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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第六章

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02.悪役令嬢は女の園に足を踏み入れる

 いよいよ、とクラウディアは馬車の中で背筋を伸ばす。

 今日は既婚者だけが集まるお茶会に招待されていた。

 招待客は、当主の妻や次期当主の妻に限られる。

 まだ未婚のクラウディアに参加資格はないが、王妃の兄嫁であるパトリック夫人から予行練習にとお声がかかった。前もって既婚者の知人を作る場を設けてくれたのである。

 本来なら母親が手引きすることだ。

 しかし実母が他界し、継母の力が十分といえない状況のクラウディアにとっては、難しい話だった。


(リリス様も頑張ってはおられるけど)


 社交界の目は厳しい。

 一代男爵の娘という生まれが足を引っ張っていた。

 今はリンジー公爵夫人よ、と強気でいられたら違ったかもしれないが、リリスは押しの強い性格ではなかった。公爵家に入ったのも、父親が強行した結果だ。

 そんな父親の両親――クラウディアにとって父方の祖父母は、兄のヴァージルが産まれた直後に早逝している。元々祖母は体が弱く、後継者の誕生を聞いて安心したかのように眠りについた。祖父は祖母のあとを追うように亡くなったと聞いている。

 母方の祖父母は健在だが、夫が平民同然の女性と浮気するのを止められなかった母親をなじるような人たちだった。クラウディアの婚約を機に近付いてきたものの、交流は最低限に留めている。


(父親が健在なだけマシ、といったところかしら)


 娘からすれば思うところのある父親であっても、社会的には頼れる人だ。

 シルヴェスターの婚約者でいられるのも、公爵の娘であるのが前提条件だった。身分がなければ、どれだけ器量が良くても話にならない。


(お茶会は、王妃殿下が手を回してくださったのでしょうね)


 王妃の兄嫁であるパトリック夫人とは、式典などで挨拶を交わした程度の面識だった。

 歳は四十二で、王妃のいとこにあたる。

 気になるところもあるが、機会を与えられたのは有り難かった。

 令嬢たちとのお茶会は数え切れないほどしている。

 けれど夫人たちのお茶会は、似て異なるものだ。

 情報収集という面では同じだが、集めた情報を自分のために使う令嬢に対し、夫人は夫、ひいては嫁いだ家のために使う。それが回り回って、自分の立場を確固たるものにするからだ。

 慣れるには場数を踏むしかない。

 夫人たちのお茶会は、逆行前の人生を合わせても、クラウディアには未開の地だった。


 会場となるサンセット侯爵家の屋敷に到着する。

 王妃の生家であるサンセット侯爵家では、まだ父親が当主を務めている。嫡男である王妃の兄、パトリックは次期当主という身分だ。

 夫が爵位を継いでいる場合、夫人は家名で呼ばれる。

 まだの場合は夫の名前で呼ばれるため、王妃の兄嫁は「パトリック夫人」が現在の呼称で、夫が爵位を継げば「サンセット侯爵夫人」へと替わった。

 馬車から降りると秋の花々が色付く庭園へ通される。

 温かい日差しの間を涼やかな風が通り抜け、花の香りが鼻腔をくすぐった。外でお茶会を開催するにはちょうど良い時季だ。

 クラウディアは主催者であるパトリック夫人と挨拶を交わす。 


「リンジー公爵令嬢、ようこそおいでくださりました。こうして親しい者だけが集まる場で、お会いできて嬉しいですわ」


 パトリック夫人は長い鈍色の髪を後頭部でまとめていた。

 王妃を倣ってのことだろう。活動的な王妃は髪をまとめていることが多く、夫人たちの間で流行っていた。ヘアスタイルに凝る人は、盛り髪にしたりもする。

 お茶会ということもあって華美さは控えめだ。

 ドレスは粉雪色で慎ましく、それでいて胸元に大きく入った刺繍が華々しい。

 すっきりとしたデコルテが夫人の骨格の良さを窺わせた。

 ベージュの瞳が弧を描く様は、キツネを連想させる。


「本日はお招きいただきありがとうございます、パトリック夫人。わたくしも、お会いできるのを楽しみにしておりました」


 まだ未婚であるクラウディアは、招待客の中で一人だけ髪を下ろしていた。夫人たちの流行りを令嬢が踏襲するのは、あまり良くないとされている。

 それでも毛先が広がり過ぎないよう、編み込みでハーフアップにしていた。

 エッグシェルブルーのドレスは、銀の刺繍が光沢感を与え、アクセントに金色が用いられているが、全体的に見ると派手さはない。

 袖と胸元に付けられたリボンだけが年若さを主張した。

 お茶会の招待客は母親と同世代か、それより上だ。

 若さが嫌みにならないよう、配慮したデザインだった。


(あまり意味はなさそうだけれど)


 クラウディアがどんな装いをしていても、この場にいる夫人たちは気に入らないだろう。

 笑みの中に隠された冷ややかな視線に、早くも状況を察する。

 この場には好意など、かけらもないことに。

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