31.悪役令嬢は生徒会に参加する
授業が本格化するのに合わせて、生徒会の活動も正式にはじまった。
生徒会がある日は、四人揃って生徒会室へと向かう。
「僕だけ椅子に座らせてもらえないんですよね」
トリスタンはシルヴェスターの護衛としているだけなので、生徒会室にいる間は、ずっと立ちっぱなしだった。
項垂れるトリスタンに、フェルミナが気遣わしげに声をかける。
「お辛いですよね。お兄様に相談しましょうか?」
「大丈夫です。お小言が倍に増えるだけですから……」
トリスタンも自分の立場はわきまえている。
ただグチをこぼしたくなっただけだ。
「会長は屋敷でもあんな……いや、フェルミナ嬢も、クラウディア嬢も優秀でしたね」
口うるさいのか訊こうとしたところで、自分とは違うことに気付いたのだろう。
途中で自問自答が成立した。
「お姉様は凄いですが、あたしはまだまだで。厳しい視線を向けられることも多いです」
「フェルミナ嬢でもですか! 僕だけじゃないなら、救われます」
フェルミナが厳しい目で見られるのは、当人の言動のせいである。
けれど、にこにこと笑うトリスタンがそれを知る由はない。
ちらりとシルヴェスターだけが、クラウディアへ視線を送る。
しかし二人の和やかな会話に、割って入るつもりはなかった。
不仲説はまだ残っているものの、表向きクラウディアとフェルミナの関係は良好だ。
あえてそれを壊す必要もないだろう。
と、クラウディアは思うのだけれど、フェルミナは違った。
「意外だったんですけど、お姉様はあまり殿下とお喋りしないんですね」
何かと絡んでは、クラウディアに責められる可哀想な妹を演出しようとする。
「わたくしばかりが独占するわけにはいきませんから」
「でも今だって……ちょっと冷たくありません?」
会話がないのはどうかと言いたいらしい。
クラウディアからすれば、シルヴェスターの好みの問題だ。
ずっと話しかけられたい人もいれば、そうじゃない人もいる。シルヴェスターは後者だろうと当たりをつけながら、当人を見上げた。
「そうかしら? シルヴェスター様はどう思われます?」
「クラウディアとの会話は歓迎するが、常に機嫌を取って欲しいわけではないな」
放っておけば、誰かしらから話しかけられる人だ。
クラウディアの予想は当たっていたようで、シルヴェスターに気にした様子はない。
「殿下はお優しいんですね」
フェルミナには、シルヴェスターがクラウディアの意思を尊重したように聞こえたのか、いたわるような笑みを見せる。
その茶色い瞳は、姉と付き合うのは大変でしょうと語っていた。
的外れなフェルミナの反応に、クラウディアはこめかみに手をあてる。
(自分の良いように解釈し過ぎでしょう)
下手をすれば相手への失礼になりかねない。
しかしシルヴェスターは穏やかな笑みを浮かべるばかりで、相変わらず感情を見せなかった。
もしかして面白がっているのだろうかと、ヴァージルの言葉が脳裏に蘇る。
――あいつは人の醜い部分を楽しむところがあるからな。
フェルミナの醜い、というより歪んだ部分に触れ、楽しんでいるのだろうか。
何となくそんな気がして、フェルミナも報われないな、と思った。
生徒会室へ入れば、トリスタンがシルヴェスターの後ろに立ったのを合図に、会議がはじまる。
議長は、生徒会長であるヴァージルが務めた。
「毎年、生徒会では大きな催しを企画する。それを成功させることで、今期の生徒会の力を証明するのが狙いだ」
学園は学び舎であると同時に、社交場でもある。
生徒に力関係をわからせるのはもちろんのこと、親である貴族にも自分たちが優秀な後継だと見せる必要があった。
「みんなには今年は何をするか意見を出してもらいたい。手元に配ってあるのは、昨年までの資料だ」
一斉に資料を捲る音が響く。
クラウディアもそれに倣ったが、提案する内容は決めていた。
何せ、企画された催しを「知っている」。
(ズルをしているようで、後ろめたいけど……)
ズルというなら、やり直し自体がそうだろう。
これも、きまぐれな神様の采配だ。
とは思うものの、気後れしてしまうのには理由があった。
元の発案者がフェルミナなのだ。
だから前のクラウディアをはじめ、古参貴族は反発した。
けれど結局は、生徒会が古参貴族を鎮め、フェルミナが新興貴族をまとめたことにより、催しは成功に終わる。
今回クラウディアが提案すれば、古参貴族の反発は防げるはずだ。
新興貴族寄りの企画であるため、王族派であっても中立のリンジー公爵家――ヴァージル――も主導しやすい。
諸々を考えた結果、代案を考えるより、元々の企画を提案することに決めた。
(既に案が頭の中にあるなら、フェルミナは面白くないでしょうね。でもわたくしだから、できることもあるはずよ)