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断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す(第十章連載中)【書籍、コミカライズ、オーディオブック化】  作者: 楢山幕府
第五章

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31.悪役令嬢は少女たちと出会う


 夜、用意された部屋でキールは腕を組んで考え込んでいた。


「ぼく、やっぱり礼拝堂の地下が気になる」

「ええ、わたくしもよ」


 村長から話を聞く前から、二人は調合室を調べていたが怪しい点は見当たらなかった。

 鎮痛薬が作られているのは間違いなさそうだが、媚薬や洗脳薬に関する資料がなかったのだ。

 しかし、揃って気になっていることがあった。

 考えは同じだと、夫婦が寝静まった頃合いを見計らい、クラウディアとキールはそっと家を抜け出す。


 外ではかがり火が焚かれていたが、設置場所は限られていた。

 村の出入り口と厩舎だ。

 村から出ようとする人間を見張るためなのは考えなくともわかった。

 明かりを持っていると目立つので、手探りで闇夜を進む。

 気配を殺しながら慎重に。

 遅い歩みに焦燥が募るも、村人にバレたら意味がない。

 キールと二人、十分注意を払っていたはずだった。


「っ!?」


 角で人とぶつかりそうになる。

 咄嗟に手で口を覆い、声を呑み込んだ。

 相手も似たような反応を見せる。


(アイラ……?)


 彼女も明かりを持っていなかった。

 お互い気配を殺していたから、接近を察知できなかったのだ。

 でも何故、村人である彼女が闇に潜んでいるのだろうか。


「ディーさん? キールくんもいる?」

「ええ、いるわ」


 小声で確認し合う。

 アイラの後ろにも数人の気配があり、彼女も訳ありなのだと知る。


「実はディーさんに話があってきたの」

「わたくしに?」

「ここだと場所が悪いから、付いてきてくれる?」


 アイラに先導され、林の入口まで進む。

 民家から距離を取ったところで、彼女は歩みを止めた。

 そのあと体を屈めるよう促される。

 少しでも見つかりにくくするためだ。


「キールくんはまだ儀式に参加させられないと思うから、注意してほしいのはディーさんなの」

「毒を浄化するための儀式ね」

「毒なんてないわ! あんなの嘘っぱちよ!」


 確認のため発した言葉にアイラが激昂する。

 隣にいた少女が慌ててアイラの口を塞ぐ。


「ちょっ、アイラってば声が大きいっ」

「ごめん……」


 アイラの傍には二人の少女がいた。

 友人に謝りつつも、アイラは必死の形相でクラウディアに訴えかける。


「本当に毒なんてないの。あったら、あたしたちが無事なはずないもの」

「あたしたちっていうことは……」

「あたしたち、三人とも両親と村の外から来たの」


 貧しい暮らしをしていたところ、この村の人に声をかけられたのだという。

 村へ移り住めば衣食住に困らないと言われ、両親はその話にのった。


「父さんも母さんも毒に侵されてるからって儀式を受けたわ。でもそれからおかしいの」

「おかしいってどういうふうに?」


 思想を別にすれば、旦那も奥方も普通の夫婦に見えた。


「上の空になることが増えて……一番、おかしいのは……」


 アイラが友人をちらりと窺う。

 視線を受けた少女は、眉尻を落とした。

 重たいものを背負っているかのように口を歪め、たどたどしく語る。


「わたしの、おかあさん、赤ちゃんがいるんだけど、おとうさんがわからないの」

「その赤ちゃんだけじゃなくて、村で産まれた子は、お父さんが誰かわからないのよ。儀式で授かった子だからって」


 ああ、と天を仰ぎたくなる。


「おかしいでしょ? 赤ちゃんはこの子のお父さんの子のはずなのに」


 彼女たちが、赤子の父親が不明である理由をどこまで理解しているかはわからない。

 ただ少なくとも身重の母親を持つ少女は、その事実に耐えきれず涙を流した。

 たまらず、少女を抱き寄せる。


「大丈夫、あなたが怖がることはないわ。あなたは何も悪くないもの」

「うっ、うう、おとうさん、今夜、村長さんの家に行ってるの。おかあさんと話してるの、聞いて……」

「村長の家?」


 嗚咽を漏らす少女に代わって、アイラが語る。


「村長は大人を一人か二人、定期的に招くの。そこで儀式と似たことをするのよ」


 ぐっと奥歯を噛みしめる。

 アイラたちは両親の不義を察しているのだ。

 その裏切りがどれだけ自分の根幹を揺るがすか、クラウディアは身をもって知っている。


「何が幸せの村だというの」


 村長から挨拶を受けたときを思いだす。

 彼女はこの村を幸せの村だと言っていた。


「これだけの不幸を生み出しておいて」


 辛かった。

 少女たちが今もなお傷ついている状況が。

 そこからすぐ救いだせない事実が。

 自分自身、捕らわれている無力さに体が震える。

 けれど嗚咽を漏らしていた少女は、クラウディアの言葉に涙を止め、顔を上げた。


「わかって、くれるの?」

「ええ、あなたたちの気持ちは良くわかるわ」


 同意すると、アイラは友人とは違う種類の涙を瞳に浮かべた。


「良かった……! あたしたち、間違ってなかった」


 おかしいと主張しながらも日に日に自信がなくなっていたらしい。

 村がおかしいのではなく、自分たちのほうがおかしいのではないかと。

 村の教えでは実際、彼女たちのほうが異端だった。

 同調圧力に屈さず、抗い続けた彼女たちの強さに、クラウディアは励まされる。


「よく、今まで頑張ったわね」


 きっと何回もくじけそうになったに違いない。

 遂にはアイラの目からも大粒の涙がこぼれ出す。

 自分たちの考えを認められた安心感からだった。


「でも、ディーさんも、儀式をしたら考え方が変わっちゃう」

「お願い、ディーさんは逃げて!」


 驚くことに、彼女たちは独自に村からの脱出方法を練っていた。


「夜、世話役の大人が寝静まったあとなら、共同生活している寮から簡単に抜け出せるの」


 昼は言い渡された仕事をしながら、夜はこうして抜け出して、村人の目につかない場所を探ってきたのだという。

 その過程で両親の不義も知ってしまった。


「夜ならかがり火が焚かれている場所以外は、自由に行動できるわ」

「でも村の出入り口は一か所よね?」


 かがり火の傍を通らないと脱出は不可能だ。


「うん、だから、あたしたちでかがり火を消すのはどうかなって」


 見張りがアイラたちを捕まえている間に、クラウディアとキールを逃がす。

 少女たちは捨て身の覚悟だった。


「あたしたちが頑張る代わりに、村外の人に村がおかしいって伝えてほしいの」


 彼女たちなりに一生懸命考えたのは、痛いほど伝わってきた。

 けれどクラウディアは首を横に振る。


「どうして!? 村がおかしいってディーさんもわかってくれたじゃない!」

「わたくしが受け入れられないのは、そこではないわ」


 脱出にはアイラたちの協力が必要になるだろう。

 一時でもクラウディアたちから村人の注意を逸らさなければ、村から出られない。

 とはいえ。


「あなたたちが犠牲になるような方法はダメよ」

「でも時間がないの! 助けを呼んでもらわないと!」


 アイラの悲痛な声に、少女たちの中で一番体付きがしっかりしている子が口を開く。


「わたしが大人になったから……」

「誕生日を迎えたの?」


 少女たち三人は同世代に見えた。

 外見が幼いだけで彼女だけは年齢が飛び抜けているのだろうか。

 そう思い、訊ねた。

 少女はううん、と否定する。


「初潮がきたんだ。女の子は初潮が、男の子は精通したら、村では大人になる。子どもたちが共同生活するのは、それを見逃さないためだよ」


 朝、子どもたちの服を洗濯していた女性の姿が頭に浮かぶ。

 彼女は子どもたちの下着が汚れていないか確認する係でもあったのだ。

 平凡な光景の裏には、信じがたい事実があった。


「は……」


 あまりのおぞましさに呼吸の仕方を忘れる。


「ディーさんの儀式が終わったら、次はわたしの儀式だと思う。子どもが大人になったら、お祝いに必ずするから」


 キールが手を握っていてくれなかったら、体から血の気が引いていた。

 父親が誰かわからない子を身ごもるような儀式を、年端のいかない少女にさせるなんて。

 初潮や精通は、体の成長過程で迎えるものであって、成熟を意味するものではないというのに。


(調合室で村長がキールに触れていたのは、確認のためだったの?)


 止めに入って良かったと心から思う。

 同時にあそこで手を出す神経が信じられなかった。


「わたし、儀式なんかしたくない! 子どもなんかほしくないよ!」

「させないわ」


 不快感で張り付く喉から声を絞り出す。

 怒りでこめかみが焼けるようだった。


「誓うわ、これ以上、儀式を繰り返させないと」


 不幸の根は、ここで絶やす。

 黙って話を聞いていたキールも、はっきり声に出して答えた。


「うん、ぼくたちの手で終わらせよう」


 揺るぎない言葉に少女たちがほっとした表情を見せる。

 目がつり上がりそうなのを自制して、クラウディアは微笑みを浮かべた。


「安心して、もう助けはこちらへ向かっているわ」

「本当!?」


 シルヴェスターは北部にある村の位置を把握していた。

 キールの推測をヘレンから聞いていれば、捜索隊を出してくれているはずだ。


「だから待っているほうが確実なのだけれど」

「ディーさんも、儀式は受けちゃダメだよ!」

「そうね、わたくしの儀式が決まったら、村から脱出しないといけないわ」


 早ければ明日の夜だとアイラが言う。


「ルノーが――村の男性なんだけど、彼が早馬を走らせたの。外にいる相談役に連絡しに行ったんだと思う」


 相談役と聞いて白髪交じりの碧眼が浮かぶ。


(ナイジェル枢機卿は国外にいるはずだから、そんなに早く連絡が取れるかしら?)

「キールくんのこととか、今までも連絡に行ったことがあるの。何事もなければ明日の朝には帰ってくるはずよ」

「儀式は夜におこなわれるものなのかしら?」

「そう。日中の間に身を清めたりするの。夜になったら村長の家に大人たちが集まって、はじめられる」

「もしかして、アイラたちは今夜わたくしを逃がすために来てくれたの?」

「じゃないと間に合わないもん!」


 アイラたちの案は、彼女たちがかがり火を消している間に、夜陰に紛れて逃げるというもの。

 とにかく儀式がはじまる前にクラウディアを逃がそうとしてくれているのだ。

 一大決心をして、寮を抜け出してきたアイラたちに胸がいっぱいになった。


(彼女たちの思いを無駄にはしないわ)


 そのためにも提案を断る。


「先ほども言ったけど、あの方法はダメよ。アイラたちが罰を受けてしまうでしょう?」

「でも……っ」

「別の方法を考えるわ。そのためにもアイラたちの持っている情報が欲しいの。わたくしとキールを信じて協力してくれるかしら?」


 アイラは焦燥を募らせていたけれど、クラウディアが諦めたのではないと知ると反応は早かった。

 瞳の光が、頼りがいのあるものに変わる。


「信じる。協力するわ!」


 隣にいる二人の少女からも信頼の眼差しを向けられ、ありがとう、と微笑む。

 クラウディアは立ち上がると、自分の足で大地を踏みしめる力強さを彼女たちに見せた。


「あなたたちのことは、わたくしが必ず救い出してみせるわ」


 これ以上、不安を抱えることはないと。

 誰にも少女たちを害させないと約束する。


「わたくし、これでも村長より力があるのよ」


 アイラたちはクラウディアが公爵令嬢であることを知らない。

 にもかかわらず、助けを呼ぶためとはいえ、クラウディアを逃がそうと自らの犠牲を厭わなかった。

 今度は自分が報いる番だ。

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