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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章完)【アニメ化決定】  作者: 楢山幕府
第十章

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22.悪役令嬢は諭す

 これで終わりじゃない。

 自分たちは、まだまだやれると勢いに乗る。

 観客の手拍子が最高潮に達していた。

 熱意が大きな塊となり、選手たちを後押しする。

 同じ形で、またもや「紺青のレーヴァン」の裏抜けが成功する。

 もう一点。

 しかしこれはゴールネットを支えるポストに当たって、得点には至らなかった。

 「黄金の草原」が、崩れた守備を立て直して再起を図る中、時間は着々と過ぎていった。

 結果、「紺青のレーヴァン」の一点が決勝点となり、勝敗が決する。


「やりました! 勝ちましたよ!」

「ええ、前半はどうなることかと思ったけれど、良かったわ」


 うんうん、とヴァージルも頷き、勝利を噛みしめた。

 ヘレンが三階の貴賓席へ目を向ける。


「シルヴェスター殿下は残念でしたね」

「とはいえ、これで終わりじゃないもの。すぐに切り替えられるわ」

「まだ、はじまったばかりだ。どうなるかは誰にも読めないさ」


 リーグ戦は、全クラブ総当たりでおこなわれる。

 一勝につき、勝ち点が三点与えられ、引き分けの場合は双方に一点ずつ分配された。

 最終的に勝ち点が多いクラブが優勝する仕組みだ。

 同点のクラブがあった場合は、全試合での得失点が計算され、得点数の多いほうが優勝となる。

 まだまだ、これから。

 だというのに。

 互いの健闘を讃えて別れるため、選手たちが整列したときに問題が起こった。

 試合開始前と同様に、審判を中央にして、一列に並んだときだ。

 青いシャツを着た「紺青のレーヴァン」の選手に向かって、黄色いタオルマフラーが投げられる。

 一つがピッチに落ちると、二つ、三つと数が増していく。


「国への反逆だ! この反逆者め!」

「王太子殿下へ詫びろ!」


 選手の本業は、騎士だ。

 平民に感情をぶつけることなく、耐えている。

 けれどスタジアムを包む熱気が、悪い方向へ働いていた。

 遂には投げ込まれたタオルマフラーが選手に当たる。


(敗者にとっては、勝者が悪だとしても……!)


 仮面を外し、クラウディアは立ち上がった。


「お兄様、ここはわたくしにお任せください」


 観客席側では警ら隊も動いているだろう。

 しかしクラウディアには語るべきことがあった。

 毅然とした態度で選手たちの前へ出る。

 足下には無数のタオルマフラーや革の水筒が落ちていた。投げられるものが限られたのは、入場時に手荷物検査をしているからだ。


 ――緩やかなクセのある長い黒髪に、つり上がった目尻。


 青い瞳を持つ令嬢の正体を、知らない者はいない。

 王太子の婚約者の登場に、観客席の酔いも一気に冷めた。

 平民たちは、スタジアム内に貴族がいることを思いだし、顔を青くする。

 罵詈雑言が禁止されている理由はなんだったのか。

 逃げだそうとする観客すらいた。

 クラウディアは深く息を吸い込み、発する。


「あなた方は現実と向き合わなければなりません」


 凜とした声がアリーナに響き、観客席へ到達した。


「シルヴェスター殿下ではなく、わたくし、クラウディア・リンジーがあえて指摘いたしましょう。醜い行為だと! これには敬愛も何もありません!」


 ストレスが溜まったからといって、選手にあたっていい道理はない。

 ましてや。


「お忘れですか? 試合前、ギーク枢機卿がピッチに口付けられたことを」


 指を使われたが、意味は同じだ。


「ピッチは祈りの場のようなもの、神聖な場と認められたのです。あなた方は、教会へ向けて、ものを投げたのだと自覚なさい!」


 そもそも教会の教えに、人にものを投げていい考えなどないことを思いださせる。

 熱の沈静化に合わせて、声のトーンも落としながら諭した。


「わたくしも試合を観ておりました。前半の流れには、やきもきしました。皆がどのような気持ちを抱いたのか、痛いほどわかります。応援するチームが負けて、さぞ悔しかったでしょう。行き場のない感情をコントロールできなかったのでしょう。とはいえ、教えを破っていい理由にはなりません」


 倫理は、生活の基盤になるもの。

 蔑ろにさせるわけにはいかなかった。


「反省するお気持ちはおありですか? あるのなら、今回だけは罪に問いません。ギーク枢機卿もおられます。他にも修道者を頼れば、激昂する気持ちとの折り合いの付け方について相談にのっていただけるでしょう」


 起こってしまったものは仕方がない。

 繰り返させないことが大事だった。


「わたくしは信じます。試合をとおし、気持ちを一つにできた皆なら、やり直せると。敬愛を忘れないでください。審判をはじめ選手たちが、公平性の体現者であるのです」


 観客席に視線を巡らし、次いで選手たちを見る。


「ここに、各チーム十一人の尊き戦士たちがいます。わたくしは皆に、十二人目の戦士になっていただきたい」


 選手に思いを託す観客は、部外者ではなく、当事者だ。

 ならば選手たちと一緒に敬愛と公平性を担い、戦う仲間なのだと訴える。


「『黄金の草原』を応援していた方々に問います。あなた方の仲間は、もう全てを諦めているでしょうか? 次を見据え、闘志を燃やしていませんでしょうか?」


 まだリーグ戦の一試合目。

 いくらでも挽回するチャンスはある。


「わたくしは『紺青のレーヴァン』の忍耐力と、『黄金の草原』の不屈の精神に敬意を表します! さぁ、十二人目の戦士たち! 皆で、両者による素晴らしい試合に、盛大な拍手を送りましょう!」


 クラウディアは選手たちに向けて、力いっぱい手を叩く。

 鼓笛隊が太鼓を轟かせ、瞬く間にスタジアムは拍手で包まれた。

 選手たちを讃える歓声が上がる。

 名前を呼ばれた選手たちは笑顔で答え、ピッチをあとにした。

 席に戻ったクラウディアを、ヴァージルとヘレンが迎える。


「ディーのおかげで助かった。俺が出ていたら、ただ粛正の恐怖を煽っただろうからな」

「力添えができて良かったですわ」


 クラウディアとしては、女性である自分が前に出ることで、他の禁止事項についても思いだしてほしかった。

 定められているのには、理由があることを。


「グラスターにおいて、信仰心が薄いと判断されたら良いことにはなりませんもの」


 王家発祥の地は、歴史的な重みがある。

 観客はグラスターの住民に限らないものの、開催地なのは不動の事実。

 不信心だという噂が立っては、目も当てられない。


「さすが聖女様の補佐役(アプリオリ)だ。ギーク枢機卿も悪いようには取られないだろう」

「いつか聖女様にもご協力いただきたいですわね」

「ふむ、教会主催の試合があっても面白いかもな。近隣国へも参加を促して」

「お兄様、まだ国内のリーグ戦が終わっていませんわよ」

「わかっている。だが折角、ギーク枢機卿がおられるのだから、話をしてみるのはいいだろう」

「無理のない範囲でなら、構いませんわ」


 放って置いたら、更に仕事を増やしかねなかった。

 フットボールのことになると、ヴァージルは歯止めが利かないようだ。


「わたしはクラウディア様にものが当たるのではないかとハラハラしました」

「さすがにそのときは、騎士が盾になってくれるわ」


 現在はフットボールに専念しているが、現役の騎士たちである。

 『黄金の草原』にとっても、クラウディアは警護対象だ。


「言われてみれば、そうですね」

「心配してくれてありがとう。なんにせよ、騎士たちが相手で良かったわ」


 選手が訓練を受けていない民間人だったら、統率が取れず、騒ぎが大きくなっていたかもしれない。

 うむ、とヴァージルが答える。


「他のクラブのほうが、試合経験は豊富だ。とはいえ、有事への対応は、騎士たちのほうが心得ているだろう」


 基本は、上官から指示があるまで動かない。

 日々の訓練で身に付いたものは、確固とした柱になっていた。

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