表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/441

30.悪役令嬢は王太子殿下を知る

「醜聞になるから、あれの虚言癖については公言していない。だが俺があれを認めていないことは、生徒会役員には伝えてある」


「そうだったのですね」


「加えて、卑屈になりやすいとも言っておいたほうがいいな。どうせまたディーにイジメられていると言い出すに違いない」


 その光景がありありと浮かんで苦笑する。

 しかし学園でなら、フェルミナを信じる者――便乗する者――も出てくるだろう。


「ずっと領地から出さなければいいものを。結局、父上はあれに甘い」


「親心でしょう。致命的な間違いは犯していませんから」


「俺たちにはない親心か。それも時間の問題だろうがな」


 言い捨てるヴァージルに、最近はそうでもないですよ、と一応父親のフォローをしておく。

 クラウディアとヴァージルが恨むことを伝えてから、父親は二人の意見を尊重するようになった。

 今更感が拭えないけれど、されないよりはマシだ。


「だが現状では、領地に戻すほどとはいえない。自滅してくれるのが一番なんだが……殿下には、あれのことを話しているのか?」


「シルヴェスター様なりに察しておられるわ」


 フェルミナのあざとさも看破していた。

 お茶会で話したことも覚えているだろう。

 クラウディアの答えに、ヴァージルは苦笑を浮かべる。


「あいつは人の醜い部分を楽しむところがあるからな」


「……それだと性格が悪いように聞こえますわよ」


「言ってやるな。あいつなりの処世術だ。第一王子の立場は、何かと悪意に晒されやすい」


 誰よりも守られる立場であり、危険でもある。

 国内に限らず、他国の相手もしなければならない重圧は、どれほどのものだろう。

 シルヴェスターは学園に入る前から、本番を強いられている。

 廊下を歩く背中を思いだす。

 同じ服でも、まるで違うように見えた後ろ姿を。

 既に為政者たらんとしているシルヴェスターに比べれば、自分の手管など幼稚に思えた。

 考えに耽りそうになるのを、ヴァージルの声が呼び戻す。


「だがディーが隣にいれば、あいつも心強いだろう」


「そうでしょうか? お兄様とのほうが親しく見えましたわ」


 シルヴェスターとも、トリスタンとも。

 いつの間に仲良くなられていたの? と首を傾げて問う。


「すまない、ディーにはあえて黙っていた。……後ろめたいのもあってな」


「後ろめたい?」


「王城に呼ばれていたのは、母上が生きていた頃だ。こう言えば、わかるか?」


 厳格な母親が生きていた頃、屋敷の空気は常に張り詰めていた。

 ヴァージルにとって、シルヴェスターたちと遊ぶ時間が、何よりの息抜きだったという。


「ディーは、俺が忙しくしていると思っていただろう? けれど実は、王城で遊び回っていたなど、とても言えなかった」


 俺も父上と同じように、ディーを置いて逃げていたんだ、と続くヴァージルの言葉を、クラウディアは強く否定した。


「同じではありません! むしろわたくしは、お兄様に息抜きできる場所があって良かったです」


 子どもにとって、当時の屋敷の雰囲気が良かったとは到底思えない。

 もし逃げ場所がなければ、ヴァージルの性格も、前のクラウディアのように歪んでいたかもしれなかった。


「許してくれるのか? ディーを一人置いていったのに」


「シルヴェスター様の遊び相手として呼ばれたのはお兄様だけですもの。仕方なかったのです。それにお母様が亡くなってからは、傍にいてくださりましたわ」


 一緒に過ごす時間が少し増えたぐらいだが、ヴァージルはずっとクラウディアのことを気遣ってくれていた。

 そして、それは今も変わらない。


「責めたかったわけではないのです。ただ楽しそうなお二人の雰囲気が羨ましかったの」


「トリスタンには口うるさく思われてそうだがな」


 確かに、彼に言っていたのはお小言だった。

 生徒会室でのやり取りを思いだして笑う。


「そんなにトリスタン様は勉強が苦手なのですか?」


「稽古にかこつけて逃げるんだ。騎士は武術が優れているだけではいけないというのに」


「曲がったことがお嫌いな割りには、勉強からは逃げられるのですね」


「そうなんだ! ディーからも言ってやってくれ。正道を歩みたいなら、文武両道を目指せと」


 しかしクラウディアまで口うるさくなったら、トリスタンは兄妹から逃げるようになるだろう。


「シルヴェスター様は何も仰らないのですか?」


「殿下は俺たちのやり取りを面白がっているだけだな」


「やはり性格が悪いように聞こえるのですけど」


「……最終的には口を出されるから、そうでもない。多分」


 ヴァージルの返答は、概ね肯定しているようなものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ