書類を別室で検めている。こちらも大詰めだ。


「初日にディーが出てくれたことで、その後の試合も安全に推移している」

「さすがディアだ。ギーク枢機卿にも、謝礼しよう」


 司祭より高位の枢機卿を招いたことで、ピッチは神聖化した。

 今では、ものを投げ込む行為は信仰に反するとされ、皆が定められたルールを守っている。

 一時、平民同士ならケンカをしても許される機運が高まり、あわや暴動になりかけたときは、修道者が間に入って止めてくれた。

 仲裁は彼らの本分だが、クラウディアの行動に心を打たれたのも大きい。観客は十二人目の戦士だと説いた。

 自分たちも、選手たちと同様に、公平性と敬愛を忘れてはならない。

 また誤って修道者を殴りたい人間はいなかった。連帯責任を恐れて、冷静な者がいさかいを止めることも多くなっている。

 おかげ様で騒ぎが起きても、小競り合いで済んでいた。


「そうだ、ギーク枢機卿にカップ戦の話もできたぞ」


 聖女杯と名付けて、教会でもフットボールの大会を催すのはどうかと持ちかけた。

 褒賞の授与式は、権威者の威光を示すいい機会だと。

 反応は悪くなかった。

 シルヴェスターが片眉を器用に上げる。


「待て、聞いてないぞ」

「国内に留まらず、国外のクラブとも試合できればと考えた」


 ラウル辺りは喜んで参戦するだろう。

 他国の文化に触れる、良い機会になるかもしれない。


「勝手に話を広げるな」

「難民問題は、国内に限った話じゃないだろう?」


 紛争地帯の周辺諸国は、もれなく難民支援をおこなっている。

 ハーランド王国で事業が成功すれば、教会も取り入れたいはずだ。


「今は国内に集中してくれ」

「わかっているさ。未来を語っただけだ」


 クラウディアからも、これ以上仕事を増やすなと注意されている。

 ヴァージルの体は一つしかない。


「このまま、リーグ戦は問題なく終われそうか?」

「ああ、試行期間にしては悪くない結果だ」


 唯一、芝生の状態だけが懸念された。


(週二回の試合でも厳しいか)


 選手たちが激しく走り回るからか、想像以上に劣化が激しい。

 かといって試合回数を減らせば、リーグ戦を回せなくなる。


(もう一つスタジアムを用意することを本気で考えねば)


 人口過密が課題にもなっていた。


「リーグ戦に直接の支障はないが、宿泊施設が足らず、野宿する者が増えている」


 チケットがなくとも戦況を知りたいと、スタジアム周辺に集まる人間が増えた。

 町へは、速報を早馬で伝えるようにしているが、スタジアムの雰囲気に酔い、お祭りに参加したい者が圧倒的に多い。


「今期は開催期間が短い上、遠方からの客が少ないからしのげている状態だ」


 急激な治安悪化に繋がっていないのは、ローズガーデンの存在が大きかった。

 ある種、統制が取れているからだ。


「こちらについては行政官と話してくれ」

「わかった」


 港町ブレナークには、王都から派遣された行政官がいた。

 悪人面だが、痩身さが庇護欲を掻き立てるのか、領民からは慕われている。

 シルヴェスターもよく知っている人物だった。


「都市計画を見直さねばな」


 最終戦を観に来たというのに、仕事からは逃れられない。

 シルヴェスターが背負うものの大きさを、ヴァージルはひしひしと感じた。

 トリスタンが一際明るい声を上げる。


「『黄金の草原』が優勝候補だと聞いて、鼻が高いです」

「その鼻をへし折ってやろうか?」

「ひえっ」


 リンジー公爵家の「紺青のレーヴァン」は、惜しくも勝ち点を積みきれなかった。

 現在の順位一位は、ゾーン伯爵家の「早天の航海」。

 二位が、「黄金の草原」だ。

 勝ち点が二点差な上、最終戦ではこの二クラブが対戦する。

 勝ったほうが優勝するという展開は、観客の心を掴んだ。最終戦のチケットが高額転売されているほどだ。


(しかし、カラ元気だな)


 トリスタンも、陛下の病状を聞いたのだろう。

 空気が重くならないよう、気を配っているのが察せられる。

 こういうときは、やることを増やすのに限った。

 ヴァージルも多忙なおかげで、他へ気を散らせられている。


「ところでトリスタン、婚約式からパーティーには出席したのか?」

「そんな場合じゃ……ルイーゼ様も、理解してくれてます」


 当然だ。ルイーゼ嬢ほど出来た人間なら、自分のことを後回しにする。

 ただヴァージルから見ても、真面目すぎるきらいがあった。


「折角、社交場が設けられているんだ。ルイーゼ嬢と参加しろ」


 ルイーゼ嬢とシャーロット嬢が観戦に来ているのは、クラウディアを通して知っていた。


「急に言われても困ります。ルイーゼ様だって」

「ご令嬢がドレスの一着も用意していないわけがないだろう」


 出先で急遽パーティーに参加することは、ざらにある。

 貴族とはそういうものだ。


「うっ、だったらヴァージルも参加してください」

「誰を誘えと?」


 クラウディアなら、シルヴェスターと参加する。二人とも、そんな余裕はなさそうだが。

 興味を引かれたのか、報告書類に目を通していたシルヴェスターが顔を上げた。


「気になるご令嬢はいないのか」

「いない」

「では、信頼できるご令嬢は?」


 信頼、と言われて、ヘレンの顔が浮かぶ。

 最愛の妹が、専属の侍女にと推薦した人物。

 はじめはどうやって取り入ったのかと怪しんだが、偵察するのもバカらしいぐらい人柄が良かった。

 クラウディアを尊ぶ姿に偽りはなく、情報を共有している間柄でもある。


(タウンゼント伯爵家でおこなわれたお披露目式では見違えた)


 元伯爵令嬢であると知っていたつもりだが、侍女姿が頭に焼き付いていた。

 だからか、現れたときはその美しさに目を見張った。

 ふんわりと遊びを残して編まれた、菫色の髪。

 レイクブルーのドレスは、年相応に落ち着いた印象を与えるものの、空気を含んだスカートには遊び心があった。

 別人かと思ったくらいだ。

 親友に見せる顔、クラウディアに見せる顔を目の当たりにして、等身大の彼女を知った。


(しっかりしているイメージだった)


 一つ年上というのもある。

 泣き顔も見たことはあるが、切迫した状況だったため、幼くは感じなかった。


(誰だって、あんな隙を見せられたら可愛く感じるだろう)


 クラウディアを相手に、緊張が解けたのを目撃した。

 呟きが悪く捉えられていると思い、言葉を尽くした。


(心惹かれたというのは、言い過ぎだったか)


 自分の心境を正確に伝えるのに集中して、他人からどう受けとめられるかまで考えが及んでいなかった。


(ヘレンが化粧直しから戻る頃には、平静を取り戻せていて良かった)


 黄金の瞳と目が合い、意識が引き戻される。


「今、頭に浮かんでいるご令嬢を誘ったらどうだ」

「そうですよ! 一緒に行きましょう!」

「勝手に盛り上がるな」


 それこそ、ヘレンには侍女の仕事がある。誘われても迷惑だ。

 必要な報告は終わったと判断して、部屋を辞する。

 決して、逃げたわけじゃない。

 ドアを開けたところで、最愛の妹とかち合った。

 結婚式について、シルヴェスターと話し合うことがあるらしい。


「お兄様、ちょうど良かったですわ。ヘレンを社交場に連れて行ってくださらない? わたくしは手が離せそうにないの」

「お前はヘレンがいなくていいのか?」

「侍女は他にもおりますから。ヘレンも早めに社交界へ顔を出しておいたほうがいいかと」

「ふむ、ならば引き受けよう」


 妹の頼みを断る気は、毛頭ない。

 背後から幼馴染み二人の声が聞こえる。


「素晴らしいタイミングだ」

「偶然ですか? でもこれで逃げられませんね!」


 どこかで倍にしてやり返そうと誓った。

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